第3話
もっとも、転生してすぐにそのことを私は想い起こした訳では無い。
正直に言って、真実かどうかも今となってはあやふやだが、私の最初の記憶は2歳の頃の思い出だ。
「ロイテンにおいて我が軍はプロイセン軍に敗れたとのことです」
「何ということ」
家臣の急な知らせに、母が泣くのを見た瞬間に私の体の中に電流が奔った感覚がした。
ロイテン、プロイセン。
ということはオーストリア軍が敗れたということ、つまり、私の母はマリア・テレジア女帝。
そして、私はその末の皇女のマリア・アントニア。
この時点で私の将来の運命が本来はどうなるのか、私はほぼ察してしまった。
更に私のかつての記憶の多くが蘇った。
でも、この時には、それがどんな意味を持ってどんな効果を挙げられるのか、私には分からなかった。
しかし、この瞬間に私は決意した。
運命なんて糞くらえ、私の地位と将来の立場を考えれば、歴史を変えることは可能な筈。
私は本来の祖国フランスのために英国とロシア、更にプロイセンを叩きのめしてやる。
そう決意した私は、母に向かってまだ幼くて十分には回らない舌で言った。
「お母しゃま、プロイセンとイングランドは許せません。私は何時かプロイセンとイングランドを叩きのめして見せます」
「マリア・アントニア、皇女がそんなことを言ってはいけません。でも、気持ちは嬉しいですよ」
「ありがとうございます」
そう2歳の幼女がそんなことを言っても、誰も信じないだろう。
だが、それ以来、私はできる限りのことをしようと決意したのだ。
とはいえ、所詮は最初の頃は2歳児のおつむだ。
勉強するのにも様々な制限がかかるのは、最初の頃は仕方なかった。
だが、あの天使の加護か悪魔の魔術か、私の身体はともかく、頭脳は平均以上の才能を示した。
知識を実際に活かすとなると、知識があるだけでは不十分だ。
その知識を組み合わせて存分に活用する頭脳、知能があることが必要不可欠になる。
その頭脳、知能において、史実のマリーアントワネットと違うものが私には与えられていた。
そのために。
「本当に陸軍士官学校を受験されたら、合格されるかもしれませんぞ」
「マリア・アントニアの才能が素晴らしいのは認めますが、流石にほめ過ぎです」
かつての七年戦争において我がオーストリア軍最良の将軍の一人と言えたラウドン将軍は私の母マリア・テレジアに対してその時12歳の私に対して半ば手放しで賛辞を送り、私の母が戸惑う事態を結果的に引き起こしてしまった。
「いやいや12歳の少女と見るから見誤ってしまうのです。虚心坦懐に18歳程の軍人、士官志望の貴族の少年として考えるならば、マリア・アントニア様の才能は十二分すぎる程です。本当に私が軍事に関する家庭教師を務めたい程です」
ラウドン将軍はそこまで私の事を称賛してくれた。
この頃の私は将来、フランス王妃となる未来を見越して、礼儀作法等は必要最低限の勉強に止めて軍事関係の勉強を主にするようになっていた。
この当時、国を治めるのは軍の支持次第なのだ。
21世紀でも軍部さえしっかりと握っていれば、革命というのは中々起こらないものだ。
この18世紀当時ならば、尚更のことなのだ。
まずは軍部、軍人の歓心を買わないとどうにもならない。
更に言えば、私は外国出身の王妃というハンディキャップを背負った上で、自らの処刑を回避してフランスを導いていかねばならない。
そうしたことを考える程、本来からすれば真っ逆さまな話かもしれないが、国民の支持よりも軍部の支持を重視して将来の事を考える必要がある。
そのために、元々、私の前世が軍人と言うのもあったが、私は軍関係の勉強を主にやって運命回避に努めることになった。
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