第2話
マリー・アントワネットへの転生前の話になります。
私、マリア・アントニアは(内心で)溜息を吐いた。
本当にルイ16世の王妃マリー・アントワネットに転生しているなんて。
史実通りの歴史が流れれば、私は断頭台で処刑される身だ。
しかし、私は断じて断頭台に上らない、いや、21世紀の軍人としての知識を駆使して、フランスを世界の覇者に押し上げてみせるのだ。
そう、それが前世ではフランス人だった私の役目だ。
前世の末期の呼吸の中で、天使か悪魔か分からないが、謎の相手と話したことは明確に覚えている。
「本当に酷い人生だったようだね。君の人生は」
「傍から見ればそうでしょうね」
人工呼吸器を付けられ、マトモに自分は話せない状況なのに、その相手の声は明確に脳内に響き渡り、また、自分の声が相手に伝わっているのが何故か分かる。
フランス軍の女性士官として、旧フランス植民地のアフリカ某国における国連の平和維持活動に赴くまでは、私の人生はそれなりに真面、いやかなり上流の生活を送れていたのだ。
しかし、そこで私の人生は暗転した。
安全な筈の駐屯地が国連を敵視する武装勢力に襲撃され、私は虜囚の身になった。
そして、フランス軍が私を救出してくれるまでの約半年間、私は地獄のような日々を送った。
何とか私は脱出を図ろうとしたが、警戒が厳重なのと身籠らされたことから脱出できなかったのだ。
尚、救出された後で報復として、私はお腹の子の父の可能性のある男全員を射殺した。
そのことが戦争犯罪とされたことから、私はフランス軍から不名誉除隊処分を受け。産まれて来た子を孤児院に預けた後で傭兵へ身持ちを崩した。
(産まれて来た血を分けた自分の子を何で育てなかったのか、と叩かれるだろうが、産まれて来た子は白人の私の子なのに、黒い肌で産まれてきた。
つまり、私を拷問して虐待したあの男どもの誰かの子なのを、この子を見て世話をするたびに、どうしても私は思い出してしまうのだ。
自分の子だから可愛がって当然と言われそうだが、あの男どもの誰かの子なのだと思うと、どうしても私は自分の子どもなのに愛することが出来なかったのだ。
そして、それがその子と私との永遠の別れとなった)
傭兵の仕事はある意味、成果主義もいいとこの仕事だ。
私は元士官という経歴もあって、それを活かした仕事をしたことから、それなり以上の好成績を上げることができて、傭兵の世界では名の通った存在になった。
だが、好事魔多しとはよく言ったものだ。
ある戦場で劣化ウラン弾が大量に使用されていたことに気付かずにそのまま行動したことから、自分は結果的に被爆してしまい悪性の急性白血病を発症したのだ。
傭兵稼業と言うのは、それなりどころではない稼ぎが得られる仕事ではある。
とはいえ、悪性の急性白血病を治す手段は限られており、それにお金を積んだからと言って全ての病気が治るものではない。
こうしたことから、かなりの治療費を要求される高度な治療を行う病院に入院することが私にはできたが、結果的にはお金の無駄遣いとなり、命旦夕に迫る状況に陥っていた次第だ。
そこで、意識がかなりもうろうとしていた私は、天使か悪魔か分からない謎の相手と逢ったのだ。
白衣等を着ていないことから、その相手が医師や看護師で無いのはほぼ明らかであり、また、白血病治療のために面会謝絶に近い状態の私に逢いにこれるということが、普通の人間でない証としか私には言いようが無かった。
その謎の相手に私は聞かれたのだ。
もし、処刑の運命が待っているも、処刑されるまで何不自由ない生活ができる王女に転生したら、お前はどうする。
私は即答した。
そんな運命は変えてやるまで。
その謎の相手は嗤って言った。
それなら頑張ってみろと。
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