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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第六章 魔導師キャフ、クムール帝国に潜入する
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第089話 昔話など

前回のあらすじ


色々問題は残ったけれど、とりあえずアルジェオンに戻ります。

「つまり皇子は元々アースドラゴンで、師匠に倒されて転生したら皇子になったってことニャ?」

『うん、そうだよ』


「キャフ師の昔って、どんなだったんですか?」

『まあ顔や体格は今とあまり変わんないかな。もっとイキってたけどね。術式の詠唱もやたら凝ってたし』

「ちょ、止めてくれよ」


 ここはアルジェオン王国上空、モンスター生息域である。4人はアースドラゴンとなった皇子の背中に乗り、空の旅を満喫中だ。比較的低空飛行なので、眼下に広がる深い森や草原、活火山や沼等の壮観な風景を楽しんでいる。「雲の中って霧みたいなんですね」と、初めてみる景色に興味津々だ。


 それに加え、キャフを除く3人は皇子の正体を知らなかった。

 だから闘いも終わって一息ついた今、質問タイムが始まる。


「やっぱり師匠、強かったニャ?」

『そりゃ、僕を倒したんだからね。ドラゴンスレイヤーのダメージに加えて、キャフ君のが致命傷だったよ。あれは効いたね』

「恨んでます?」

『そうだね…… 今も振り落とせたら、と思うかな……』


 その言葉を聞き、キャフどころか3人も、ひしっと皇子(ドラゴン)の背中にしがみつく。


『大丈夫、冗談だよ』


 余裕があるのか、ドラゴンとなった皇子は笑っていた。


(笑えねえ……)


 味方なら頼もしいが、昔の因縁がある手前、素直に信じられないキャフである。よく考えたらドラゴンに戻った今、魔法を使えないキャフには復讐し放題だ。卒業したヤンキーがお礼参りに先生をボコボコにするより、キャフを殺すのは簡単かも知れない。


『そりゃ、転生したと気付いた時にあの痛みも同時に思い出したから、恨みもしたさ。転生って何度しても嫌なもんだよ。さっきのシェスカの話も気に入らないしね。でもキャフ君達とは、純粋にお互いの力を尽くして闘って敗北したんだ。それに噓はない。だから今さら恨みは無いよ』


「そう言えば王家の生活って、どうなんだ?」


 皇子の気が変わらないうちに、話題を変えるキャフである。


『ああ、僕は第四皇子だったから、気楽な身分だったよ。二十歳過ぎても公務が無かったし、毎日好きに遊んでいたな』

「二十歳って、私達より年上なんですか?」

『うん、今だから言うけどね。色々噓ついてて、ごめんね』

「いえ、遊んでもらっただけでも嬉しいですニャ」


「今の女王や、他の皇子達とはどうなんだ?」

『ルーラ姉さんは、少し世間知らずだけど良い人だよ。女王になって、取り巻き連中がちょっとあれだけどね。第二皇女のミラ姉さんは、自分と同じで気ままに暮らしているね。公務はこなすけど王位継承権は第三皇子より低いし、僕と同じで野望も無いからね。第三皇子のリル兄さんは、キャフ君も知ってるんじゃないの?』


「ああ。単に会っただけだが」

『あの通りの人だよ。王家の一族にも関わらず、全然魔法も使いこなせないし、俗物の塊だね。でも姉さんに何かあったら、彼が次の国王だよ。野望も持っているから、王宮は派閥争いもあって面倒なんじゃないかな』

「そうか」

『ああいう人だからね、冤罪でキャフ君を遠ざけたのも分かるよ』

「何でニャ?」

『凡人は、天才を疎んじるんだ。それは世の常さ』


 皇子は南西の方角に飛び、アルジェオンの旧道も見えて来た。更に向こうの山の合間に白く光る塔がある。王都イデュワの⦅三羽の白鳥⦆だ。久しぶりの姿を見て、懐かしい思いにとらわれるキャフであった。


『あ、あれ! 見てみて!』


 急に皇子が言うので下を見た。そこにはモンスター生息域にも関わらず、人工物の周りに、黒く光る何かが動いている。


 恐らく、以前も見かけたダンジョンの一つだろう。そしてあの周辺にいる黒い物体をよく見ると、クムール軍兵や動く石像(ゴーレム)であった。俯瞰して眺めると良く分かるが、一箇所どころでは無い。アルジェオン人は殆ど立ち入らないチグリット河沿いに、既にクムール帝国の基地が何箇所もある。


「あいつら、ここまで来てるんだな」

『あ、あそこに船があるよ』

「ホントだ」

「港からの道が、それぞれのダンジョンと繋がっていますね。補給基地でしょう」

「キャフ、早く連絡しないと、流石にまずくないか?」

「そうだな、帰ったらギムとあわせて、上申しよう。ただ誰に言うかだな……」

『姉さんに直接言った方が早いよ。間に誰かを入れると途中で都合良く処理されるから』

「そうか」


『とりあえず、一発撃っとく?』


 そう言うと皇子は、手身近なダンジョン目がけ、竜の咆哮(ドラゴン・ブレス)を撃ち放った。ドカーンと派手な音がして、衝撃に驚いた鳥達が、森からバタバタと飛び立つ。ダンジョンに直撃したようだ。黒煙が立ち上り、周りは慌てふためいている。こちらを見つけて何か騒いでいるが、無駄だろう。


『はは、クムールの兵士達も逃げ惑ってるね。蟻の巣穴から出てきたみたいだ』


 他人事のように言う皇子は、やはりドラゴンである。


「あ、世界樹ですね」


 更に飛んで行くと、神々しく巨大な世界樹が、目の前に現れる。


「凄い! こんな近くに見えるニャ! まだまだ上があるのだニャ?」

『ああ、星まで伸びてるとか。でも僕は苦手だから、近寄らないよ』


 あの時の冒険で知っているが、あの聖剣を最終的にドラゴンスレイヤーへと変貌させたのは、世界樹に住むエルフ達のおかげだ。元々ドラゴンとエルフはお互い長寿だからか仲が良くない。


『ペリン山脈が見えて来たね』


 どうやら、目的地が近づいて来たようだ。

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