9話 エマのメンバー入り
「ごきげんよう、シャルロット様」
「ごきげんよう、みなさん」
今日も俺は『ルークス』のサロンで公爵令嬢らしく優雅に挨拶をする。マイアに小突かれながら練習した成果だ。
いつもの席についた俺に、レオポルト王子がとろけそうな甘いマスクで囁く。
「ごきげんよう僕の小鳥」
「ごきげんようレオポルト殿下」
「またそんな他人行儀な呼び方を……レオでいいんだよ、シャルロット」
「ははは……」
相変わらず王子の好感度は高止まりのままだ。
「さて、皆さん集まりましたね」
「どうしましたか、シャルロット様」
「……こほん」
俺は緊張を和らげるために小さく咳払いをした。
「皆さんに新しいお友達を紹介いたしますわ」
「……お友達?」
取り巻き達の顔色が変わる。
「ええ。エマ! こっちに来て」
「エ、エマ!? あの冴えない子ですか?」
取り巻き一号のカトリーヌのが信じられないというように聞いて来た。
「地味でへちゃむくれの貧相なあの子ですか?」
取り巻き二号のグレースも目をむいた。
「私に勝てない万年二位の? お勉強ならわたしがいましてよ」
そして三号のソフィアも言う。まあキャラかぶりは重大な問題かもしれない。
「皆さん安心してくださいまし。さ、エマ!」
俺が再度声をかけると、エマが観葉植物の影から姿を現した。
「えっ」
「ええ~~~~っ!?」
現われたエマはひっつめの三つ編みをゆるいハーフアップに改め、シャルロットのだったブルーのドレスを着ている。
どす黒かった顔色も、かさかさの肌も謎シェイクと化粧品の力で改善されていた。
冴えないエマしか知らなかった面々はその姿に息を飲む。
「エマ、皆さんにごあいさつを」
「ええ……エマ・ド・グレヴィです。仲良くしてください」
ぺこりとエマが頭をさげると。シーンと静寂が走った。
「はくしゅー!」
そんな静寂を俺は拍手で打ち破る。取り巻き達もつられて拍手をした。
「エマか。よろしく」
「レオポルト王子……は、はいよろしくお願いします」
王子はそっけない態度ながら一応挨拶した。うーんまだ好感度が低いから塩対応なのもしかたないか……。これからどんどん仲良くやってくれ!
「ではお茶をいただきましょうね」
「は……はい」
取り巻き達はぶすっとした表情に笑みを貼り付かせてカップに手をつけた。
とりあえずの顔合わせはこんなもんか……。
「へーっ、新しいメンバーか」
重苦しい雰囲気のままお茶を飲んでいるとディーンがやってきた。じろじろと遠慮無くエマを観察している。
「よろしくな!」
「はい」
「ディーンはどうしていつもサロンにいないの?」
「あれ? 忘れちゃったのかい? 俺は乗馬部があるからだよ」
「ああ……あ、そ、そうでしたわね」
ディーンはスポーツマンなんだな。
「どこぞの王子みたいに俺は暇じゃないんだ」
「まぁ……」
「ははは、私は余剰な時間があったらシャルロットと居たいのだよ」
「あららー」
さすが幼馴染みなだけあって、ディーンは王子に遠慮がない。
「うーん……ディーン……か」
途中から出てきたこのキャラ、マイアによると正ヒロインエマの当て馬キャラらしい。
ディーンと王子とでエマを取り合うのだ。
「邪魔してほしくないんだよね」
俺からしてみれば、とっとと王子とくっついてストーリーを終わらせたい。
と、いうことはディーンはいらない……。
「あ!」
俺は思わず大きな声を出してしまい、口を押さえた。
(これは、ディーンを俺に惚れさせればいいのでは?)
そうだ、そうすればエマの邪魔にならないし、王子への裏切り行為にもなる。王子も浮気女にはさすがに愛想をつかすだろう。一石二鳥じゃないか。
よし、心のノートにメモしておこう。
「皆さん、私の新しいお友達のエマです」
取り巻きのメンバー以外のルークスのメンバーにもそう言って回る。
「エマ・ド・グレヴィです」
「グレヴィ……グレヴィ……? 申し訳ないが爵位は」
「実家は男爵家です」
「あら……」
相手の反応に、エマは小さくなってしまった。
「駄目よ、エマ。猫背になっているわ」
「シャルロット様」
不安でたまらないといった様子でエマは俺に縋り付くようにしてついてくる。
「こんな立派な場所、いたたまれません」
「いいのよ、適当にお菓子でも食べてれば」
「調度品も見た事がないほど素晴らしい……」
と、あたりを見渡していたエマの動きが止まった。
「ピアノ……しかもシュリウスのピアノじゃないですか」
さっきまで強ばっていた声色が喜びの色を帯びている。
「あら、エマはピアノが好きなの?」
「はい。実家にいたころは毎日ピアノを弾いていました」
「あら、じゃあ弾いてみてよ」
「いいんですか……?」
エマは恐る恐るピアノの前に座った。
そしてポロンと弦を弾く。
そしてやがて素晴らしい演奏が始まった。
「あら、すごいのね」
「やあ、エマの演奏かとてもいいね」
気が付くと、俺の背後にはレオポルト王子がいて、一緒に演奏に聴き惚れていた。
『あっ、王子のエマの好感度が20%になりました!』
どこからかマイアの嬉しそうな声が聞こえた。
よしよし、順調順調……!!