昔の話
「簡単に言います、あなた様は失われた12の血筋の持ち主です」
「俺の今の姿見て血筋とか言えるのすげえよ」
今の男の姿は骨だけである、血もクソもあったものではない。
「いいえ、確かに記録にあるのです。かつて世界から消えた血の中に黒き骨を持つ一族の名が。それはレイダ、イチマキ、ニタケ、ザンガン、ジリツ、ゴチュウ、リクカイ、シチシツ、ハチワカ、クキウ、ジュウシャ、そしてあなた様のヨソモです」
「めっちゃ聞き覚えあるな」
男が集めた血判の主の名であった。ノクの言うことが正しければ男を含めたその12の一族はこの場所から移住してきたことになる。
「そうでしょう。彼らは神や邪神と渡り合い、辛くも敗北。異界送りにされた英雄なのですから」
「英雄、ねえ?」
今まで男が見た末裔達はどれも俗世に染まりきった者どもであり、とても英雄などとは言える代物ではなかった。
「12番目であるヨソモ様だけはいずれ復活されるとの言い伝えです。まさかこの目で見ることができるとは!!」
テンション高めなノクを男が遮る。
「悪いが、そのヨソモっての止めてもらえるか。俺はその名前好きじゃない、どこにも入れない爪弾き者っていう意味だからな」
現地の言葉に適応して当て字にした結果として【余所者】になったのだが、それでも男はその名で呼ばれることを嫌った。
「ですが……どうお呼びすれば」
「……レイエム、そう呼んでくれ」
咄嗟に出てきたのは、受け継いだ剣にある名前だった。
「レイエム……? その名は確か行方不明の葬送の天命者がもっている剣の名では」
「あいつ……そんな大層な奴だったのか、さっき引導を渡したが問題か?」
処刑人の剣改め、葬送剣レイエムをノクに見せる。するとノクの目が大きく開かれた。
「これは本物……ですね、私の剣も反応しています。良かった、葬送の天命者様は天寿を全うできたのですね」
「あいつ、死にたがってた。その天命者? っていうのはそんなに酷いもんなのか」
「天命者というのは、殺されるまで死ねないのです。それまでは与えられた天命を全うしなければならず、やがて心を失うこともあります。そうなった天命者様はもはや人の敵、今までどれだけ人類に貢献していても討伐されるのです。いえ、討伐されなければいけないのです」
「酷いな……」
「でも、天命を賜るのは名誉な事です。私の創造者も、同じように天寿を全うできれば良かったのですが」
ノクの目が伏せられる。
「……依頼ってのはそのことだな」
「流石はレイエム様、私と夜想剣ノクタンの所有者であった鍛冶の天命者様が発狂しました。今はご自身の施した攻撃機構でしのいでいますが、もってあと1日でしょう。どうか、どうか、私の、お父さんを、殺して、くれませんか」
ノクに泣ける機能があれば泣いていただろう、そう思うほどに今のノクの顔は悲壮に満ちていた。創造者である者の死を願う、自分では力が足りず、他人に親を殺して欲しいと依頼する。これが悲劇と言うのだろう、これを最悪と言うのだろう。
「……これは人助けか?」
「はい、終わらせてください。お父さんは、もう」
「分かった、やるだけやる」
「ありがとう、ございます」
鍛冶の天命者、今は発狂した怪物の居場所はすぐに分かった。
「山をくりぬいて鍛冶場にしてるのか」
「はい、お父さんの自慢の鍛冶場でした」
火山をくりぬいて形成されたであろうすり鉢状の鍛冶場、それが鍛冶の天命者の城であった。しかし、それもかつての話、今は中心に向かって集中砲火を繰り替えす鉄火場と変貌を遂げていた。
「しかし、これじゃ近寄れないな」
「大丈夫です、もう時間になります」
「時間?」
「間に合って良かった、攻撃機構の耐久度が限界です。お父さんが、来ます」
爆発音と一緒に中心地が噴火する、否、噴火ではない。全身が赤熱する人型の何かが飛び上がったのだ。
「……冗談だろ」
赤い人型が上空から何かを投げる、それは鍛冶につかうハンマーであった。高速回転しながらと真下に着弾すると、攻撃機構を全て吹飛ばす爆発が巻き起こる。奇しくもその様子はノクの持つ夜想剣ノクタンとよく似ていた。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
人とは思えぬ大咆哮、既に鍛冶の天命者の目標は定まった。近場に居る人間、すなわちレイエムである。
「全身真っ赤だが、います、あなた様は失われた12の血筋の持ち主です」
「俺の今の姿見て血筋とか言えるのすげえよ」
今の男の姿は骨だけである、血もクソもあったものではない。
