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第092話 下山

前回のあらすじ


クムール帝国の事情、大変そうだけど言いがかりっぽいような。。

 さて、舞台は再びキャフ達のいるペリスカ山に戻る。


「良い眺めだニャ〜」


 ラドルが感嘆するように、既に紅葉が始まったペリスカ山の眺望は絶景だ。チグリット河も未だこの辺りは渓谷を流れる澄んだ川で、沢山の川魚が泳いでいる。ここから見える他の山々も華やかで、見飽きる事は無い。


 こうして下山するキャフ達一行であるが、ここは未踏の地、道は整備されていないから注意が必要だ。山に囲まれているのでマッピングも覚束ない。止むを得ず渓谷沿いに進む。滑落やモンスター遭遇に注意して、ゆっくりと時間をかけて下りていた。


「キャフ師、昔もこんなに大変だったのですか?」

「いや、空中浮遊の魔法を使えたからな。オレが3人を乗せてひとっ飛びだ」

「え〜 それ、使えないのニャ?」

「魔法使えねえんだから、仕方ねえだろ」

「ちぇ、イキってた癖に」

「それ、止めろ」


「おい、キャフ、この辺りのモンスターはどんなのがいるんだ?」

「ああ、そうだった。かなり手強いぞ。全てAランク以上だ」

「え、そんなに!?」

「ああ、何せ最終決戦の地だからな」

「師匠、昔はそのモンスター達も倒してたニャんか?」

「当たり前だ。瞬殺よ」

「あ、イキってる、イキってる。イキり師匠だニャ〜」

「うるせえな」

「キャフ師、ホント、昔はこうだった、俺SUGEEEばかり言ってると、私もイキり師匠って呼びますよ。今は私達がいないと単なるDランクの弓兵なんですからね。色々教えて貰えるからついていきますが、立場は忘れないで下さい」

「……分かってるよ」


 どうも、2人がイライラしている。もしかして皇子がいなくなったせいだろうか。まあ確かに気持ちは分かる。だがキャフも、憧れのシェスカさんが敵だと知って少なからず傷心であった。


 ただ2人とも本気で怒ってはないので、目くじら立てず言うがままにさせておく。逆にこれくらいの軽口で言い合えるのは、結束が固い証拠だ。それにもう皇子(美少年)もおらず、以前のハーレム状態に戻った。主人公の座を明け渡す事も多分きっと恐らく無い。


 少し情けないが、気が大きくなって余裕も出て来たキャフである。


「あ、キノコあるニャ!」

「いや、止めとけ」

「いえ、これなら軽く茹でて食べられますよ」


 ミリナは博識で、山の植物に精通していた。

 今後の為にも食用の山菜を採りながら進む。


「夜はどうやって寝てたんニャ?」

「ああ、異空間魔法を使えたから、モンスター襲撃なんて考えても無かった」


「またイキってるニャ〜 じゃあ、今からうちらはどうするニャ?」

「ランクが違うからな。仕方ない、オレが寝ずの番をするよ」


「じゃあ、私も交代でしようか」

「私達もやりますよ、みんなで交替しましょう」

「当然ですニャ」


 現実問題としてここに居る以上、Aランクのモンスターに立ち向かわねばならない。改めて装備を確認したが、モドナで買った刀剣や甲冑はCランクほどで、Aランク相手には心もとない。


「この辺は、むかしの皇子の住処で聖地だから、モンスターがいないな。休憩するか?」


 キャフが提案した。


「そうだな、疲労も回復したい。無理せず明日の朝まで休むか」

「そうしましょうニャ?」

「はい」


 と言う訳で、食事の用意を始める。

 渓流に下りて釣りをすると鮎が釣れたので、塩焼きにした。

 皇子はいないが、釣りはラドルもうまかった。


 キャフは懐かしいのか、渓谷をあちこち行ったり来たりしている。観光で紅葉狩りに来ている訳では無いけれど、紅葉が美しい木々はしばし冒険を忘れさせてくれた。


「あ、あったかも」


 キャフはそう言うと何かを見つけたらしく、頑丈な岩場のなかでも一際大きな岩を動かそうと押し始めた。どうも散策していた訳じゃ無いらしい。フィカも手伝ってずらしてみるとその岩の下には穴があり、木箱が埋められていた。


「なんだなんだ?」


 他の2人も興味を持ち始め、協力して掘り出し蓋を開けた。

 中には、甲冑や刀剣があった。

 保存状態は良好で錆びておらず、使えそうだ。


アースドラゴン(皇子)との決戦の時、予備の武器類を隠しておいたんだ。何かあった時の為にってな。Aランク相当の武具だ。錆も無いから、大丈夫だろう」

「おお、未だ使えるな」

「さすがキャフ師、イキってるだけじゃないですね」


 フィカは気に入った剣を刀研ぎで研いで腰に付けた。


「さすがAランク向けの刀。軽いが丈夫だな。甲冑も後でつけよう」


 思いがけない武具に、フィカはにんまりとする。


「魔法杖は?」

「術式が必要だから置いてない。代わりにこのリングつけておけ。魔素の回復力があがる」

「ありがとうございます」

「分かったニャ」


「岩で囲んで、お風呂にしようかニャ?」

「いいな、そうしよう」

「手伝いますよ」


 ラドルが提案し、フィカとミリナも手伝い始める。

 魔法で水を温めるらしい。

 ラドルが魔法ステッキを水に突っ込むと、良い湯加減のお湯が出来た。


「じゃあ、入るか」


 内心、ニヤニヤするキャフだ。


「あ、イキり師匠はこっちで」


 ミリナがキャフの側に寄ってくると、突然防御魔法をかける。

 不意をつかれたキャフは、真っ黒な閉鎖空間に閉じ込められた。


「え〜」


 思わず本音がだだ漏れのキャフである。


「お前、死にたくないだろ?」

「は、はい……」


 遠くで乙女達のキャッキャする声が聞こえる。

 だがキャフは、ふて腐れて寝ていた。


 気付くと、風呂上がりのミリナが魔法を解除してくれていた。

 それではと、キャフもしょぼしょぼと風呂に入る。


 湯加減は抜群だ。加えて苔むした老騎士のように気高い木々に囲まれての露天風呂は、十二分にリラックスできて格別だった。


 何だかんだで、そろそろ寝る時刻となる。

 寝袋を用意し始めた時、キャフがミリナに聞いた。


「お前、これ使って防御(シールド)魔法を出せるか?」

「大きな畜魔石(チャージ・ストーン)ですね。やってみます」


 そういって防御魔法を唱えると、上手い具合にドーム状のシールドが発動した。


「これなら、寝てる時も大丈夫だろう」

「そうですね、ありがとうございます!」


 と言う訳で、4人とも疲れを癒し、久しぶりにゆっくりと休んだ。



 翌朝、疲れも取れて心地よい目覚めの後にそれぞれが仕度した。


「良し、行こう」


 とキャフが3人に声をかけ、一行は再び下山の途につく。

 川沿いに進むと、森は段々深くなり始めた。


 暫くすると森の中で、ドシン、ドシンと何かが歩き、木がボキボキと折れる音が聞こえてきた。いよいよ、高ランクモンスターが登場のようだ。

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