第35話
感慨に耽っている私の下に、この式典に参加している私の子ども達が声を掛けてきた。
「本当に蒸気船が軍艦になったのですね」
私の長男ルイが感極まっていた。
その横にルイの妻であるマリア・テレーザが一緒にいる。
マリア・テレーザは私の実の姪にもなる。
私のすぐ上の姉でナポリ王フェルディナンド4世妃となったマリア・カロリーナの長女だからだ。
マリア・カロリーナと私は仲の良い姉妹であったこともあり、私が長男ルイを産んで、更に姉がマリア・テレーザを産んですぐと言っても良い時期から、ナポリ王国から私の長男ルイとマリア・テレーザの婚約が持ち掛けられる話になった。
実際、ナポリ王国からすれば年も釣り合うし、フランス王国と縁戚関係も結べる美味しい話だ。
そして、私にしても実の姪(それも仲の良い姉の長女)で、史実でもマリア・テレーザは子どもを多く産んでおり、そうした点からも申し分のない話と言えたが。
私は史実からかなり躊躇う話になった。
何故かというと、マリア・テレーザは史実では神聖ローマ皇帝フランツ2世と結婚して後のオーストリア皇帝フェルディナンド1世らを産んでいるからだ。
マリア・テレーザと私の長男ルイが結婚しては、歴史が大幅に狂ってしまう。
とはいえ、どうにも断る理由がない以上、私はこの縁談を受け入れざるを得なかった。
そして、ルイとマリア・テレーザは1786年に無事に結婚をして、複数の子どもが産まれており、更にその長男ルイも先日、スペイン王カルロス4世の三女マリア・ルイサと結婚して子どもができたことから、とうとう私は曾祖母になってしまった。
本当に50歳になる前に曾祖母になるなんて、と私は内心で嘆く羽目になった。
その傍に次男(本来の次男は乳児の際に突然死したために本当は三男)のアンリも、元オルレアン公ルイ・フィリップ2世の娘でもある妻のルイーズ・マリーと共にいる。
史実でもオルレアン公は夫の死刑判決に賛成する等の行動をとったが、この世界でも夫との仲は微妙極まりないものがあり、何かというと私達にたてついた。
とはいえ、フランス王室の藩屏といえるオルレアン公家ということもあり、宥和策を私達は採って、次男の妻にルイーズ・マリーを迎えることにしたのだが。
オルレアン公は斜め上の発想をしてくれた。
アンリとルイーズ・マリーの結婚は、サン・バルテルミの虐殺と同様の事態を引き起こすためだと曲解した果てに、命あっての物種だと娘を捨てて息子と共に英国へと亡命する事態を引き起こしたのだ。
そして、真のフランス国民(オルレアン公のいう国民とは、基本的に貴族とブルジョワのみを指すものであり、大衆は国民に入らない)は、価格操作犯罪法等の財産権を始めとする数々の人権を侵害する法令を制定して施行する暴君ルイ16世を支持しない、と宣言して、自分こそが真のフランス国王である、と英国に亡命した貴族やブルジョワの支持もあって更に宣言したのである。
こうなっては、私達もオルレアン公の爵位剥奪等の報復措置をとるしかないが、気の毒なのはルイーズ・マリーである。
父の爵位剥奪等により、私達の次男アンリとの結婚が貴賤結婚扱いされかねない事態が生じたからだ。
貴賤結婚では、アンリとルイーズ・マリーの子に王位継承権が認められない等の弊害が生じる。
こうしたことから、私の夫ルイ16世によってルイーズ・マリーは別途、女公爵に叙されることで貴賤結婚を回避した。
また、そのことはルイーズ・マリーと父兄の仲を引き裂いた。
何故に父兄は自分を捨てたのか、それに対して夫の家族は、とルイーズ・マリーに想わせたのだ。
このためにルイーズ・マリーは私達と共にいることになった。
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