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第094話 旧道へ

前回のあらすじ


このパーティー、強いわ。ケルベロスも楽勝だぜ! 直ぐに王都に戻れそうだ!!

 体力や魔素も十分回復し、早朝から出発する。昔の記憶をたどると、旧道までの距離はそう遠くない筈だ。手強いモンスターがいるとしても今日中に着くだろう。はやる気持ちを抑えて、キャフ達は慎重に森の中を進んだ。


「この辺りのモンスターは、一体一体が強力だ。だから群れる奴は少ない」

「他に、どんなのいたニャ?」

「サイクロプスとか、合成キメラとか、リザード系やインセクト系もいたな」

「どれも厄介そうだな……」

「お前達なら、大丈夫だ」


 3人を励ましながら、先へ進む。

 似た景色が続くため、思ったより方向感覚が掴み難い。


 重い荷物を背負ってるので、腰や膝に負担がかかり過ぎないように背筋を伸ばし斜面は横向きで、剣や魔法杖を杖代わりにしながら辺りを警戒し、無理せずにゆっくりと下って行く。


 どうも渓流から離れたらしく、岩場は少なくなった。足元は腐葉土が蓄積していて滑りやすい。時折足がとられそうにる。


 アルジェオンは温暖で雪も降らないから、冬眠する動物は少ない。だからこの時期、まだマムシ等モンスター以外の動物達も徘徊しているので、注意しながら先を急いだ。もう一度渓谷を見つけたら下山の目安になるが、しばらく歩いても鳥の鳴き声が響くだけで、水の音はしなかった。


 小一時間ほど進んだとき見晴らしの良い場所を見つけ、現在地の確認をする。


「けっこう下までおりてきたな」

「ああ、どの辺だろう?」

「あっちにウルム山脈があるから、イデュワはこっちだな」

「今は昼過ぎだけど、旧道まで行けるかニャ?」

「多分、大丈夫だ。今後の為にも、この辺で腹ごしらえするか」


 そうして各人が手近にあった岩や草叢に腰掛けて、持ってきた保存食を食べていると、


 ドシーン、ドシーン


 と大きな音が聞こえ、眼下の森が震動していた。

 キィイー、キィイーと鳴きながら、慌てた鳥達が飛び立っている。


「何だ?」

「またAランクのモンスターですかね?」


 グアアオオォオオ!!


 と雄叫びがあがり、立上がったのか、木々の間から巨大なトカゲの頭が見えた。


邪悪なトカゲ(イービル・リザード)だな。ウロコが相当固いが、フィカが持ってる剣なら傷つけるのは可能だ。オレの矢かラドルの魔法で目つぶしすれば、何とかなる」

「分かった」

「頑張るニャ!」


 早速、いつものように手慣れた動きで邪悪なトカゲ(イービル・リザード)を囲み、ミリナの指示で攻撃を開始する。キャフの矢が目に命中し、狼狽えたところをフィカの剣が襲う。


 ウギャァアアア!!


 粘り強く闘い、四人の力で何とか邪悪なトカゲ(イービル・リザード)も討伐した。

 Aランクの魔法石もゲットだ。


 その後もいくつかのモンスターに遭遇し、機転をきかせてうまく逃げたり、4人の連携で攻撃したりと、乗り越えていった。魔法石も人数分揃った。これなら確実にAランクになれる。この称号があれば、就職には困らないだろう。



 やがて気付いたら平地となり、目指す旧道が近づいて来た。


「そろそろかな?」

「あ、何か標識があるぞ!」


 キャフを先頭に4人が駆け寄ると小道があり、そこには《旧道まであと2キロ》と書かれた標識が立てられている。人工物を見るのは、このモンスター生息域(ハビタブル・ゾーン)に来て初めてだ。


 やっと辿り着いたのだと、万感の思いが胸によみがえってきた。


 思えば、魔法を使えなくなってから数ヶ月たった——


 単にモドナに観光旅行に行くだけのつもりが面倒事に巻き込まれ、気付いたらクムール帝国へ行き、転生したドラゴンに会ったり、フィカやミリナ達とも出会った。それに旧友のギムと会えたのは望外の喜びだ。今でも変わらぬあの笑顔と自分を気づかう優しさに、キャフは感謝してもしきれなかった。


 シェスカさんやグタフの件はショックで殺されそうにもなったけれど、人生とはそんなものかもしれない。他にも色々あったが、生きて帰って来た今、すべては良い思い出だ。魔法協会の村社会でずっと井の中の蛙でいるよりも、良い経験を得たと言える。


 クムール帝国の件は、ギムと女王に伝えれば何とかなるだろう。

 そもそも一介のおっさんが、どうにかできる代物では無い。


 ただあの《未来の子供》達は何とかしてあげたい。

 クムールの閉鎖的な環境を、簡単には壊せないのは分かっている。

 しかし世界中の魔導師達と協力すれば、働きかけが可能かも知れない。

 帰ったら他国にいる知り合いの魔導師達に手紙を書くこうと、キャフは思った。


 そうだ、どうせならこの冒険談を本にするか? 『魔導師キャフの華麗なる冒険』なんてタイトルで、ウケるかも知れない。皇子の活躍を全部自分の手柄にしてイケメンの挿絵を描いてもらえば、ベストセラー間違い無しだ。多少盛っても良いだろう。


 有名になったら昔のシェスカさんみたいな若い女の子もわんさか来て、ハーレムを作れる。この三人も器量は良いんだけど扱い難しいし、奴隷でも買うか。そうすりゃ魔法はラドルにまかせて、毎晩豪遊できるな——


 キャフは今までの出来事を走馬灯のように思い浮かべ、妄想していた。



「あ、誰かいるニャよ!」

「あれは、警備隊か王立軍のようだな。助けてもらえるぞ」

「おーい!!」


 甲冑に身を包み腰には剣を携えて馬に乗った一団が、旧道らしき場所を行進している。キャフ達に気付いたらしく、馬の歩みを止めてくれた。ちょうど良い。重い荷物を背負いながら、4人は何とかその一団に合流しようと急いで歩いた。


 旧道に出て、彼らと向かい合う。奥からリーダーらしき兵士が乗る馬が、キャフの前へとやって来た。鋭い眼光で、髭の脇の刀傷が目立つ。闘い慣れている風体だ。


「助けてくれ、冒険者だが、遭難しちまって……」


 男は何も答えず、訝しげにキャフを見る。

 フィカ達3人は、キャフにまかせて大人しくしていた。


「地図も持ってねえから、冒険者ギルドの場所も分からなくなっちまったんだ」


「……魔導師キャフだな」


 突然、男はキャフの名前を言った。


「へ? あ、ああ確かにそうだが……」


「ムナ第四皇子の誘拐容疑で、逮捕する」


「……は?」

「へ?」

「何で?」

「ふニャ〜!」


 こうして4人は、囚われの身となった。

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