第26話
ともかく未来知識からしても、私としてはこの頃のフランス国民というか、民衆の政治意識には信用を全く置けなかった。
上に立つ者として、少しはこの頃の国民の政治意識に信を置くべきだ、と言われるかもしれないが。
史実で何が起こったのか、といえば、史実のマリー・アントワネットは母子相姦を息子のルイ17世に迫って実際に関係を持った、とまでの悪名を被せられた末に断頭台に上がる羽目になったのだ。
子どもはウソをつかないと言いながら、ジャコバン派の政府の面々は、ルイ17世に対して様々な身体的精神的性的虐待を行った末に精神崩壊に陥らせてしまい、自分達の言いなりになる状態にした後、僅か8歳のルイ17世の童貞を娼婦に奪わせて、童貞を奪ったのは私だ、という証言をルイ17世にさせたのだ。
そして、実の子が母を売る訳がない、と裁判で言われて、そんなことはないという史実のマリー・アントワネットの反論は完全に無視されて、私じゃなかったマリー・アントワネットは死刑になった。
そして、こんな不道徳な母親、王妃は処刑されて当然だ、とこの裁判の結果について、当時のフランス国民は大喝采を浴びせたのだ。
更に言えば、ロペスピエールが処刑されてジャコバン派政府が崩壊した後で、総裁政府によってルイ17世は保護されたが完全に壊れた状態になっており、それなりの看護の手は尽くされたようだが、正気をほぼ失ったままで病死というよりは狂死するという史実が起きている。
史実とは違う流れをフランスは歩んでいるとはいえ、こうした史実を想い起こすほど、私としては断じてこの頃のフランス国民の政治意識について信頼を全く置くことはできなかった。
下手に国民主権を認めたりしたら、この頃のフランス国民はちょっとしたきっかけで暴走して、私を断頭台に喜んで送り込みかねないだろう。
そんなことは私としては断じて御免被る話だ。
とはいえ、革命は不可避だ。
テュルゴーを財務総監にして行った財政経済改革の負の側面が徐々に表れつつある。
この約10年間に渡って行われたテュルゴーの財政経済改革は、確かにフランス経済全体からすれば、ギルドの廃止や保護関税の充実によってフランスの商工業の全般的な発展をもたらしていて、私としても高評価をしている。
しかし、どんな財政経済改革も必ず負の側面がある。
テュルゴーの財政経済改革は、フランス国内の自由競争を活性化させており、それによって富める者が更に富み、貧しき者は更に貧しくなり、という貧富の格差を増大させているという現実があるのだ。
今のフランス王国が社会主義国家では無い以上は、国内である程度の貧富の格差が存在するのは止むを得ないが、貧富の格差が余りにも極まるのはフランス社会の不安定化を招く。
実際、貧困層の大衆の間では鬱屈した想いが溜まりつつあるらしい。
更にこの自由競争で新たに誕生したブルジョワ層に対して、旧来の貴族階級は極めて冷たい。
従前のフランスにおいては、ブルジョワは官職を購入すること等によって、徐々に貴族化して行く者がかなりいたのだが。
私が少しでも貴族を減らそうと努めたため、旧来の貴族は既得特権を守ろうとして、ブルジョワの官職購入を妨害する等の方法を講じるようになっているのだ。
このためにブルジョワ層の間ではアンシャンレジームに対する怒りが史実以上に溜まりつつある。
史実だと自由派貴族とブルジョワが連携してフランス大革命が勃発し、更にブルジョワと大衆が連携することでフランス大革命の過激化がもたらされた。
その点に想いが至った私は、自分や家族が生き残るためにも、フランス大革命を主導して起こすことを本格的に検討することになった。
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