第15話
少なからず話が相前後する。
私が王妃に即位した後、オーストリアから速やかにラウドン将軍は呼び寄せられて、フランス陸軍の改革が行われることになった。
もっとも、フランス陸軍内部自体が(史実同様に)七年戦争での体たらくに自己批判を行って、改革を積極的に図るようにはなっており、私がラウドン将軍を呼び寄せただけでは、そのフランス陸軍内部の自己改革の動きを単に力づけるだけになっただろうが、私がラウドン将軍を呼び寄せたのは、更なる理由があった。
「参謀本部ですか」
「ええ、色々と教えて頂く中で私が発案したのですが。いかがなものでしょうか」
「それは素晴らしい発想です。周囲に採用するように自分の意見として私から説きましょう」
「先生にお褒め頂き本当に恐縮です」
「いえ、むしろ教え子に教えられる喜びを私は感じる有様です」
私とラウドン将軍は、そんな会話を幾度とも無く交わすことになった。
そう幾ら私の頭脳の中に21世紀の陸軍士官としての知識があり、更に私のフランス王妃としての地位があるとはいえ、私の意見では所詮はフランスの陸軍軍人からすれば素人、部外者の意見に過ぎない。
だが、ラウドン将軍が私の意見を聞いて、自らの意見として主張すれば周囲の態度は一変する。
何しろ七年戦争等において名将の名を轟かせたプロイセン王フリードリヒ2世でさえ、一目置いたと謳われるオーストリア軍の将帥がラウドン将軍なのだ。
そのラウドン将軍が、私を介してフランス国王ルイ16世も支持する意見として主張すれば、改革を行いたくない守旧派のフランス陸軍の将帥達も余程の理由付けをしないと改革反対の意見を言い辛くなる。
こうして私とラウドン将軍の二人三脚とも言える体制はフランス軍改革を順調に進めることになった。
平民でも入りやすいように試験制度を変更すると共に、更に参謀課程や砲兵や工兵の専門課程を設ける等、陸軍士官学校に対する改革を断行した。
(そうしないと、私の考える巨大陸軍を想うように操れる陸軍士官を予め準備する等、夢物語という話になるからだ)
他にも補給の観点も考え合わせて、大砲の口径等をできる限り統一するように努め、少なくとも部隊内では容易に砲弾の融通ができるように砲兵の装備を揃えさせた。
軍馬にしてもポーランドやオスマン帝国に協力を求めて改良に努めると共に。
更には同じブルボン家の誼まで駆使して、スペインからロバを購入してラバを更に改良した。
当時、フランス国内で十分な良質の軍馬、ラバは生産されてはいなかったことはないが、私の考える巨大な陸軍整備をするためには軍馬やラバが全く足りなかったのだ。
そして、私が最も熱心に進めたのが、実は師団の編制だった。
近現代において、陸軍の師団編制は当たり前の話になっているが、私が転生したこの頃は師団編制の黎明期と言える頃であり、フランスはその最先進国ではあったが未だに試行錯誤を行っている段階だった。
私は21世紀の知識を駆使して、ラウドン将軍の援けも得て師団編制を進めたのだ。
歩兵4個連隊を基幹として、2個旅団を傘下に置く1個師団をフランス陸軍の基本単位とする。
当然のことながら、砲兵連隊や工兵連隊、更に師団単位の段列部隊等をこの師団は保有する。
これによって、独立運動可能な部隊の単位として師団は編制されることになる。
私は1個師団を約2万名として、15個師団をフランス軍の常備師団として、フランス陸軍は編制される方向であるとわざと喧伝した。
つまりフランス陸軍の野戦における常備兵力は約30万名ということになる。
この喧伝に欧州諸国は慄然とすることになった。
こんな常備兵力を保有する国はこれまで欧州になかった。
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