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外伝ー9 デュ・バリー夫人とその他のこと

 デュ・バリー夫人や首飾り事件は、この世界ではどうなったの?

という感想があったこともあり、改めて投稿しました。

 私は正直に言って、フランスの宮廷内の対立、ルイ15世の公妾であるデュ・バリー夫人とルイ15世の娘(夫のルイ16世の叔母でもある)アデレード王女達3人の対立、喧嘩には自分がこの過去の世界への転生に気付いた時から関わりをできる限りは避けるつもりだった。

 何故ならば、私の前世が21世紀のフランス人である以上、史実のこの女同士のフランスの宮廷内での対立は、フランスに嫁ぐ以前から私には既知のことでどうにも面倒極まりないことだったからだ。

 だからこそ、この対立から自分は逃れたいという側面もあって、夫のルイ16世との初夜から房事に私は励んで速やかな妊娠出産を心掛けたのだ。


 そして、件の生首事件のお陰でアデレード王女達3人に最初から私は思い切り敬遠されてもいた。

 そのために公式の場の際の立ち居振る舞い等について、史実と異なってアデレード王女達から忠告という名の告げ口攻勢を受けることは無かった。

(それに私は最初の妊娠の際、フランス国王の御世継を身籠ったかもしれないのに流産や早産をしては困るから、という口実を振りかざして初夜から最初の出産が済むまで公式の場に出ることを避けまくった)

 とはいえ、王太子妃である私が、いつまでも公式の場に出ない訳には行かない。


 私にとって長子となるルイのお産が済んで心身が安定した後、私は公式の場に出ざるを得なかった。

 そして、その最初の場でデュ・バリー夫人にすぐに親しげに私は声を掛けて、アデレード王女達から反感を私は買いまくる羽目になった。

 もっとも、これには私なりの贖罪の考えがあってそうしたことだった。


 史実の流れを知る身としては、デュ・バリー夫人にとっては地獄行きと思われようとも、私なりにデュ・バリー夫人の身を護るためには、これ以外の方法をどうにも私は思いつかなかったのだ。

 また、デュ・バリー夫人は、私の意図を誤解してくれて、この後ずっとルイ15世が崩御するまで私との良好な関係を維持してくれ、私の良心はズキズキと痛むことになった。

 そして、ルイ15世が史実通りに天然痘にり患して崩御された後、私はデュ・バリー夫人を傍から見れば平然と裏切った。


「デュ・バリー夫人、姦通(そうデュ・バリー夫人は夫がいる以上、ルイ15世との関係は公然とした関係ではあったが姦通であることは間違いない)の贖罪のためにルイーズ・ド・ラ・ヴァリエール女公爵と同様にカルメル会のフォーブール・サン=ジャック修道院に一生入られては」

「えっ」

 ルイ15世が崩御された直後、私から放たれた冷たい言葉にデュ・バリー夫人は驚愕した。


(註、ルイーズ・ド・ラ・ヴァリエール女公爵はルイ14世の公妾で、ルイ14世の寵愛を失った後、カルメル会のフォーブール・サン=ジャック修道院に一生入って人生を送った。

 尚、カルメル会は数ある修道会の中でも、修業が取り分け厳しいことで著名な修道会でもある)


 デュ・バリー夫人としては、ルイ15世の崩御後、表面上は贖罪の姿勢を示すために一時的に修道院に入るつもりはあったが、ほとぼりが冷め次第、修道院からはすぐに出て、どこかの裕福な貴族の愛人にまたなり、優雅に生涯を送るつもりだったのだ。

 だが、私の言葉に従っては、今後のデュ・バリー夫人は全ての財産をなげうって、男性とも当然に付き合わず、修道女として一生暮らすことになる。


「何故に私がそのような生活を」

「夫(ルイ16世)が国王即位を機にフランス王国財政が破たん寸前にあることを公開して、フランスの国政改革の必要性を訴えることになっています。当然にフランス王室費を大幅に削減します。そうなった際に貴方は世論から指弾の的となるでしょう。世論から貴方を守るには、貴方に一生、修道院に入ってもらうしかないのです。貴方がそうすれば、命は保障しましょう」

 デュ・バリー夫人の質問に、私は敢えて冷酷に答えた。


「私が断ったら」

「命の保障はしない、と夫は言っています。私も夫に同意しています」

 言外にフランス王国財政破たんの最大の要因を、デュ・バリー夫人に私達が押し付けて、場合によっては死刑にするつもりである、と私は臭わせた。

 実際、デュ・バリー夫人は色々な面でフランス王室が全ての罪を押し付けるのに好都合な存在なのだ。

 デュ・バリー夫人は顔色を蒼白にして、暫く考えた末に。


「分かりました。カルメル会のフォーブール・サン=ジャック修道院に一生、私は入ります」

「そのお言葉、ルイ15世の死を悼むと共に贖罪の想いからの行動だ、と王室は発表しましょう。くれぐれも違う等の発言は控えられるように。もし、そんな発言が私や夫の耳に入ったら、どうなるか」

