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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第六章 魔導師キャフ、クムール帝国に潜入する
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第083話 未来の子供

前回のあらすじ


仲間って良いなあ。ちょっと裏切りかけたけど。

「な、なんだこれは?」


 キャフ達が遭遇したのは、部屋の中にあるベッドの上で縛られて苦しそうに呻く、沢山の子供達であった。ベッドはガラスで囲われており,キャフ達が触れることは出来ない。腕には何かのコードが繋がれ、それは青白い光沢を発して天井へ伸び、何処か別の部屋へと続いているようである。


 行ってみて分かったが、最上階である三階は子供達の住む寮であった。

 この状況に、5人は困惑する。


「マルア?」


 ラドルが覗き込んだベッドには、マルアがいた。

 だが呼びかけても答えず、ラドルに気付いていない。

 ただ苦しそうにうめき声を上げているのみである。

 何も出来ず無力な自分が哀しく思う、ラドルであった。


「どうも、魔素を吸い取っているようだな」


 部屋中を調べ尽くした後、キャフが言った。


「魔素を吸い取る?」

「ああ、あの光は子供達の魔素だ。マルアもだがみんな相当ランクが高い。B以上だ」

「吸い取ってどうするんだ?」

「恐らくあのコードの先に何かある。行ってみよう」


「子供達はどうするニャ?」

「麻酔で眠らされている。装置の仕組みが分からないから下手にいじると危険だ。とにかく原因を突き止めるしかない」


 5人はそのコードの先を辿る。するとそれは突き当たりの角部屋の中へ入って行く。扉を開けてみると、鍵はかかってなかった。見張りの兵士も誰もいない。5人は部屋の中へと侵入した。


 光るコードは部屋の中で収斂し、幾つもある大きな魔法石の中へ注入されていた。魔法石の色は畜魔石と同じ琥珀色だ。魔法石が光り輝くおかげでこの部屋だけとても明るい。



「こ、これは……」

「畜魔石の集合体だな」

「幽霊砦にあったのと、同じのもあるニャ」

「そうだな」

「でもこれって子供達の魔素が蓄積されているのでは?」

「ああ」

「あの兵士、マルアを《未来の子供》と言ってましたが、どういう意味なんでしょう?」

「どうなんだろう。分からん。ただ確実に言えるのは、子供達の魔素が奪われてるってことだ。しかもオレみたいに分け与えてるのとは違う。強制的に吸い取られている」

「か、かわいそうですニャ……」


 事実を知った時、5人は何も言えなかった。いや,皇子だけは人間の愚かさを再認識しただけで無感情かも知れない。何れにせよこの装置は明らかに、子供達の未来を奪う装置である。


 その時だった。


「坊や、やっぱり来たのね」


(え?)


 坊やと呼ばれ振り返ると、グタフと昼間一緒にいた女性2人が立っている。扉からガチャリと音がした。どうも鍵がかけられたようだ。グタフは魔導服に上級魔法杖、女性も甲冑は着ていないが腰に剣を下げて、戦闘態勢だ。5人も警戒して武器を手に取る。


「キャフ先生、残念です。勝手に我々の秘密を覗き見るとは。犯罪ですよ」

「これはどう言うことだ? グタフ?」

「あなたの発明を利用させてもらったのです。モンスター生息域(ハビタブル・ゾーン)には、畜魔石(チャージ・ストーン)の元が沢山あるんです。あなたが会ったラスト・スライムに回収させて作ったんです」


「何故それを知ってる?」

「坊や、私達を甘く見ないで」

「あ、あなたはもしかして…… シェスカさん?」


 その声は、過去の記憶を呼び覚ました。


「ええ。覚えていてくれたのね。嬉しいわ、坊や」


 女はそう言うと、ル◯ンのように顔の皮をめくり始めた。


 驚く5人だが、そこから現れた顔はキャフが覚えているままのシェスカであった。いや、本当にシェスカだとすると五十代のはずだ。そのみずみずしい肌は年齢を感じさせず、スタイルも二十代そのままの美魔女である。


「坊や、久しぶり♡ 元気だった?」

「は、はい……」


 キャフは、複雑な心境であった。

 憧れの女性がそのままで居てくれた事は嬉しい。

 だが明らかに、旧交を温めあうような優しい状況じゃない。


「し、シェスカさんは何故ここに? グタフのようにクムールに誘われたんですか?」

「坊や、相変わらず鈍いのね。可愛いわ。昔みたいに添い寝してあげたいくらい♡」


 シェスカは昔と変わらぬ妖艶な笑顔をふりまき、キャフは一緒だった頃を自然と思い出す。懐かしい過去が脳裡をよぎり、キャフの顔が少し赤くなる。グタフとシェスカがここに居てこういう事をしているならば、帰結される結論は一つしか無い。だがキャフの頭はそれを認めたがらなかった。


「わ た し が、グタフを誘ったの」


 シェスカは、キャフが聞きたくないことを残酷に宣言した。

 頭の中で処理できず、混乱する。背中に嫌な汗が流れていた。


「ありがとう、坊や。暗殺したい皇子も連れて来てくれて」


 シェスカは、容赦なく冷酷に告げる。


「もしかして、《闇の住民》を引き連れているのも……」

「そう、わ た し」


 キャフ以外の4人は戦闘態勢に入る。

 キャフだけが、その事実を受け入れられなかった。


「う、噓だ……」

「ううん、これは現実なの。最後だから言うけど、シェスカって名前も噓。あの時も、アースドラゴンを倒してくれてありがとね♡ おかげでアルジェオン侵攻計画は、順調に進んだわ。あれから二十年、坊やの発明もあって皆殺しにする準備がやっと整ったの。坊やは見られないけど、アルジェオンは消えるんだから見ない方が幸せね」


「こいつ!」


 フィカがたまらず剣を抜き、シェスカに襲いかかる。だが一瞬にしてシェスカは消え、数メートル横に現れた。昔と変わらぬ高速移動(テレポーテーション)だ。


「困りますね、キャフ先生。《未来の子供》達の魔素が壊れますよ。これはクムール帝国の未来の為に大切な物ですから」

「あの子らの未来じゃないだろう!」

「そうですよ。何が悪いんですか?」 


 グタフは、全く悪びれることなく言う。


「とにかく、場所を変えましょう」


 そう言うとグタフは魔法杖を振りかざし、術式を唱えた。


異空間(ディメンション・)発生(クリエーション)!」


 途端に5人達は、異空間に飛ばされた。

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