第16話
更にフランスは参謀本部を設置して常に対外戦争が起きた場合に備えた体制を整えるともいうのだ。
実際に対外戦争が起きた場合には、更なる軍拡を行って文字通り100万人の大軍を縦横に行軍させられるだけの大軍を、フランスは編制する方向で改革を行っている、とも私は喧伝した。
序でに言えばフランスの人口だけからいえば、これだけの大軍を編制することは充分に可能だった。
実際問題として、そんなことをしたら完全に軍事国家状態になって、国家財政が破たん寸前という危険を冒す話にほぼなってしまうのだが。
国民の3パーセントを越えるだけの軍隊を戦時に編制することは不可能な話どころか可能なのだ。
私がフランス王妃になったこの当時、フランスの人口は約2600万人から約2800万人の間といったところであり、国民の3パーセント余りを動員することにはなるので、約100万人の常備軍は流石に困難かもしれないが、戦時の動員数として考えればこれだけの動員を行うことは十二分に可能なのだ。
そして、実際にプロイセンは一時は人口比でいえばになるが、戦時動員数どころか、この程度の常備軍さえも保有していた。
(シュレジェン獲得以前の話で、その当時のプロイセンの人口が約200万人程なのに、プロイセンは約6万人の常備軍を保有した)
こうしたことからすれば、フランスの戦時の最大動員数約100万は不可能どころか、充分に達成可能な数字なのだ。
だからこそ、プロイセンを始めとする欧州、特にドイツの諸国家は背筋が冷たくなる事態が起きた。
もし、これだけのフランス軍が本当に進軍してきたら。
そして、この大軍を編制するために。
小学校の義務教育の一環として、国歌等を使った愛国教育を行い、それによってフランス国民の愛国心を高めることによって。
短期徴兵制に対するフランス国民の拒否感情を逓減していき、それと共に短期徴兵制の実施による大規模な予備兵力の蓄積に努める。
徴兵制が嫌なら嫌で徴兵免除のための代人料を払え、という形である意味ではお茶を濁すようなことまでも私は敢えてやることにした。
何故にそんなことをしたのか、というと。
失礼極まりない言い方になるが、その日暮らしの貧農では流石に体格等で兵士として採用するのに問題が出てくるが、金持ちのボンボンが体力や性格等から兵士に向かないのもまた事実だからだ。
そうしたことからすれば、それなりの農村の自作農の子弟を兵士の中核として駆り集める方が精強なフランス軍を編制するのには役立つのだ。
だから、金持ちのボンボンが兵士から逃れやすいように代人料を認めることにしたのだ。
(尚、この代人料は当然のことながらそれなりどころでは無い額だ。
兵士1人を5年分は養える額が代人料ということになった。
そして、徴兵期間は3年間だ。
こうしたことからすれば、代人料を認めたのはフランス財政を豊かにする一環でもあった)
そして、これだけの巨大な軍隊を動かすとなると、偉大な将軍が個人的な才能で動かすのは不可能だ。
だからこそ参謀本部を作り出して、その組織によってこの巨大な軍隊を動かす必要があるのだ。
とここまで私は考えて動いたのだが。
このことで想わぬ副産物が産まれるとは思わなかった。
フランス陸軍の拡大再編成が、この世界のアメリカ独立戦争にまで影響が及ぶとは。
歴史のバタフライ効果の怖ろしさを私は痛感することになった。
尤もこれは私自身がかなり画策して動いていたことだったので、ある意味、予想通りの事が起きたと言えるのかもしれないが。
私としては、ここまでドイツの諸小国、領邦国家の君主がヘタレ揃いとは思わなかった。
フランスを何だと彼らは考えて行動していたのか。
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