第087話 本音
前回のあらすじ
ゴーレム一体撃破! と思ったら、次が……
動く石像は一体どころか数十体以上現れ、容赦なくキャフ達3人に迫って来た。手作りなのか、顔や胴体の形状がそれぞれ多少違う。武器は携帯していないけれど、多分さっきのように胴体から大砲が出るのだろう。
「こ、これは厳しいニャ……」
「諦めるな」
「そうは言っても、どうする? キャフ?」
キャフは2人を鼓舞しつつも、厳しい情勢だと理解していた。まったく多勢に無勢だ。一体倒すのにあれだけ手間がかかったのだから、こんな数を一度に相手するのはかなり無理がある。
(やるしかねえな……)
「多分だが、同士打ちになるから簡単に大砲は撃ってこないだろう。散開して、的を絞らせないようにする。各自の判断で攻撃しろ」
「分かった」
「りょうかいニャ」
勝ち目のない闘いだが、自分達が死んでも少しはダメージを負わせ、アルジェオン王国への侵攻を遅らせたい。こんな動く石像が領土に侵攻したら、あっという間に占領されるだろう。畜魔石をクムール帝国に持ち込ませた責任も感じているキャフは、何としても一矢報いたかった。
3人は散らばり、それぞれ攻撃を始めた。予想通り向こうは未だ学習能力が低いのか、うまくかわすとぶつかり合って転倒したりする。2人は俊敏な動きで敵を撹乱した。キャフも長年の経験でコツを掴み始めた。
だがやはり、甘くはない。
『フォーメーション、パターンV』
『パターンV』『パターンV』『パターンV』……
突然、動く石像達が何かを言い始めると、数十体が連携して円状に繋がり、3人を囲んだ。そしてその距離はどんどん詰まって気付くと隙間ない壁となり、3人に迫り始める。
「ふニャ!」
「キャフ、どうする?」
(これは、やべえ……)
動く石像達の壁は高く、脱出する手立ても無い。ちらりと皇子達を見たが、回復は予想以上に難航しているようで何の動きも無い。やはりドラゴンスレイヤーで受けた傷は修復しづらいのか。そうこうしているうちに3人は完全に包囲された。
「師匠、ごめん。もう魔法撃てないニャ……」
ラドルは肩で息をしながら、律儀に詫びを入れていた。
「ほら、貸せ」
キャフは畜魔石を受け取り充填するが、間に合うかは分からない。
既にフィカの剣も、動く石像への攻撃で刃がボロボロになっている。
キャフ自身、矢が尽きて攻撃の手段がなかった。
『目標、捕獲。ロケット砲ノ準備ヲシマス』
「もう終わりですね、キャフ先生」
グタフは勝ち誇った笑みを浮かべ、壇上から勝利宣言をする。
余裕なのか、シェスカも傍らで憐れむように笑っていた。
「ああ、そのようだな」
キャフは、敗北宣言した。下手にイキがっても、この状況で勝つのは難しい。
そうなると、戦略を変更するしか無い。
「最後に言い残す事はありませんか? キャフ先生?」
「そうだな、グタフ。最後に聞かせてくれ。今のお前は幸せか?」
唐突に、キャフは聞いた。彼の顔付や態度に、キャフは虚栄を見出し、むしろ哀れみの情さえ沸き起こっていた。ここは一つ、あいつの深層心理をついてみるしか無い。
……
キャフの問いかけに、グタフは直ぐ返事をしなかった。
代わりに冷静で人を食ったような顔が怒りの形相へ段々と豹変し、こめかみの血管が浮き出て、握りしめたこぶしはワナワナと震えていた。明らかに取り乱している。
「あんたなあ、そんな事聞いて、はいそうです、幸せですって答えられるかよ! お前見ろよ! こんなボロ服着てる俺を!」
さっきよりも遥かにドスの利いた大声で、グタフは叫んだ。
「俺だって、アルジェオンで魔導師として名を挙げて、あんたみたいに有名になりたかったんだよ! それがなんだ、あんたがヘマしたおかげで、俺達まで職にあぶれたんだ。責任取れんのか? 取れねえだろ!! そんなあんたに何で『幸せか』、って聞かれなきゃなんねえんだよ!! そんな訳ねえだろ! もう少し分かれよ!」
一気にまくしたてるグタフは、我を忘れたようであった。傍らのシェスカが「グタフ、ちょっと冷静になりなよ」と言っても、聞く耳を持たない。感情が高ぶると猪突猛進型になるのは以前と変わっていないようだ。
「今からこいつらに潰されて死ぬんだから言ってやるけどな、どうせあんただって、あのとき偶々シェスカさんと会ったから良い目を見ただけだろ? 俺があの日あの時あの場所にいれば同じ事が出来たんだ!! それを大きな顔してドラゴン倒して来ましたって、偉そうに言うんじゃねえよ!!」
「ああ、そうだろうな。済まなかった」
キャフは、グタフの言葉を受け入れた。
意外な反応にグタフも驚いた顔をして、一瞬の間があく。
「……だがな、人のせいにしているだけじゃ道は開けん」
「シールド解除! 皇子回復しました!!」
その時ミリナの声と共に、皇子が再び現れる。
うまく時間稼ぎができた。