「いいえ、確かに記録にあるのです。かつて世界から消えた血の中に黒き骨を持つ一族の名が。それはレイダ、イチマキ、ニタケ、ザンガン、ジリツ、ゴチュウ、リクカイ、シチシツ、ハチワカ、クキウ、ジュウシャ、そしてあなた様のヨソモです」
「めっちゃ聞き覚えあるな」
男が集めた血判の主の名であった。ノクの言うことが正しければ男を含めたその12の一族はこの場所から移住してきたことになる。
「そうでしょう。彼らは神や邪神と渡り合い、辛くも敗北。異界送りにされた英雄なのですから」
「英雄、ねえ?」
今まで男が見た末裔達はどれも俗世に染まりきった者どもであり、とても英雄などとは言える代物ではなかった。
「12番目であるヨソモ様だけはいずれ復活されるとの言い伝えです。まさかこの目で見ることができるとは!!」
テンション高めなノクを男が遮る。
「悪いが、そのヨソモっての止めてもらえるか。俺はその名前好きじゃない、どこにも入れない爪弾き者っていう意味だからな」
現地の言葉に適応して当て字にした結果として【余所者】になったのだが、それでも男はその名で呼ばれることを嫌った。
「ですが……どうお呼びすれば」
「……レイエム、そう呼んでくれ」
咄嗟に出てきたのは、受け継いだ剣にある名前だった。
「レイエム……? その名は確か行方不明の葬送の天命者がもっている剣の名では」
「あいつ……そんな大層な奴だったのか、さっき引導を渡したが問題か?」
処刑人の剣改め、葬送剣レイエムをノクに見せる。するとノクの目が大きく開かれた。
「これは本物……ですね、私の剣も反応しています。良かった、葬送の天命者様は天寿を全うできたのですね」
「あいつ、死にたがってた。その天命者? っていうのはそんなに酷いもんなのか」
「天命者というのは、殺されるまで死ねないのです。それまでは与えられた天命を全うしなければならず、やがて心を失うこともあります。そうなった天命者様はもはや人の敵、今までどれだけ人類に貢献していても討伐されるのです。いえ、討伐されなければいけないのです」
「酷いな……」
「でも、天命を賜るのは名誉な事です。私の創造者も、同じように天寿を全うできれば良かったのですが」
ノクの目が伏せられる。
「……依頼ってのはそのことだな」
「流石はレイエム様、私と夜想剣ノクタンの所有者であった鍛冶の天命者様が発狂しました。今はご自身の施した攻撃機構でしのいでいますが、もってあと1日でしょう。どうか、どうか、私の、お父さんを、殺して、くれませんか」
ノクに泣ける機能があれば泣いていただろう、そう思うほどに今のノクの顔は悲壮に満ちていた。創造者である者の死を願う、自分では力が足りず、他人に親を殺して欲しいと依頼する。これが悲劇と言うのだろう、これを最悪と言うのだろう。
「……これは人助けか?」
「はい、終わらせてください。お父さんは、もう」
「分かった、やるだけやる」
「ありがとう、ございます」
鍛冶の天命者、今は発狂した怪物の居場所はすぐに分かった。
「山をくりぬいて鍛冶場にしてるのか」
「はい、お父さんの自慢の鍛冶場でした」
火山をくりぬいて形成されたであろうすり鉢状の鍛冶場、それが鍛冶の天命者の城であった。しかし、それもかつての話、今は中心に向かって集中砲火を繰り替えす鉄火場と変貌を遂げていた。
「しかし、これじゃ近寄れないな」
「大丈夫です、もう時間になります」
「時間?」
「間に合って良かった、攻撃機構の耐久度が限界です。お父さんが、来ます」
爆発音と一緒に中心地が噴火する、否、噴火ではない。全身が赤熱する人型の何かが飛び上がったのだ。
「……冗談だろ」
赤い人型が上空から何かを投げる、それは鍛冶につかうハンマーであった。高速回転しながらと真下に着弾すると、攻撃機構を全て吹飛ばす爆発が巻き起こる。奇しくもその様子はノクの持つ夜想剣ノクタンとよく似ていた。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
人とは思えぬ大咆哮、既に鍛冶の天命者の目標は定まった。近場に居る人間、すなわちレイエムである。
「全身真っ赤だが、近づいただけで蒸発したりするのかこれ」
「私のノクタンに耐えたなら大丈夫です。私はお父さんに攻撃できません、おねがいします」
鍛冶の天命者が背中からジェット気流のようなものを出しながら高速移動する、豆粒のように見えた姿が今や目の前だった。
「素人が、正面から来たらどうなるか考えたことないのか? 速いだけならいくらでも迎撃してやる」
レイエムの黒い拳が正面から鍛冶の天命者を捉えた。