第009話 さまよう3人
前回のあらすじ
のぞきダメ。ゼッタイ。
……
「……師匠、だいじょうぶニャ?」
「う、うーーん……」
ラドルの声に気付くが、まだ頭がズキズキして目を開けるのは辛い。
倒れて横たわっているようだが、腕を動かすことすらままならない。
「犯罪者に、同情する余地などない」
(犯罪者? だれだ? どこにいる?)
「まあ、そうニャンだけれど……」
「じゃあこれ、切り落とすか? 女に無いんだし、余分だろ」
「いや、そ、それは可哀想ニャン! 師匠が男じゃなくなるニャン!」
(なにぃ?)
その会話で人生最大の危険を感じたキャフは目を見開き、股間の直ぐ側にある剣に気付いて硬直した。お付き合いしている女性はいないがこれがないと生活に不便だし、強烈に困る。
(犯罪者って……おれ?)
男一代の非常事態に、キャフは頭に血が上りそうであった。
「お、起きたな」
フィカと目が合った。昨日と同じ鉄の甲冑姿だ。
だが昨日と違い遥かに凍てついた表情で、穢らわしい物を見る目をしている。
「い、いや……」
キャフは、二の句が継げない。
「どう弁解する? 覗きは犯罪だ」
「そ、そんなつもりは……」
ないとも言えないし、あったと言ったらヤバ過ぎる。
「フィカ様、師匠も反省してるから、今回ばかりは見逃して欲しいニャ〜」
ラドルは、必死に嘆願していた。
キャフは済まなく思い、心の中で謝った。
「甘いぞ、それが次の犯罪を産むのだ」
「い、いや本当にスマン」
「捜索隊も、犯罪者を取り締まる警察権を持つが。なにか弁明はあるか?」
「す、済みませんでした……」
キャフは、素直に謝った。
「男には見せてない、わたしの裸を見たんだ。それでは誠意が足りなくないか?」
剣を股間に押し付けて来る。チクッと刺激が走った。このままじゃヤバい。キャフは、なりふり構わず謝り始めた。
「ご、ごめんなさい! すみません! 出来心だったんです! だって2人とも居なかったし! お願いします! 許して下さい! 本当に、ご め ん な さ い !!」
「……まあ、良いだろう。次は無いぞ」
そう言ってフィカは剣をおさめ、キャフの下を離れた。
(ふう……)
身の縮まる思いであったが、何とか切り抜けた。
もう二度としまいと、心に誓うキャフである。
「……師匠、ちょっと情けないニャ。ドン引きニャ」
じと目で、非難がましくラドルは言う。
やっぱりラドル個人も怒ってるようだ。
当たり前といえば、当たり前である。
「……しょうがねえだろ」
無様な弁明で、自分で言ってても情けない。
「ま、それはともかく師匠、朝めし食べようニャ!」
ラドルが呼びかけ、気まずいながらも2人の前に向かう。
思ったほどフィカは気にしていないようで、普通に3人で囲んだ。
「ラドルが作ったニャ! 近くにあったキノコを入れてるニャ!」
「お、なかなか美味しいな」
「たしかに」
ラドルの魔法で温めたようだ。キノコスープは美味で、食が進む。
「ごちそうさまニャ〜」
「ごちそうさま」
「うむ」
「じゃあ、これからの予定を考えようか」
フィカが、提案する。
「日が出た位置は?」
「ここじゃ分からん。さっきの池まで行き、方向を確認して歩くしかあるまい」
食後の運動も兼ね、3人で先ほどの池まで歩いて行く。
太陽の方角はすぐに確認出来た。
「お前のためにも、水は十分量くんであるからな」
「あ、ありがとう……ございま……す」
「何時もの言葉遣いで良いぞ。あっちが東だ。旧道付近の地図を見てみるか」
フィカが腰巾着から地図を取り出した。
「わたしが君達と遭遇したのは、ここだ」
と、ペンで丸印をつける。
「今は?」
「だいたいこの辺だと思う」
「池は書かれてないぞ?」
「既にモンスター生息域だからな。まともな地図はないんだ」
「じゃあどっちに行けば?」
「とりあえず、こっちに行けば旧道にぶつかるだろう」
そう言う事で行き先は決まった。
3人は各自の荷物を背負い,出発となる。
「いいか、くれぐれも足元には気をつけろ」
フィカの言うように、この辺りは起伏が激しく歩きにくい。膝への負担もかなりのものだ。朝から色々あったキャフは疲労を隠せないが、生き延びる為に気力を振り絞って進んだ。
……
だが暫く歩くと、キャフは2人の異変に気付いた。
「師匠、なんだかふにゃふにゃするニャ〜」
ラドルの様子がおかしい。酔っぱらったように、足元がおぼつかない。
「大丈夫か?」
そう言ってラドルにベタベタするフィカも、どこかおかしい。
仲が良いのは構わないが、さっきまでと明らかに違う。
そのうち、キャフの気分も何だかおかしくなってきた。
「おまえ、何のキノコを入れたんだ?」
キャフは不安になって、ラドルに聞いた。
「ちょうど、これと同じシノタケだニャ」
ラドルは木の根っこに生えているキノコを、指差した。
「バカ,これツキヤタケだ! よく見ろ、柄が違う。毒入りだ。ヤバいぞ!」
「ふにゃー!! おなか痛いニャ〜」
バタ!
耐えきれなかったようで、フィカが倒れ込んだ。
「すまん、見ないでくれ」
苦しそうにフィカが言う。
「ああ、分かった」
キャフが答える。
続いてラドルも座り込む。ぐったりして声も出ない。
キャフも、2人の存在が確認できる程度の距離で、横になった。
(いやー、参った……)
頭がぐるんぐるんと回る。ちょっと場所を離れ、嘔吐してすこし楽になる。
2人の症状も気になるが、見ないのが良いだろう。
……数時間後
「大丈夫か?」
ようやくフィカが立上がったようで、こちらを見た。
まだフラフラしている。
「な、何とかニャ……」
ラドルも、復活したらしい。
「オレも何とか。そろそろ行くか?」
「ああ、先を急がねば」
3人は、再び出発した。だが幾ら歩いても、旧道に出る気配はない。
どうも、道に迷ったようだ。
「お腹減ったニャ〜」
段々元気がなくなるラドルであった。
「我慢しろ。また毒キノコ食う気か」
キャフもなだめるが、かなり空腹だ。
「これ、非常食だ。だが、もうこれで終わりだ」
フィカが2人に渡すと、あっという間に平らげた。
「師匠、海はまだかニャ〜」
「当たり前だ、とにかく旧道に出るぞ」
3人は気力を振り絞り、歩いて行く。森も深くなり、光も弱まってくる。先ほどまでは気にならなかったゴツゴツした足元も、段々厄介になる。
すると「見ろ!」と突然、先頭を歩くフィカが叫んで手招きをした。
2人が追いつくと、そこには山菜を採った後と足跡があった。
「人か?」
「足跡からして違うな。我々より一回り大きそうだ。モンスターだろう」
「オーク?」
「ゴブリンにも大型がいる。いずれにせよ,近くに居るのは間違いない」
「そうだな。ラドル、お前索敵スキルなんか無いのか?」
「ないにゃ…… 師匠だって、何かないのかニャ?」
「ねえよ」
その時だ。
ブヒ、ブヒ! ブーーヒーー! ブヒブヒ!! ブフフーー!
遠くで声と足音がした。それはオーク達だった。




