第22話
そうは言っても、この世界はこの世界で色々とフランス政府の支出が増大しており、史実よりは遥かにマシだが、財政赤字解消という事態にまでは至っていないのだ。
何しろ史実では無かった国立小学校設置ということもやっているし。
他にも陸軍の大拡大という無茶もやっているのだ。
唯一、史実よりも明るい点と言えるのが、フランスの財政を公開しており、その公開された数字についてフランスの国民からの疑念がほとんど無い点だ。
何しろ私というか国王ルイ16世自らが、公開したフランス財政の数字に誤りがあれば財務総監の首を文字通りに飛ばすと言っているのだ。
更に私とルイ16世の夫婦仲が良いこと、更に私が実際に件の生首事件を引き起こしたことから、テュルゴー財務総監が公表した財政の数字に誤りはない、と国民の多くが疑念を抱いていない。
(尚、本当に私がざっとチェックする限り、テュルゴー財務総監も正直に財政を公開しているようだ。
流石に自身の命が掛かっては、粉飾した国家予算や決算の公開といったことを、テュルゴー財務総監はできなかったようである)
そして、財政を公開していることから、徴税請負人も不正を躊躇うようになったようで、こうした点でも国民から徴税に関する疑念が徐々に逓減されつつある。
もし、その地域からの税収がおかしいという指弾の声が挙がれば捜査が行われるようになったからだ。
更に実際に不正を行った徴税請負人の首が文字通りに飛ぶ事態が複数起こっては。
徴税請負人も身を自然と慎み、国民の疑念も減るのは当然と言えた。
だが、それでもお金は足りない。
財政赤字は徐々に減りつつあるが、フランス財政の完全黒字化はまだ30歳なのに私の寿命が尽きる方が先に来る可能性の方が高い。
そして、それを避けるとなると。
フランス革命を私の手で引き起こすか。
私が徐々に思いつめたのを、イエズス会の総長は察したのだろう。
「余り思いつめないで下さい。児童と共に作ったジャガイモを活かして料理したお昼の給食を一緒に食べて気分を変えられては」
「そうですね」
イエズス会の総長の言葉に私は乗った。
ちなみに給食はジャガイモを単にふかしたモノだった。
ジャガイモ、救荒作物として極めて有名だが、同時に連作障害という難問がある作物でもある。
最低でも3年に一度しか同じ農地で栽培するのはお勧めできない代物なのだ。
私はその辺りに疎くて、ジャガイモを同じ農地で連作すれば万々歳と考えていて、科学アカデミーで農業に強い面々にそのことを教えられる一方で、彼らに
「流石、王妃様は農業の事をご存じない」
と陰口を想いきり叩かれてしまい、身が縮む思いをしてしまった。
それはともかく。
21世紀人の記憶のある私としては、もう少し美味しければなあ、と思ってしまう。
品種改良の偉大さを痛感しながら、ふかしたジャガイモを私は味わうが、目の前のイエズス会の総長の想いは別のようで。
「最近、様々なジャガイモ料理が広まっているようで、色々と私自身が味わっています。欠食児童の家庭でもジャガイモ栽培とそれに伴って様々な料理法が広まっているようですよ」
と私に世間話として教えてくれ、私はそのことで気持ちが安らぐ想いがした。
何故かというと。
ジャガイモ普及は史実でもなかなか進まなかった。
その対策として、小学校でジャガイモ栽培とそれによる給食を行うようにしたのは、私の発案だ。
実際にこれはかなり効果が挙がり、小学校を介してフランス国内においては国民の間ではジャガイモ栽培とその料理法が急速に普及しつつあるようだ。
そして、腹が満ちると考えも落ち着く。
私は「私達の祖国フランスを愛する歌」も聞いて満足した想いで宮廷へと帰った。
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