外伝ー4 激突、アウエルシュタット2
アウエルシュタットでフランス近衛師団とプロイセン軍の激突が始まった時、私マリー・アントワネットの手元には第3近衛歩兵連隊しかいなかった。
その総兵力は約5000名、更にそれを率いるのはギュダン連隊長である。
指揮官とその部下の質に、私は全く疑念を覚えなかったが。
(後で正確には分かったのだが)最初の相手はワーテルローでフランス軍を最終的に破ったブリュッヒャー将軍率いるプロイセン騎兵約8000だった。
この世界で私が初陣で戦う相手としては、余りにも重すぎる相手だった。
しかし、私が従前から考えていた秘策がここで功を奏した。
「狙撃兵小隊、敵指揮官を狙い撃ちなさい」
この時代の歩兵の基本戦術の一つが、騎兵突撃には大隊方陣で応じるというものであり、私も夫と共に歩兵大隊方陣にその身を託す一方で、各大隊に配備していた(この当時には極少数になる初期型のライフル銃を装備している)狙撃兵小隊に、上記のように私は命じた。
そして、その効果は暫く後に現れた。
「よっしゃあ」
フランス軍のある狙撃兵が大歓声を挙げた。
ブリュッヒャー将軍がフランス軍狙撃兵の狙撃の前に落命したのだ。
そして、これを機にプロイセン騎兵の多くが壊乱して攻撃の勢いは弱まった。
だが、まだ私の気は抜けない。
オラニエ公とシュタッメウ伯率いる約1万が更に押し寄せてきたのだ。
でも、プロイセン騎兵の多くが壊乱していたので、その間にフリアン連隊長率いる第2近衛歩兵連隊約5000の展開が間に合った。
私はすぐに第2近衛歩兵連隊に左翼に回るように指示した。
この時代の軍隊の常として、利き手や歴史の経緯等が絡み合った関係から右翼に主力を置いて、敵左翼の突破を図る傾向がある。
その出ばなをくじくとなると、近衛歩兵第2連隊を左翼に回すのが至当だ、と私は考えたのだ。
実際、その考えは正しかったようで、オラニエ公等が率いる部隊の機先を制することに私は成功して一息つくことができた。
そうこうしていると、プロイセン軍の名目上の総指揮官ブラウンシュヴァイク公直卒の約1万までが押し寄せてきた。
(名目上というのは、実質上はプロイセン国王が総指揮官だったため)
この時が私が敗北にもっとも近づいた時だったが、幸いなことにブラウンシュヴァイク公は狙撃に無警戒で、攻撃開始後すぐにフランス兵の狙撃の前に落命してくれた。
そして、総指揮官不在のプロイセン軍は結果的に烏合の衆となって、個別に戦うことになった。
本来なら次席指揮官のカルクロイト伯が総指揮を執るべきなのだが、カルクロイト伯は最後尾で約1万2000の軍勢と共にその時はアウエルシュタットに向かう途中だったのだ。
また、実質上の総指揮官のプロイセン国王は眼前の戦況に一喜一憂する有様で、私のように幅広く戦場を見渡して指揮を執る能力に全く欠けていたのだ。
とはいえ、約3倍近い大軍だ。
これはマズい、と私が考えていると。
ようやく待望のモラン連隊長が率いる第1近衛歩兵連隊約6000が駆けつけてきた。
又、落伍していた約2000の近衛砲兵隊も駆けつけた。
そして、近衛騎兵連隊約2000も集結を完了した。
だが、プロイセン軍にもカルクロイト伯率いる約1万2000が駆けつけたようだ。
約3倍近い大軍が2倍程度に減ったとはいえ、私が率いるフランス軍が劣勢なのに変わりはない。
その時、私は起死回生の妙手を思い付いた。
「近衛騎兵連隊、敢えて戦場を迂回してプロイセン軍後方を襲撃しなさい」
「えっ」
「王妃ルイーゼを狙いなさい」
「あっ」
国王夫妻を先に狙ったのはプロイセンだ。
こっちはやり返すだけだ。
実際に近衛騎兵連隊の襲撃威力は絶大だった。
王妃ルイーゼは逃げ出した。
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