第17話
史実通りと言うのも変だが。
この世界でも北米大陸の英植民地では、印紙条例を始めとする英本国からの課税問題について不満が鬱屈していくことになり、1775年にアメリカ独立戦争が勃発することになったのだ。
このアメリカ独立戦争にフランスがどう対処するのが正解なのか。
私自身が、それこそ自分が転生してきたとき以来、ずっとかなり悩んでいた問題だった。
私としてはフランスの財政問題から、アメリカ独立戦争にフランスが参戦するのは絶対不可という意見に早期に固まりつつはあった。
とはいえ、それではアメリカ独立が無くなってしまい、英国が史実以上の世界帝国になるという事態が生じかねない。
それはそれで、フランスにとっては大問題だ。
自分にとっては不利でも、相手にとっては更に不利になるのなら、自分は苦汁を呑んで不利なことを断行するのが正しい話になるからだ。
だからこそ、私は散々に悩む話になっていた。
ところが。
私の義祖父ルイ15世が崩御して、夫はルイ16世に即位して、私は王妃になった。
そして、史実とは異なる様々なことが起きたことから、史実とは異なる話、噂が広まった。
「フランスが大規模な陸軍の拡大再編制を行いつつあるらしい」
「更に言えば、ルイ16世は、フリードリヒ2世が顔色を失うほどの軍人王らしいぞ」
「ああ、グスタフ=アドルフか、カール12世並みの軍人王らしいな」
「国民がパンを食べられなければ、カブラを率先して食べるという程の国民想いの王だとも聞く」
「それこそハプスブルク家、神聖ローマ皇帝の皇女である王妃マリー・アントワネットが、夫の国王に心酔する余り、自らもカブラを食べて肉料理を控えて豆と豚の臓物の料理に舌鼓を打つ有様だとか」
「その一方で、それによって生み出した資金を、先年の(七年)戦争の復仇のために投入している」
「フランスの多くの子どもが、新たに創設された小学校で「私達の祖国フランスを愛する歌」を歌っているとも聞くが本当なのだろうか」
「本当らしいぞ。その歌の影響もあって、北米大陸の植民地の代償としてドイツを獲るべきだ、という輿論がフランス国内では横溢しているとか」
「そんな無茶苦茶な」
「無茶苦茶では無いぞ。ルイ16世の王妃はマリー・アントワネットで、ハプスブルク家の出身だ。更にルイ16世のブルボン家の血縁もある。だから、ドイツの諸小国のほとんどの継承権を今のフランスは主張できる訳だ」
「つまり、合法的にフランスは」
「そういうことだな。そして、神聖ローマ皇帝のヨーゼフ2世が可愛い妹マリー・アントワネットのためなら、そして、反抗的なドイツの諸小国の主のこと等、と思わないと思うか」
「確かにその通りだな」
下賤な話にも程がある、と私は上記のような話、噂を聞いた時には思ったが。
実際に脛に傷がある面々からすれば話は別だ。
先年の七年戦争において、フランスに敵対したドイツの諸小国は背筋を凍らせることになった。
プロイセンをまずは彼らは頼ったが、プロイセンにしてもオーストリアと睨み合うのが精一杯だ。
とてもではないが、最大動員時100万人を数えるフランスの相手までは出来ない。
従って、彼らは英国を頼った。
ところが。
英国政府からは北米大陸の反乱鎮圧のために傭兵を送り出せ、と要求して来たのだ。
ふざけるな、と彼らは喚いた。
自国の防衛に不安を覚える中で、兵を差し出せとは。
英国は本気で我々を見捨てるつもりか。
従って、英国と同君連合を組んでいるハノーヴァー選帝侯国でさえもこの要求は拒まれた。
更に英国王ジョージ3世も不快感を示した。
このために英国は史実と異なり、ドイツ傭兵を欠く状態でアメリカ独立戦争に対処する事態となった。
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