第25話
フランス革命を引き起こすことを私は決めたが、史実通りの事をやるという趣旨ではない。
(そんなことをしては、私は断頭台に上がる羽目になる)
だから、あくまでも比ゆ的な表現である。
私はまずは国家憲兵(警察軍)を増強することに決めた。
革命を引き起こすとなると、国内の治安が乱れるのは半ば必須である。
そうした際に、速やかに治安回復を行う必要があるからだ。
だが、それなりの理由付けをしておかないと、却って国内の不安を引き起こす可能性がある。
国家憲兵を増強すると言うのは、本当に劇薬なのだ。
だから、私は表向きは徴税請負人の不正摘発を国家憲兵増強の名目とした。
実際問題として、徴税請負人の中には不正を行っていて、余りにも酷いとして文字通りに首が飛んだ者もそれなりどころではなくいたので、私の主張が勘繰られることは余り無かった。
だが、国家憲兵はどうのこうの言っても軍隊であり、いざという時には軍隊として活動する。
更にそれなりどころではない重装備をも保有するのが当然なのだ。
警察が大砲を持っていては、国民は疑念を持つだろうが。
国家憲兵が大砲を持っていても、国民は余り疑念を持たない。
そうしたことから、私は警察では無くて国家憲兵の増強に奔った。
更にいざという場合は、陸軍と国家憲兵を連携させて、フランス全土において戒厳を敷けるだけの態勢を、秘密裡に参謀本部に立案させるようなことも予め行わせておいた。
そして、国家憲兵の増強体制を整える期間に加えて、徴兵された兵の忠誠心がそれなりどころではなく信用できる時期となると、皮肉なことに1789年が最適ということが判明した。
フランス全土に小学校が開設され、それこそ小学校で愛国教育を受けた面々が兵のほとんどを占める時期となると、最速で1789年ということになるからだ。
更に私の内心の決断を後押しするような事態も、徐々に起こるようになっていた。
ラファイエット侯爵は史実通りに、アメリカ独立戦争に参戦して活躍しており、他に多くの自由派というか改革派の若手のフランス貴族も同様に活躍していた。
彼らはアメリカの独立が果たされたのを機に、フランスに帰国しており、フランス国内に自由派、改革派の思想をまき散らしていた。
この動きに私は複雑な想いを抱いた。
何だかんだ言っても、私は前世の記憶がある。
その前世の記憶と言うのは、この時代から200年以上も未来の21世紀の代物だ。
そうしたことからすれば、自由派、改革派に心情的には私は味方したかった。
だが、私は神聖ローマ帝国の皇女であり、更にフランス国王ルイ16世の王妃でもあるのだ。
そして、時代の背景というのもある。
それこそ史実のフランス大革命が、あれ程の流血の惨禍をもたらした原因は人によって様々に説かれるだろうが、私の見る限りは最大の原因と言えるのは、当時のフランスの平民、第三身分の間には政治的な知識、経験が全く欠けており、自らの不満をひたすら暴発させたことだ。
一例として言えば、それこそ選挙や投票の結果一つについても、自らの想いに反する結果が出た際に、その結果を素直に受け入れるのか、それともこの選挙や投票に不正があったとして断固として受け入れを拒否して暴発するのか、という問題だ。
明らかに不正があった場合は別だが、そうでなければ21世紀であれば、自らの想いに反する結果が選挙で出たからと言って受け入れを拒否する例は稀だろう。
だが、20世紀以前は自らの想いに反する結果が出た場合、暴発する者が稀では無い。
だからこそ、国民が参加する選挙の末に国会が開設されたと言っても、結果的には国会が解散、閉鎖にまで追い込まれた例が世界的に多々あるのだ。
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