第13話
ともかくテュルゴーを財務総監にして、フランスの財政再建は行われることになった。
更に1774年は国王ルイ15世の崩御、新国王ルイ16世の即位式等のために多額の王室費が掛ったが、今年1775年は王室費を半減する、ということで王室から財政再建の範を垂れることにしたが。
早速、身内の王族や他に貴族の面々から苦情が殺到する事態が起きた。
「こんな王室費ではとても生活できません」
「王室の体面も保てません。何卒、王室費の復活を」
えーい、うるさい、お前らの免税特権の為にこんな事態になっているんだ。
私は怒鳴り散らしたくなったが、ぐっとこらえて19歳という大人の対応に努めることにして。
「それなら、免税特権を廃止して貴族に税金を掛けざるを得ませんが。免税特権廃止には反対なのでしょう。私は外国出身の王妃ですので、免税特権廃止等はとても言えません」
基本的に私は下を向きながら、上目遣いで苦情を言って来た相手の対応を伺った。
こういうと大抵の貴族がそれ以上は言って来なくなる。
誰しも免税という特権を手放したくはないからだ。
それに貧乏生活をするのは王室だ、自分達は貧乏生活をしなくとも済むのだ。
だから、貴族連中の殆どはこれで黙ってくれたが。
(なお、私の言葉、態度に触れた一部の開明派の貴族は、自分から免税特権廃止に動くことを言ってくれて、それはそれで私は嬉しかったが)
「叔母を何だと思っているの。きちんと生活費を出しなさい」
義叔母のアデレード王女らの追及は厳しくて、その尻馬に乗って義弟のシャルルらも不満を零した。
それに対するために。
「分かりました」
私は半ば切り札を切ることにした。
「聞いたか。ルイ16世国王陛下や王太子殿下、更に妊娠中なのに王妃マリー・アントワネット陛下は、肉料理を食べずに豆や豚の臓物のスープ料理を基本的に食べる生活になっておられるとか」
「叔母のアデレード王女らが生活費を寄越せ、というのでそんな事態になったとか」
「王妃マリー・アントワネット陛下は妊娠中なのに、本当に御いたわしいことだ」
フランスの首都パリでは市民の間ではそんな噂が公然と流れるようになっていた。
尚、これは全くの実話で、私自身が厨房にそのように指示してそんな料理を出している。
栄養学から言えば、肉料理の代わりに、豆や豚の臓物でも十二分に栄養は摂れる。
だから、そう私や夫の健康上の問題は無いのだが、この当時のパリやその周辺の市民の世論が、この事態をどう受け取るかは話が別だ。
「止めて頂戴。当てつけにも程があるわ」
この噂が耳に届いたアデレード王女らは、私の下に苦情を言って来た。
「仕方ないですわ。予算が無いのです。お金がない以上、どうにもなりませんわ。叔母様方がお金が必要だと言われる以上、私達夫婦や子どもの生活費を削るしか」
私はしれっと反論した。
「だから、王室予算をきちんと確保しろと言ったでしょう」
「それなら、貴族の免税特権廃止を叔母様方から貴族の方々に説いてください。そうしないと国のお金が無いのです」
「そんなことを貴族に説いても時間の無駄です」
「それなら生活費削減を受け入れて下さい」
「うぐぐ」
私は平然とアデレード王女らとやり取りをした。
因みに夫はこの場から逃げている。
私が対応すると言ったのをこれ幸いと口実を作って、叔母達から夫は逃げてしまったのだ。
それに私としても、この方が都合がいい。
下手に叔母達に仏心を夫から出されては厄介な話になるからだ。
そして。
「分かったわ」
捨て台詞を吐いてアデレード王女らは私の下を去った。
こんなやり取りはお腹の子にとって良くない、止めたいわね、と私は想ったが。
実際には数年間に亘りやる羽目になった。
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