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第095話 牢獄

前回のあらすじ


え? オレ達、捕まったの?

「助けてニャ〜 わたしは無実ニャ〜!!」

「お母さ〜ん! えーんえーん、しくしく……」


 地下牢に、2人の悲鳴がこだまする。


「うるせぇな、こら! 犯すぞ! てめぇ!!」


 囚人の1人が大声で恫喝したらしい。2人は恐怖で声も出せなくなったようだ。

 女性の声だから、隣室の囚人かも知れない。 


 ふと、キャフは横を向いた。鉄格子で区切られた隣の部屋にいる囚人は、キャフを見てニヤニヤ笑っている。


 キャフ達はまだ正式に裁判を受けていないから、本来は留置所であって刑務所ではない。だがアルジェオンでは、何故か一緒くたになっている。刑期中の囚人と隣り合わせの部屋に居るのは苦痛極まりない。恐らくそれも狙いなのだろう。

 

 キャフは心の中で詫びたが、3人とは別の部屋で顔も見られない状況では何も出来ない。



 ここはアルジェオンの地下牢。



 キャフ達は捕らえられ、投獄された。魔法杖も剣も没収された今、冒険者は他の囚人と変わりの無いただの人だ。フィカはともかく2人は格闘技の経験なんて無いから,何かされないか心配だ。


 アルジェオンは他国に較べ人権の意識がある方で、弁護士も用意される。

 なので、残虐な拷問とかは無いと思う。それを期待していたら、申し訳ない。


(しかし、どうなるか……)


 キャフは、先ほどまで取り調べを受けていた。


 朝から晩まで窓もなく狭くてカビ臭い部屋に捜査官とずっと向かい合うのは、初めての体験であった。魔法協会での調査も面倒であったが、あれはあくまで任意の調査だ。これはあの時の比じゃないほどの厳しさである。


「は? 皇子がドラゴンの転生で、元に戻って山に帰りましただと? 厨二じゃあるまいし、そんな言い訳通用せんわ!」

「そう言われても、今言った通り、ムナ皇子はペリスカ山にいる」

「あんなとこ、人が入れる訳ねえだろ? ホントのこと言えよ!」

「今言った通りだ。あいつはドラゴンだから、あそこにいる」

「まじ厨二かよ! お前、何年生きてるんだ?」

「事実は事実だ」


「……お前さんも、強情だな。出世できねえぞ。だがな、お前を助けてくれと言ってくれる人もいるんだぞ。サローヌの領主ギム殿と、第七師団のナゴタ少将だ。嘆願書も含めた報告書を受け取っている。なかなかの大物じゃあねぇか。お前、知り合いか?」

「あ、ああ」

「お前みてえなクズを気にかけてくれて良い人じゃねえか。こんな事してお前が死刑になると、彼らも迷惑するよな。本当の事を言った方が良いんじゃないのか? 皇子は何処にいる?」

「だから山の中……」

「しらばっくれるな!! お前、国家権力をなめんなよ! 未だ下手に出ているが、俺がその気になったらお前なんて一発だからな!」


 初老の捜査官は、硬軟織り交ぜてキャフを精神攻撃してくる。


 出入りする他の捜査官から《落としのトクさん》とか呼ばれているベテランの技に、思わずキャフも『自分がやりました』と、全て認めて目の前にある紙にサインしそうになる。


 検挙率世界一を誇るアルジェオン警察の仕組みが、理解できそうだ。

 捜査官の言葉一つ一つが、キャフの精神を確実に蝕んでいった。


あいつ(皇子)の言った意味は、これか……)


 『ランクの高いモンスター相手に頑張ってね』、の意味かと誤解していた。

 確かにムナ皇子がいなくなったら、王家の一大事だ。

 王家もムナ皇子がドラゴンの転生した姿だとは、知らない。

 そしたら一緒に冒険しにいったキャフ達が疑われて、当たり前だ。


 その後も罵詈雑言を浴びせられ、取り締まりは続いた。


「可愛いじゃねえか、あの3人。もうヤったのか?」

「い、いや……」

「そうか、誰が好みなんだ?」

「まあ、色々」

「俺はフィカだな。身体検査で拝ませてもらったが、甲冑脱いだら、意外に華奢で可憐な乙女なんだな。肌も透き通るように白いし、ギャップがたまんねぇわ。お前もそうだろ? ミリナもデカくてたまんねえな。ラドルも、一部の男どもには人気だったぞ」

「あ、ああ」


 彼女達の辱めに、内心憤るキャフであった。


「そう言えばフィカ、取り締まりのとき泣いてたぜ。ありゃ、あんたを相当恨んでるな」

「彼女、何か言ってたのか?」

「さあな。お前さん、なんかやましい事でもあんのか?」


 こうやって疑心暗鬼にさせるのも、彼らの技だろう。とにかく無実であるのだから、事実を正直に話すしかない。だが3人が何を言っているのか、キャフには検討がつかない。やましいところも多少あるキャフだが、今は彼女達を信用して冤罪を晴らすのが一番だと、キャフは折れそうな心を奮い立たせた。

 それに今は、もっとまずい事がある。


「クムールの奴ら、ヤバいぞ。戦争始める気だぞ」

「どこと?」

「アルジェオンだ」


 急に取締官は、笑い出した。


「何言ってんだ? お前? アルジェオンは百年以上他国に侵略してないし、平和憲法で守られてるんだ。クムール帝国と言えども、そんな事すれば世界が黙ってないだろう?」


 ……こいつに何を言っても無駄だと、キャフは悟った。



 ───そして部屋に戻って来たのが、今である。


 取調べ室への移動の時も、屈強な護衛官が3人、キャフの前後についている。

 元々魔法を使えなければただの人だし、弓矢も没収されているし、脱走は無理だ。

 今はどうしようもない。囚人達の出す音がうるさいが,体力温存のためにも早めに寝た。



 翌日からも執拗に、取り調べが続く。


 キャフは正確に語り、無駄な事は言わないように気をつけた。しかし相手は強者だ。初日とは変わって、ふとした会話から皇子の話へと話題をすり替える。3人の様子も断片的に伝えてきて、キャフを揺さぶってくる。


「お前も大変だなあ。これで裁判になったらどうなると思う?」

「どうなるんですか?」

「良くて追放かな。お前の場合は国家転覆罪も加味されるから、刑務所はここじゃなくてアルカトロズ島になるだろうな」

「マジか!」


 アルカトロズ島は、入ったら二度と出て来れないので有名な監獄だ。

 アルジェオン国民は、誰も知っている。

 そこから脱獄する様子を描いた演劇も有名だが、みなフィクションだと知っていた。


「お前、良い奴だよ。俺が何とかしてやるからさ、もう少しホントの事言ったらどうだ? ほら、俺が昨日徹夜して書いたんだ。事実はこうなんだろ? それでここにサインすれば、一件落着だから……」


 そこにはもっともらしい文言が何枚にも渡って書かれ、最後はキャフがやりましたという結論になっている。まるで見て来たかのように迫真に迫る文書だが、キャフは既に文字をまともに読む気力すらなかった。


「サイン,するか?」


 トクさんが一段と優しい声で、迫る。


「いいえ」


 キャフは気力を振り絞り、抗う。


「ちっくしょ、ここまでやって落ちねえのは、お前が初めてだ。覚えてろよ! 明日から裁判だ!!」



 そうして翌日、裁判所へ出頭する為にキャフは護送馬車に乗せられた。

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