外伝ー1 マリー・アントワネットと馬
少なからず悩みましたが、本編に続く外伝という形で投稿します。
1807年春 私、マリー・アントワネットは懸命に乗馬の訓練をしていたのだが。
「申し上げにくいのですが。余り乗馬が上手くない以上は、少なくとも戦場においては馬に乗るのは諦めて馬よりも御しやすいラバに基本的に乗られるべきです」
「仕方ありませんね」
私は内心で泣きながら、私の乗馬担当の教官に言う羽目になっていた。
幾ら私が前世の21世紀の知識の持ち主でも限度がある。
私に言わせれば、乗馬の知識や腕はその最たるものの一つだった。
それこそ私が21世紀のフランス陸軍士官だった当時、流石にヘリコプターの操縦は無理だったが、私はその当時のフランス陸軍が誇る最新鋭戦車ルクレールを操縦して、また、砲手を務めようと思えば務められる技量までも持ってはいたが、その代償という訳では無いが乗馬訓練等は受けたことは無かった。
そして、この世界(?)のマリー・アントワネットに転生した後、私はフランス王妃になり、フランス軍改革等に傾注することになったのだが、それに構い過ぎて自らが馬を操る訓練時間を確保する等は後回しにし過ぎてしまった。
(更に言えば、史実のマリー・アントワネットと異なり、私は24回も出産して25人もの子どもを産んでと、出産育児にずっと多忙だったこともある。
幾らフランス王妃として出産した子どもはフランス王子であるとして乳母等がいても、私の体に掛かる負担は生半可なもので済む筈が無く、そういったことからも乗馬の訓練時間は確保できなかったのだ)
さて、何で私がこの時期に急に馬に乗る訓練をしていたか、というと言うまでもなく、対英戦からの欧州大戦の時は近い、と史実の流れから私は考えており、その際に自らも夫と共に従軍する以上は馬に乗る必要があったからだ。
別に馬車に乗ればいいのでは、と(実際に夫のルイ16世には言われた)思われそうだが、戦場で馬車に乗っての移動等、戦場での混乱等を考えるとリスクが高すぎる。
いざという際でなくとも、基本的に馬に乗って移動する必要が私にはあった。
それにしても、ラバに乗っての従軍か、私が溜息を吐いて、長男のルイにこの事をボヤくと、息子は慰めもあって、こういってくれた。
「騎兵士官では無かったら、乗馬が得意でない士官はそれなりにいますから、実際にはラバに好んで乗る士官も珍しくありませんよ。ボナパルト将軍にしても、馬よりもラバに好んで乗りますし。ボナパルト将軍の場合は砲兵士官出なので、尚更、ラバを好むでしょうが」
(註、この当時の砲兵は、実際には馬ではなくラバに大砲を牽かせることが多々あった)
「そうなの。てっきり、士官なら当然に馬を好むと思っていた」
私はそのやり取りから、史実を思い出した。
そう言えば、史実でもナポレオンは乗馬が余り得手とは言えず、ラバに乗ることがあったらしい。
でも、ナポレオンはマレンゴという芦毛の馬を愛馬として、それを宣伝に多用している。
そうか、別に実際の戦場ではラバに乗っていても、絵画とかの宣伝では芦毛の馬に私が乗っていたことにすれば、私は白馬の騎士ならぬ白馬の王妃という宣伝ができる。
うん、これはいい考えだ。
その考えに基づいて、この後の私が行動した結果。
アウエルシュタットの輝ける勝利の場で、ベルリンへの入城、サンクトペテルブルクへの入城、フランスが欧州の覇者となることを決定づけたモスクワへの入城等の場で、私は実際にはラバに乗っていたが、威風堂々と白馬に夫のルイ16世と共に乗馬している姿の絵が流布することになった。
そして、21世紀になってもマリー・アントワネットは白馬の王妃というイメージがつきまとい、更に乗馬が極めて得意という伝説までが流れることになった。
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