第086話 ネオ・ゴーレム
前回のあらすじ
あっち、ドラゴンスレイヤーも持ってた!
兵舎から出て来たのは、動く石像であった。
オークの村を襲った動く石像と良く似ている。
「な、何ですかあれ?」
初めて見たミリナは、動揺していた。
魔法書で読んだことはあっても、実物を見るのは初めてなのだろう。
「あの時のバケモノだな」
「そのようですニャ。でもオークの村で見た時のより強そうだニャ」
「何を持ってるか分からん。とにかく気をつけろ!」
キャフ達の二倍以上の背丈で、オークの村で見たのよりも動きは滑らかだ。相変わらず不思議な顔は、クムール帝国の土着の神様か何かを体現したのかも知れない。二足歩行だが、この動く石像の足首脇には車輪も付属している。
ミリナはシールド内で回復魔法を使い、皇子の回復に務めている。そのため今の状況で攻撃できるのは3人だけだ。フィカとラドルはオークの村で戦闘した時よりランクアップしたから、以前の動く石像であれば問題ない。だがこの動く石像は、以前のより明らかに強そうに見える。
「あの子達の魔素が詰まった畜魔石ですから、新鮮で長持ちします。存分に闘って下さい」
グタフは挑発的に微笑む。尊い犠牲の下に造られた動く石像だと思うと、尚更怒りが込み上げてくる。
動く石像は3人を認識して目が光り、足にある車輪がギュイーーンと回り始め、スコープドッ◯のように一気に突撃して来た。
「逃げろ!」
ドドドドと迫力ある動きは直線的で単調で、3人は難なくかわす。だが少しでも油断したら命取りだ。校庭であるため身を隠す場所が無く、平面的な動きしかできないのも辛い。
『敵ノ動キヲ、記憶シマシタ』
動く石像はそう言うと、再び突進を試みた。
「うわぁあ!」
先ほどより速度が増した動く石像は、フィカを突き飛ばした。
どうやらこいつは、学習能力も備えているらしい。
「大丈夫か?」
「あ、ああ。少し油断した」
幸い、かすっただけのようだ。
「ミリナは皇子にかかりきりだから、ダメージを最小限にしろ」
「言われなくても、分かってる」
(ミリナが使えないから、魔法矢も駄目か……)
キャフは動く石像の関節部を狙って矢を射るものの、動きが早く当たらない。
『矢ノ速度、記憶シマシタ』
『剣ノ速度、記憶シマシタ』
『魔法ノ威力、記憶シマシタ』
一太刀浴びせるごとに動く石像の動きは俊敏になり、3人の攻撃を巧みにかわし始める。闘えば闘うほど、ますます厄介になっていく。キャフ達は疲労の色が濃くなり始めた。
「兵器と言うのは、欠点をすぐ直すものですよ」
グタフとシェスカは高みの見物と決め込み、正面玄関近くにある朝礼台に上がって、余裕の笑みを浮かべている。悔しいが、今の状況ではグタフへの攻撃は困難だ。そもそもこの動く石像は自律型なので、グタフを倒しても動きは止めないだろう。
『ロケット砲、発射シマス』
キャフ達が無策なままでいると動く石像は突然宣言し、胴体の腹部分が開いて大きな大砲が打ち出された。3人は慌てて避ける。
ドカァアアンン!!!
着弾地点の半径三メートルほどの地面が、粉々に吹飛んだ。一難去ってまた一難。動く石像は再度撃ち出す。アルジェオンの軍にも無いほどの高性能な武器だ。
「ラドル、フィカ、逃げろ!」
「フニャニャ〜!!」
炸裂する爆音と熱風の中を、3人は逃げ惑う。
「あちち、尻尾が焦げるニャ〜」
校庭の狭い空間で逃げてばかりいても、埒があかない。
(そろそろ、やるか)
『ロケット砲、発射シマス』
「よし、今だ!」
動く石像が腹を開けて大砲を撃とうとした時、キャフは弓を引き、腹目がけて撃ち放った。
ヒュッ、ズドン!
上手い具合にタイミングがあい、大砲が撃たれた後の砲身に、弓が刺さる。すると矢が腹のカバーに引っかかり、閉じなくなった。今は装甲に覆われていない砲身周辺が、剥き出しの状態だ。
「ラドル、あいつの腹目がけて撃て!」
「ファイア・アタック!!」
以前より遥かに大きな火の玉が、動く石像の土手っ腹に直撃する。動く石像はとたんに動きが鈍くなったかと思うと、動きが止まり、崩れ落ちた。
どうやら倒したようだ。
「やったニャ〜!!」
「安心するのは、未だ早いようだぞ」
フィカが言う通り、兵舎からは、更なる動く石像が続々と現れた。