「重々分かっております」

 私達がそんなやり取りをした直後に、デュ・バリー夫人は修道院へ入り、修道女になった。


「デュ・バリーが、一生、修道院に入るとは思いませんでしたね」

「本当にこれまでの豪奢な生活を捨てて、一生、慎ましやかな生活を送れるのかしら」

 アデレード王女達は、デュ・バリー夫人を公然と嘲笑したが、当然のことながら、私の刃はアデレード王女達にも向けられている。


「ところで、王室費は今年の予算から大幅に削減します。アデレード王女殿下達、そのことをよくお考えの上で行動して下さい」

 私はアデレード王女達に言い渡した。

「はあ?」

 アデレード王女達は、私の言葉がすぐには理解できずに呆然とした。


「分かりませんでしたか。王室費を削ると言っているのです。これまでの巨額な王室費は、デュ・バリー夫人の要求にルイ15世が応じていたのが最大の原因だ、という理由から削られる予定になっているのです。だから、デュ・バリー夫人が修道院に入った以上、大幅に王室費は削られます」

 私は、アデレード王女達にそう言い渡した。


「冗談じゃないわ」

「きちんと王室費を確保して、私達に回しなさい」

 アデレード王女達は私を攻撃してきたが、私も腹を括っている。

「フランス王国財政は破たん寸前です。王室費から何から削るしかありません」

「何をバカなことを言っているの。庶民がパンを食べる必要はないの。パンが食べられないなら、ケーキでも何でも食べればいいの。庶民に税金をもっともっと払わせて、王国財政を立て直せば済む話なのよ」

 私の言葉に、アデレード王女は反論してきた。


「そんなことをしたら、庶民が暴動を起こしますわ」

「そうなったら、軍隊で弾圧して暴動を起こした庶民を容赦なく大量に処刑すればよろしい。そんなことも貴方は分からないの」

「分かりませんわ。そんなことをしたら、革命が起きますわ」

「神が王権を授け給わったフランスで革命が起きる訳がありません。神を貴方は信じないの」

 私とアデレード王女は論争する羽目になった。


「ともかく、王室費は削減します」

 私は強引に論争を一旦は打ち切ったが、アデレード王女達は諦めず、私は私で当てつけとして豆や豚の臓物を肉の代わりとして食べる等の行動でやり返す騒動が何年も続くことになった。


 そして、デュ・バリー夫人は修道女としての生活を表面上は穏やかに生涯を通じて送ったが。

 修道院内では自らを修道女にした私についてかなりの恨み言を陰で言い続けられたらしいが、フランス大革命が起きた後は、かなり自分のこれまでの行動を省みられて信仰の路を歩まれることになり、欧州大戦がフランスの勝利に終わった後の1813年まで長命された末に安楽に病で亡くなられた。


 また、私がフランスの様々な改革、終にはフランス革命まで行っている間、フランス王国の財政破綻の元凶としてデュ・バリー夫人は(私の意図もあって)かなり攻撃されたが、既に修道女になられた方をそんなに攻撃するのはどうか、と(私の意図を汲んで)夫のルイ16世が、デュ・バリー夫人を庇ったので、命を狙われるまでのことはなくて済んだ。

 更に言えば、文字通りの晩年に至った頃には、デュ・バリー夫人は内々にはフランス革命の際に私が命を狙われずにベッドの上で亡くなれるのは、ルイ16世のお陰だとまで感謝されて亡くなられたらしい。


 尚、件のデュ・バリー夫人の首飾り(史実では私の「首飾り事件」の元凶になった)だが、私が質素な生活を心がけたことから、ラ・モット伯爵夫人が私に近づくことを早々に諦めたことも相まって、宝石商のベーマーは速やかにバラ売りして損切りをしてしまったらしい。

(らしい、というのは、私がフランスの様々な改革に懸命になっており、件の首飾りの行方については噂話という形で知るしかなかったため。

 勿論、王妃の私の権力をもってすれば、もっと首飾りがどうなったかについての詳細を知ることは充分に可能だったが、下手に藪をつついて史実のような醜聞に塗れることを私は避けたのだ)


 そして、この世界の首飾りだが、後、もう少しルイ15世が長命していれば、デュ・バリー夫人の美貌を更に映えさせただろうに、そして、ルイ15世が崩御した後は、フランスの国税の一環として国庫に回収されることになったろうに、という無責任な噂話のタネになって終わった。


 後、更なる余談をすると、デュ・バリー夫人はフランス王国史上最後の公妾になった。

 私の夫ルイ16世は、私に心身共に溺れて公妾を生涯、持たなかった。

 ルイ16世の死後に即位した私の孫のルイ17世(註、史実のルイ17世とは異なります。史実のルイ17世はこの世界ではルイ16世に先立って崩御しており、史実のルイ17世の長子ルイが、この世界ではルイ17世になりました)は祖父の行動を見習い、自らも王妃マリア・ルイザを寵愛して公妾を生涯、持たなかった。

 そして、そういった状況が何十年も続いたことで、フランス王国の公妾制度は結果的に廃止になった。


 デュ・バリー夫人は意図せずにフランス王国史上最後の公妾として多くの歴史書に名を刻むことになった。

 また、その歴史書の多くでルイ15世を愛する余りに修道女になったと記述された。

 これで、改めて完結させます。


 ご感想等をお待ちしています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 外伝もいよいよ最後でどうなるのかな~と思っていましたが、とてもいい話的な終わり方(主にデュ・バリー夫人にとって)に、あれ?!っと笑ってしまいました。 外伝の最後として見ても、「主人公が(転…
[一言] 外伝完結お疲れ様でした!
[良い点] 完結お疲れさまでした! [気になる点] アデレード王女達は革命で酷い目にあってそう。 [一言] 今回の話は名前からつい懐かしのゼロ魔を思い出してしまう話でしたね。
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