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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第六章 魔導師キャフ、クムール帝国に潜入する
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第088話 脱出

前回のあらすじ


皇子、復活!

『待たせたな!』


 ミリナを背中に乗せた皇子(ドラゴン)はそう言うと、動く石像(ゴーレム)の中にドシンドシンと突進する。皇子(ドラゴン)の方が二回り大きく、さすがの動く石像(ゴーレム)達も敵わず蹂躙されるがままだ。竜の咆哮(ドラゴン・ブレス)を浴びた動く石像(ゴーレム)は、高熱で溶け落ちる。やはり皇子頼みだが、これで形勢逆転だ。


『学習不能、学習不能』

『計算デキマセン』


 動く石像(ゴーレム)達は、完全に混乱している。


「3人とも、乗って下さい!」


 ミリナの呼びかけに応じ、3人は皇子(ドラゴン)の足にしがみつき背中までよじ上った。


「あらら。逃げられたら、あんたの立場もまずいよね」

「うぐぐぐ…… シェスカ殿!」

「分かったよ」


 シェスカは、壇上から高速移動でドラゴン目がけ、ドラゴンスレイヤーで切り込んだ。やっと回復した所であるから、再び聖剣(ドラゴン・スレイヤー)で傷つけられるとまずい。治癒の必要ができたら逃げる間が無くなる。


 命中しなくても良いから時間稼ぎにシェスカに向け竜の咆哮(ドラゴン・ブレス)を撃とうとした皇子だが、シェスカの背後にある学校を見て、躊躇した。


「シールド!」


 カーン!


 再び、ミリナが防御魔法を繰り出す。間一髪、間に合ったようだ。シールドに跳ね返されたドラゴンスレイヤーの刃音が、空しく響き渡る。成長で魔素が増えたのか、ドラゴンスレイヤーの攻撃をはねつけるとはかなりの強度だ。ミリナの防御魔法は、既にAランク以上かも知れない。


「ちぃ!」


 シェスカは悔しそうに舌打ちする。ミリナの防御の光に包まれたドラゴンは4人を乗せて上昇し始めた。風圧が、動く石像(ゴーレム)達やシェスカの動きを封じ込める。


『ひとまず、逃げるぞ』

「ああ、頼む」


 4人を乗せた皇子(ドラゴン)は、チグリット河を目指し飛んでいった。


「凄い……」

「綺麗ですニャ〜」


 もう明け方で、地平線から陽が昇り始める。

 初めて空からの夜明けを眺めた4人はその美しさに感動し、見とれていた。



「あ〜あ、行っちゃったね」


 シェスカは残念そうだが、心無しか顔は笑っていた。


「し、シェスカ殿、申し訳ございません……」


 兵士に破壊された動く石像(ゴーレム)の後片付けと追跡を命じた後、グタフは心底申し訳ないように平身低頭で謝った。敵に兵器情報を見せてむざむざ逃がす失態を犯したのだから、懲罰は免れないだろう。


 クムール帝国は皇帝による恐怖政治が基盤である。失敗した人間は、はり付けの刑等で公開処刑されるのが常であった。グタフもクムール帝国に来て、似た場面を何度も見ている。アルジェオン出身だという知り合いの中にも、作戦失敗の責任を取らされて自決した者がいた。やはり外様は矢面に立たされやすい。


「そんな、気にする事は無いわ。坊や、ああ見えても幾多の難関を潜り抜けて来て実戦経験豊富だから、あんたが思ってるより,結構やるのよ」


 一方シェスカは、あっけらかんとしていた。噂に聞いているが、彼女は皇帝の寵愛を受けているからかも知れない。彼女自身にえこひいきや偏見は無く実績で公平に判断するから、一緒に仕事はし易い。だがとにかく彼女を敵に回す訳にはいかない。


「す、すいません。侵攻計画に支障が……」

「まあ、二十年以上かけて仕組んできたんだから、何とかなるわ。少し遅れるだけだし、まだ本命もあるしね。どうする? ちょうど皇帝様から呼ばれているのだけど一緒に行く?」


「で、でも、私ごときが……」


 グタフは、皇帝の顔を肖像画でしか見た事は無い。まだ二十代の若者だけれど、端正な顔立ちで威厳を備え、全ての帝国民が信奉している。だが暗殺を怖れ宮殿にも滅多に顔を見せないと言う話もあり、謎は多かった。


「気にしない、気にしない。あの将軍2人もいるだろうけど、あんたも役に立ってるから」

「は、ありがたき幸せ……」


*   *   *   *   *


「何とか逃げられたニャ〜」

皇子(ドラゴン)様々ですね」


 ドラゴンは一行を乗せ、まず船を隠した岸辺に下りた。


「今から、どうする? モドナに戻るのか?」

「そうだな…… ドラゴンとなった皇子を、モドナへ連れて行く訳にはいかないだろう」

「確かにですニャ〜」

『それなら、僕は昔の住処だったペリン山脈に行きたいんだけど、良い?』

「あそこか…… 王都イデュワにも近いから、帰りやすいか」


 ペリン山脈は、ウルノ山脈から少し離れてある小さな山脈だ。

 ウルノ山脈に比べ山の標高は高く、殆どの場所は、人が立ち入れない


 まさか、そこでキャフを殺そう等とは、多分思ってないだろう。


「荷物はどうする?」

「船ごと持っていければ、手っ取り早いんだが」

『背中が汚れるから、嫌だよ』

「ああ、そうだな。すまん」

「早くしないと、追っ手が来るかもしれません」


 ミリナの指摘通りだ。4人は持っていける分の荷物を背負い、ドラゴンの背中に乗ろうとする。だがキャフだけは先ほど居た学校の方を見て、たたずんでいた。その顔は悲しそうである。


「キャフ師、どうしたんですか?」

「……オレは、あの子達を助けられなかった……」


 ……


 その言葉に、3人は答えられなかった。キャフは沈痛な面持ちである。

 今こうしている時も、マルア達は魔素を吸い取られ苦しんでいる。

 だがあの子達を助ける手段が、今のキャフ達には無かった。


「……オレは間違っていたのだろうか……畜魔石(チャージ・ストーン)なんて、造らなかったら良かったのだろうか……」


 自責の念にかられるキャフであった。


「……それは違うな。いずれ似た物は発明されただろう。お前のせいじゃない」


 フィカは、いたわるように言った。


「そうですニャ、クズフが悪いだけで、師匠は悪くないですニャ!」


「……分からんな。とにかく今は戻るか」

『じゃあ、行くよ!』


 今度こそ皇子(ドラゴン)は翼を大きく広げ、アルジェオン王国へと飛んで行った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] クズフって、しれっと言いましたね! ラドルったら。 シェスカを通してクムール中枢の気配が感じられ、非常に楽しいです。 皇子頼み。良いではありませんか……! (決して竜が好きだからとか、元…
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