第084話 異空間での戦闘
前回のあらすじ
う、裏切ったな! 僕の気持ちを裏切ったな!
(これが、クズフの異空間魔法ニャんか……)
ラドルはこの魔法を、弟子仲間から噂で聞いていた。
”2人で特訓”と言って、気に入った子をこの異空間に連れて行くのだ。グタフが止めると言うまで、2人きりである。そして相手は女の子。現代日本であれば当然セクハラ案件だが、グタフの口のうまさと気の弱い子ばかり選ぶ卑怯さで、事実が発覚することはなかった。おそらく、キャフも気付いてないだろう。
中には割り切ってその後もグタフと懇ろになり、取り入って地位を確立した強者もいた。就職にも有利だったのでグタフの行為は冗長し、なかなか複雑である。人間は力ある者に弱い。
ただラドルは生理的にグタフが嫌いだったので、そうなることはなかった。
この異空間は地面と重力もあり、7人とも装備もそのままで立っている。
月面のように砂と岩だけの何も無い世界だ。
そしてグタフの精神を表しているのか、空はラブホみたいなピンク色だ。
いや、ラドルはそんな所に行った経験はもちろん無い。
勘違いしないように。多分そんな感じだろうと思っただけである。
キャフは未だ茫然自失として戦意喪失気味である。
キャフを良く知る新旧2人が、自分を殺そうとしているのは分かっている。
だが分かっていても実感が無い。
学校の親しい友人に、何時も通りに挨拶したら突然刺されたようなものだ。
無いとは言えないが、人間の常識では否定するだろう。
「キャフ先生、本気でいきますよ。超爆炎!!」
グタフの魔法杖から凄まじい爆炎が幾つも現れ、キャフ達に襲いかかった。
「シールド! きゃぁあ!!」
ミリナが瞬時に前方に出て防御魔法をかけるが超爆炎の威力は凄まじく、全ては防ぎきれずに5人とも吹飛んだ。
「師匠、どうすれば良いニャ!」
「あ、ああ。オレがやる」
殺意が込められた超爆炎を浴びて流石に目が覚めたのか、キャフは弓を構えてグタフを狙う。だが腕はぶれて、弱々しく放たれた矢はシールドをかけているグタフの手前であっけなく落ちる。
「坊や、ひと思いに楽にしてあげようか?」
「させない!」
高速移動でキャフの目の前来たシェスカを、フィカが剣で薙ぎ払う。シェスカは遊んでるかのように、また高速移動で元の位置へと戻った。
「アイス・ブリザード!」
ラドルが必死の思いで魔法を放つが、グタフはいとも容易く跳ね返す。
「ラドルゥ、前よりマシになったが、そんなんで兄弟子に対抗しようって無理じゃねえか?」
相手にならないと言った風に、グタフは苦笑いをしていた。
(これは、まずい)
キャフは状況の打開策を見出せなかった。幾ら成長したとはいえ、この2人とはランクが三以上の差がある。そうなると、そもそも相手にすらならない。キャフの弓兵としての戦力も意味が無かった。
打つ手が無いまま時間だけが過ぎていく。相手は余裕の顔をしている。
「キャフ君?」
そうだ、まだ一人だけいる。
キャフは振り返り、最後の頼みの綱として、すがるように皇子を見た。
その皇子の体はいつの間にか白金色に輝き、その光はどんどんまばゆくなっていった。
「おい、どうしたんだ?」
キャフは驚き、声を上げた。人間じゃなくなっている。いや元々人間では無いのだが、その姿が全く違うモノに変貌を遂げようとしていた。
「気付いたかい? こう言う魔素が充満した閉鎖空間は、僕に取ってはご馳走で満たされた、大変ありがたい場所のようだよ。どうやら昔に戻れそうだ」
光にすっかり包まれた皇子の体は、人間からドラゴンのそれへと変化したのであった。この空間によってとうとう覚醒したらしい。
「シェスカさん、あいつ人間じゃありません!」
「あの魔導師を異空間転移させたんだ、ただ者じゃないと思っていたが…… 依頼主も知らなかったようだねぇ、こいつがアースドラゴンなんて」
「皇子!」
「どうしちゃったニャ?」
「これ、お前は知っていたのか?」
「ん? ああ」
3人も、皇子の正体を知り驚愕する。
全長二十メートル、高さ五メートル。
未だ完全体では無いようだが立派なドラゴンだ。
『喰らえ! 竜の咆哮!!』
グタフの超爆炎など比較にならないほどの、まるで核爆弾のような光がグタフとシェスカを襲った。




