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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第六章 魔導師キャフ、クムール帝国に潜入する
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第085話 激闘

前回のあらすじ


また皇子で無双ですか。マンネリじゃないですか? もう読むの止めます。

サローヌ在住 ミリナさんより

「みんな、大丈夫か?」

「あ、ああ」

「大丈夫です」

「はいニャ」


 グタフが転送させたのだろう、皇子の竜の咆哮(ドラゴン・ブレス)が異空間を突き破った時、4人と一匹は校庭にいた。未だ夜だが、月明かりで辺りの様子は見渡せる。4人が戦闘で受けたダメージは蓄積しているものの装備は壊れておらず、何とか闘えそうだ。

 

 一方皇子はと言うと、ドラゴンのままであった。鋼のように固い鱗は様々な鉱物を内包し、万華鏡のように多様な色で彩られている。そして鋭く伸びた牙と二本の大きな角、天を駆ける両翼は、まさしくモンスター最強生物、生きる大量殺戮兵器ドラゴンだ。

 ただしキャフが退治した二十年前よりは未だ幼く、成長途中と言える。背中の広さも4人が乗れるくらいだった。


「おい、元に戻らないのか?」


 キャフは皇子に話しかけた。


『どうも、そのようだ』


 皇子は、念話で答える。


「え、皇子、ずっとそのままなの? あのずっとナデナデしたいくらい柔らかい肌で可愛い皇子は、帰って来ないの?」

『変身じゃないからね……』

「そうなんだ……」 


 ミリナは心底がっかりしていた。


「メイドになったりできないニャんか?」

『……多分無理』


 ラドルもがっかりのようだ。


「お前ら気を抜くな」


 フィカが、気を取り直すように皆に呼びかける。


『分かってるよ。とにかく、あいつらを倒さなきゃ』


 皇子の言う通り、2人はあの竜の咆哮(ドラゴン・ブレス)を喰らってもピンピンしていた。

 何をしたのか分からないが、ダメージを最小限に留めたらしい。



「なかなかのお手前ですな、キャフ先生。簡単に死なず安心しましたよ」

「オレも弟子が成長してくれて、嬉しいぜ」

「坊や、もう勝ったと思ってるかい? 世の中甘くないんだよ」


 そう言って余裕あるシェスカだが、彼女が構えた金色に輝く大きな剣に、キャフは見覚えがあった。


「そ、それはもしかして、サムエルさんの聖剣、《ドラゴンスレイヤー》?」

「ああ、そうさ。これのおかげで、さっきの攻撃を無効化できたって訳」

「何故シェスカさんが?」


「あいつ、わたしを探しにモドナに来たの。闇の組織なんだから居場所はバレない筈だったんだけどね、さすが勇者様よ。でもね、わたしの正体を知って殺そうとしたから、返り討ちにしちゃった♡」


 エルフの鍛冶師デュダリオーンによって鍛えられたあの聖剣は、アースドラゴンを倒せる地上で唯一の武器だ。


 だがそれよりも、サムエルがシェスカに殺された事実が衝撃であった。

 キャフは脳に血が逆流し、我を忘れそうになるほど激しい怒りが沸き起こった。


「さ、サムエルさんを…… だと?」


 サムエルは、まさしく勇者を体現した、勇者の中の勇者とでも言うべき漢であった。パーティーの中でも一番ランクが低かった自分を、常に気にかけてくれていた。キャフに限らず、誰もがああなりたいと思わせる器量の大きい人物であった。


 あのパーティーはアルジェオン史上最高で、キャフの誇りだ。

 だがそれは、シェスカの陰謀に仕組まれた偽りのパーティーであった。

 その事実を、パーティーのメンバーから思い知らされる。

 キャフは、現実を直視できなかった。


「し、シェスカさん…… ちくしょぉおお!!!」


 キャフは大声で叫び、全てを破壊したい衝動に駆られる。だがその怒りを、彼自身が一番得意とする魔法でシェスカに直接ぶつけられないのが、もどかしく哀しい現実であった。


「坊やより、そっちね。でっかいトカゲめ、もう一回死ね!」


 シェスカはキャフには目もくれず、皇子目がけて、高速でで踏み込んできた。まだドラゴンの体が慣れていないのか、皇子の防御スピードは、往時のそれでは無い。シェスカの放った一撃は、皇子の左翼を傷付けた。《ドラゴンスレイヤー》の威力か、傷口がただれ黒ずんでいる。


「思ったより効かないね?」

『勇者では無いお前ごときの力では、真の威力は発揮できん』

「じゃあ、何度でもやってやるさ!」

『くぅ、おのれ、こしゃくな!』


 傷をおいながらも、皇子は竜の咆哮(ドラゴン・ブレス)を吐いて応戦する。しかし連続して繰り出されるシェスカの高速移動攻撃は並の動体視力では認知できないほどで、手負いの皇子では動きについていけない。一撃必殺ではないものの次々と受ける攻撃に、皇子もダメージが増えているようだ。


「お前ら、これ使え!」


 そう言ってキャフは充填された畜魔石を、ミリナとラドルに投げ渡した。下手すると殺される今、修業だからと言っている場合では無い。2人は魔法杖にはめ込むとそれぞれ魔法を発動させた。


「全体防御!!」

「ファイアブレスト!」


 ダメージのある皇子周辺がシールドされ、シェスカは入り込めなくなる。一方ラドルはグタフに向け、先ほどより五倍は大きい炎を投げつけた。だがこれでもグタフには効かない。


「畜魔石を使ったら、意外とやるか。でも残念だな。こちらはもっと楽しい物を用意しているんだ」


 グタフがそう言ったとき、兵舎の方から、ゴゴゴゴゴと、何か大きい物が動く音がした。

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