第11話
とはいえ悩んでばかりいても前には進まない。
取りあえずはテュルゴーを財務総監にして、更に王室費をトコトン倹約することで王室が率先して節倹の範を垂れることにして、更にフランスの財政事情を毎年、公表する方向で私は考えることにした。
そして、もう一つ、私には一石二鳥どころではない名案があった。
「イエズス会は解散されたのですよね」
「ええ」
私は国王代理の立場で、ローマ教皇庁の密使と会っていた。
「とはいえローマ教皇の本音としては、イエズス会解散は本意で無かった」
「その通りです」
「イエズス会の元修道士達を国立小学校の教師として雇いましょう。更に小学校の連絡網という形で、イエズス会復活の為の組織を隠密裏に作ることをフランス国王の名において黙認しましょう。国内の不満からこれが精一杯ですが、カトリック信徒としてフランス王室はローマ教皇庁に寄り添いたいのです」
「ありがとうございます」
私の言葉に密使は感泣した。
「但し、フランスが出せるのは基本的に小学校教師としての給料だけです。それ以上のことは」
「それは言わないで下さい。カトリックの国家内において、イエズス会復活の為の組織ができるだけでも有難いのです。ローマ教皇庁として資金面も含めて国立小学校建設に全面協力しますぞ」
密使はそこまで言ってくれた。
1773年、フランスを始めとするカトリック諸国の圧力により、イエズス会はローマ教皇クレメンス14世によって解散させられていた。
私はそれに目を付けたのだ。
イエズス会の修道士の中には優秀な教育者が多い。
彼らを活用して、フランスの初等教育を行って愛国心を高めるのだ。
更にローマ教皇庁に恩を着せられ、資金面でも協力が得られる。
財政赤字で頭が痛い私にとっては極めて美味しい話だ。
それに史実では、このイエズス会解散はプロイセンとロシアを結果的に利することにもなっている。
反プロイセン、反ロシアの観点からしても、イエズス会修道士をフランスに留める必要があった。
だが、それでは私としては微妙に困る。
資金面は別の方策で徴収するつもりだからだ。
私は少し声を潜めて言った。
「資金面の協力は有難いですが、それはフランスの国税という形で賄いたいのです」
「それは」
ローマ教皇庁の密使は息を呑んだ。
私の提案が、教会、僧侶に対する免税特権廃止を意味することにすぐに気づいたからだ。
暫く私達の間には沈黙の時が流れた。
「フランス国内のローマ教会組織、更に僧侶達が納得するとは思えませんが」
沈黙を破って密使は言葉を絞り出すように言った。
私も同様に考えてはいた。
だが、これはフランスの財政赤字解消のために何としても呑ませる必要がある案件だ。
「ローマ教皇庁が口先で反対するのは構いません。ですが、イエズス会と同様の目に遭わないために堪えて欲しい、と教会組織、僧侶達に暗に言って回って欲しいのです。そうすればイエズス会の隠密復活が成るのですよ」
「ぐっ」
私の言葉に密使は顔を歪めて言葉に詰まった。
「フランス財政が深刻なことを近々公表して国民に理解を求める予定です。かつてテンプル騎士団が、フランスのために潰されたような事態を更に引き起こさないのが、ローマ教皇庁の務めでは」
「うぐぐ」
私の追い討ちに密使は更に顔を歪めた。
テンプル騎士団がその豪奢な生活を妬まれ、フランス主導で潰されたのは有名な史実だ。
その際に重税に苦しんでいたフランス国民はテンプル騎士団への妬みから拍手喝采を送ったと伝わる。
「分かりました。ローマ教皇の了解を得られれば、その方向で動きましょう」
「よろしくお願いします」
とうとう密使は私の提案を事実上は受け入れてくれ、私は安堵することができた。
ご感想等をお待ちしています。