第24話
ともかくそうした事態が、現在では引き起こされていて、私が事実上は国政を握っているのだが。
参謀本部からの報告書を拾い読みするだけで、私としては頭が痛くなった。
対英戦は良くて引き分け、下手をするとこちらの敗北という結論になっていたからだ。
元軍人の王妃として、負けるような戦争をするわけには行かない。
だから、バイエルン継承問題にしても、そもそも兄が無理筋のことを言っていたのに乗じて、私も無理筋なことを言って、却って戦争が起きないような方策を私は講じたのだ。
もし、史実のようにフランスというか、私が黙っていたら、プロイセンのフリードリヒ2世はベーメンに侵入しただろうが。
私はハノーヴァー割譲という無理筋を端から言うことで、フランスは無茶な要求をしてくるという印象を周囲に振りまいた。
こうした中で、フリードリヒ2世が史実同様にベーメンに侵入したら、そして、バイエルン継承問題がバイエルン継承戦争へと発展したら。
私、フランスはオーストリア救援を大義名分として、公然とプロイセンにフランス軍を向けるだろう。
こうした時に、ハノーヴァー等のドイツの諸小国はどう動くか。
どう見ても先にベーメンに侵入という侵略行為を行ったのは、プロイセン側になる。
更に戦力的にフランス、オーストリア同盟軍の方が、プロイセン軍を圧倒している。
ハノーヴァー等のドイツの諸小国はプロイセンを見捨てるだろう。
そうなったら、プロイセンは亡国の危機に瀕することになる。
だから、フリードリヒ2世は自重して外交交渉に賭けざるを得なかった。
そして、兄ヨーゼフ2世は自らの欲望の為に欧州大戦を引き起こすほどの覚悟は無い。
そこまでの覚悟があったなら、史実以上のオーストリア国内の政治改革を断行できたはずだ。
私はウィーンで自ら兄と触れ合い、話し合った経験からそのように判断しており、実際、バイエルン継承問題の兄の判断はその通りだった。
私が無理筋の話をしてきたことを叱る一方で、それなら、オーストリア単独でバイエルンの大半を得られるのですか、何でしたらプロイセン側にフランスは寝返りますよ、と私が少し突き放すと、兄は腰砕けになってしまったのだ。
かくして、誰も最初の銃声を放つことは無く、バイエルン継承戦争は回避されたのだ。
それはともかくとして。
私としては、対英戦に突入した場合、速やかに仏陸軍を英本土に上陸させて英本土を制圧することが対英戦勝利には必要不可欠だと考えている。
しかし、参謀本部の結論はそれはやはり不可能というものだった。
実際、英仏の海軍力の差から考えれば、参謀本部がそのような結論に達するのも無理はない。
だから、参謀本部としては、対英戦に突入した場合、基本的に英陸軍が仏本土に上陸したのを仏陸軍が撃退する戦闘が繰り返された末に引き分けになる公算が大という結論に達しており、私も苦汁を呑む想いでそれを認めざるを得なかった。
だが、それでは祖国フランスが欧州の覇者になるのは不可能だ。
英海軍を打ち破るだけの海軍力建設が、祖国フランスに全く不可能な訳では無い。
だが、それをやっては陸軍が疎かになってしまう。
そして、フランスはランドパワーであり、陸軍を重視しないと国土を防衛できない。
私は何か方策はないか、と転生前の歴史の知識をあらん限り、改めて想い起こす内に私が忘れていたことに気付いた。
そうだ、この方策があった。
だが、それと共にフランス革命を自らの手で引き起こすという考えも、頭の中には浮かんでいた。
最早、アンシャンレジームはどう見ても限界に達している。
それを打倒しようとすれば、革命を引き起こさざるを得ない。
私はこの日、革命を起こすことを決めた。
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