第29話
こうした私の考えから立憲議会は運営されて、フランス史上初の憲法は作られることになったが、本当に理想主義者が多くを占めるこの議員達は厄介だった。
それこそ戒厳下にあるパリにいて、更に国家憲兵による警護という名の監視下にあるのに、トコトン(私の意向の下にある)国王ルイ16世の意図に反する憲法制定をしようと抵抗した。
「憲法は国民主権のモノにせねばならない」
「財産権は神聖不可侵なモノだ」
等々、議員達は喚いて(表向きは私の考えではなく)国王ルイ16世の意図する憲法制定に反対した。
これに対し、国王ルイ16世はこの議員らの主張に対しては断固たる態度を貫いた。
(本当は裏で私が夫の背をおして議員の主張を潰しまくったのだが)
さて、何でこんな事態になるのかというと。
一般的にフランス大革命当時の第三身分は、市民階層として一括りにされることが多いが。
実際には更に、この中ではブルジョワと大衆(富裕層と貧困層)の内部対立も孕んでいたからだ。
そして、第三身分出身の立憲議会の議員のほとんどがブルジョワ出身だった。
更に言えば、ブルジョワは財産権の神聖不可侵等を基本的には説いて、政府による経済市場介入等には断固反対する者が多い。
何故かというと、自分達が自分の才覚で路を切り開いてきたという自負、誇りがあるからだ。
だからこそ、自分で何とかするのが当然だ、という発想に立ち、貧困は自己責任だ、極端に言えば貧民が飢えて死ぬのは努力が足りなかったからだ、と突き放してしまう。
しかし、努力さえすれば全員が大学に合格して出世して、更に富裕になれるものだろうか。
実際にはそんなことは無い。
やはり周囲の状況(それこそ家族や資産、その他諸々)や本人の資質が影響するもので、その人の努力だけで全てが解決して大学に合格して出世して、更に富裕にはなれないのが現実である。
また、パンを始めとする物価上昇に対して、パンを買えるだけの稼ぎが無いのは自己責任だ、他の稼げる仕事で働けばよい、出来なければ死ね、というのは正しい事だろうか。
パンを始めとする物価上昇に対しては、多くの大衆がそれは間違っている、パンを始めとする物価上昇を政府は止めるべきだ、と主張するだろう。
私はそれに賛同する立場で、そのために粉骨砕身する気があるが。
第三身分の議員のほとんどはブルジョワ出身で、パンを始めとする物価上昇に対して、パンを買えるだけの稼ぎが無いのは自己責任だ、他の稼げる仕事で働けばよい、出来なければ死ね、と内心では思っているのだ。
他にも所有権の神聖不可侵をお題目として、不在地主(その多くが貴族や教会)による大規模農地所有制度の改革についても、立憲議会の多くの議員は断固反対を貫いた。
私としては、大規模農地所有制度を改革して、貧農層に土地を分け与えることにより、大衆の過激化を阻止しようと考えているので、この点でも多くの議員と対立することになった。
こうしたことから、詳しい事情を知らない一般の国民視点で見れば、立憲議会と王室は徐々に対立を深めていくことになった。
更に立憲議会と王室の対立は、当然のことながら、良くも悪くも新聞記事のタネになり、このことはフランス国内、世間に広まることになった。
その成り行きの果てに、立憲議会の議員の多くがブルジョワ、貴族に賛同する立場と世間には広まることになり、その一方で王室は大衆の味方であるというイメージがフランス国内に広まることになった。
この状況を背景として、私は恐怖政治と言われても仕方のないやり方で、憲法制定や社会福祉的な立法を議会に強いることになった。
最終的には議員の2割近くが亡命、死亡という運命をたどったのだ。
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