第21話
史実ではテュルゴーは亡くなっていますが、この世界では史実のような非難の嵐を浴びた末に隠棲生活を強いられるということが無かったので、未だに存命しています。
またも話が相前後する。
私は王妃になった後、速やかに夫に対してフランス王立アカデミー、特に科学アカデミーの活動を大規模に支援するように頼み込み、夫はそれを受け入れてくれた。
それで、フランスにおいて様々な学問の華が徐々に花開くことになっていくのだが。
その後で私が科学アカデミーに直接に示唆したのが新たな度量衡の単位の制定と統一化だった。
流石に科学者の集まりだけあって新たな度量衡の単位の制定と統一化の重要性は、科学アカデミー内で速やかに理解されて国からの財政支援もあり、史実同様のメートル法が史実よりも早く1781年にできることになった。
(ついでに言うと必要経費と言えば必要経費なのだが、テュルゴー財務総監はこのメートル法制定のための科学アカデミーへの特別支出にフランス財政の現状からお金を出し渋り、私は思わずテュルゴー財務総監の首を本当に飛ばしたくなった)
とはいえ、実際にそれが現場で使われるようになるかというと話は全く別な訳で。
小学校の義務教育でメートル法を必修にして教えるようにはしているが、旧来の度量衡の単位等を完全廃止するには程遠い現状がある。
史実でも1837年までフランス国内でさえもメートル法での統一ができなかったことを考えれば、気長に考えるしかないのだろうが、私は溜息を吐いた。
「ところで何か鬱屈が溜まっているようですな。更に外部に相談したいことと思われる」
「ええ。神父様。私の悩みを聞いていただけますか」
本当は相手は司教の位階を持つ以上、神父様と呼び掛けるのは非礼な話になるが、私もこの場では王妃という立場を外して話すのを通例としているし、相手も小学校校長のカバーを被る必要性から、唯の司祭ということで平生は通している。
だから、相手も特に咎めずに私の半ば愚痴を聞いてくれた。
「成程、税金の問題ですか」
「ええ。幾ら王室が率先して節倹に努めても、本当にお金が出て行くばかりです」
「失礼ながら、軍事費にお金を回し過ぎでは。毎年の予算、決算の公表を見る限り、そう思われますぞ」
「確かにそうかもしれませんが」
「まるで欧州全土を戦禍で覆われたいと思われているようだ」
イエズス会の総長は、私の本心を見抜いているかのようにそう言われた。
私は聖職者の前では嘘が吐けない、と改めて思ったが、口先では否定するしかない。
「そんなつもりはありません。むしろ、国民の祖国を護りたいという想いを尊重しているだけです」
「ふむ」
実際問題として、テュルゴー財務総監の下でフランスは様々な財政等の改革を断行している。
ギルドの廃止や穀物取引の自由化、国内関税を廃止する代わりに国内産業保護の為に高額の保護関税をかける等といったことだ。
尚、穀物取引の自由化は史実同様に1775年に小麦粉戦争を引き起こす寸前の事態を引き起こしたが、この世界では第一次ポーランド分割を阻止していたことや私がテュルゴーに厳重に太い釘を刺していたこと等から、恩義を覚えていたポーランドから、テュルゴーは予め大量の小麦を安価で輸入することができており、国民の不満からの小麦粉戦争は防ぐことができて、テュルゴーは失脚せずに済んだ。
さらに税収増の一端として、私の示唆もあってテュルゴーは、タバコやコーヒー、絹織物等といったぜいたく品に対する物品税の導入もやっており、これはこれで税収増になっている。
これは大貴族や大商人の間で反対論が強かったが、国王や王妃でさえタバコは吸わないし、コーヒーも余り飲まず、絹織物もそう身に着けないのに、と私がうそぶいたら、物品税導入に対して様々な不平を唱えた大貴族や大商人はほとんど黙ってしまい、無事に物品税は導入できた。
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