第083話 未来の子供
前回のあらすじ
仲間って良いなあ。ちょっと裏切りかけたけど。
「な、なんだこれは?」
キャフ達が遭遇したのは、部屋の中にあるベッドの上で縛られて苦しそうに呻く、沢山の子供達であった。ベッドはガラスで囲われており,キャフ達が触れることは出来ない。腕には何かのコードが繋がれ、それは青白い光沢を発して天井へ伸び、何処か別の部屋へと続いているようである。
行ってみて分かったが、最上階である三階は子供達の住む寮であった。
この状況に、5人は困惑する。
「マルア?」
ラドルが覗き込んだベッドには、マルアがいた。
だが呼びかけても答えず、ラドルに気付いていない。
ただ苦しそうにうめき声を上げているのみである。
何も出来ず無力な自分が哀しく思う、ラドルであった。
「どうも、魔素を吸い取っているようだな」
部屋中を調べ尽くした後、キャフが言った。
「魔素を吸い取る?」
「ああ、あの光は子供達の魔素だ。マルアもだがみんな相当ランクが高い。B以上だ」
「吸い取ってどうするんだ?」
「恐らくあのコードの先に何かある。行ってみよう」
「子供達はどうするニャ?」
「麻酔で眠らされている。装置の仕組みが分からないから下手にいじると危険だ。とにかく原因を突き止めるしかない」
5人はそのコードの先を辿る。するとそれは突き当たりの角部屋の中へ入って行く。扉を開けてみると、鍵はかかってなかった。見張りの兵士も誰もいない。5人は部屋の中へと侵入した。
光るコードは部屋の中で収斂し、幾つもある大きな魔法石の中へ注入されていた。魔法石の色は畜魔石と同じ琥珀色だ。魔法石が光り輝くおかげでこの部屋だけとても明るい。
「こ、これは……」
「畜魔石の集合体だな」
「幽霊砦にあったのと、同じのもあるニャ」
「そうだな」
「でもこれって子供達の魔素が蓄積されているのでは?」
「ああ」
「あの兵士、マルアを《未来の子供》と言ってましたが、どういう意味なんでしょう?」
「どうなんだろう。分からん。ただ確実に言えるのは、子供達の魔素が奪われてるってことだ。しかもオレみたいに分け与えてるのとは違う。強制的に吸い取られている」
「か、かわいそうですニャ……」
事実を知った時、5人は何も言えなかった。いや,皇子だけは人間の愚かさを再認識しただけで無感情かも知れない。何れにせよこの装置は明らかに、子供達の未来を奪う装置である。
その時だった。
「坊や、やっぱり来たのね」
(え?)
坊やと呼ばれ振り返ると、グタフと昼間一緒にいた女性2人が立っている。扉からガチャリと音がした。どうも鍵がかけられたようだ。グタフは魔導服に上級魔法杖、女性も甲冑は着ていないが腰に剣を下げて、戦闘態勢だ。5人も警戒して武器を手に取る。
「キャフ先生、残念です。勝手に我々の秘密を覗き見るとは。犯罪ですよ」
「これはどう言うことだ? グタフ?」
「あなたの発明を利用させてもらったのです。モンスター生息域には、畜魔石の元が沢山あるんです。あなたが会ったラスト・スライムに回収させて作ったんです」
「何故それを知ってる?」
「坊や、私達を甘く見ないで」
「あ、あなたはもしかして…… シェスカさん?」
その声は、過去の記憶を呼び覚ました。
「ええ。覚えていてくれたのね。嬉しいわ、坊や」
女はそう言うと、ル◯ンのように顔の皮をめくり始めた。
驚く5人だが、そこから現れた顔はキャフが覚えているままのシェスカであった。いや、本当にシェスカだとすると五十代のはずだ。そのみずみずしい肌は年齢を感じさせず、スタイルも二十代そのままの美魔女である。
「坊や、久しぶり♡ 元気だった?」
「は、はい……」
キャフは、複雑な心境であった。
憧れの女性がそのままで居てくれた事は嬉しい。
だが明らかに、旧交を温めあうような優しい状況じゃない。
「し、シェスカさんは何故ここに? グタフのようにクムールに誘われたんですか?」
「坊や、相変わらず鈍いのね。可愛いわ。昔みたいに添い寝してあげたいくらい♡」
シェスカは昔と変わらぬ妖艶な笑顔をふりまき、キャフは一緒だった頃を自然と思い出す。懐かしい過去が脳裡をよぎり、キャフの顔が少し赤くなる。グタフとシェスカがここに居てこういう事をしているならば、帰結される結論は一つしか無い。だがキャフの頭はそれを認めたがらなかった。
「わ た し が、グタフを誘ったの」
シェスカは、キャフが聞きたくないことを残酷に宣言した。
頭の中で処理できず、混乱する。背中に嫌な汗が流れていた。
「ありがとう、坊や。暗殺したい皇子も連れて来てくれて」
シェスカは、容赦なく冷酷に告げる。
「もしかして、《闇の住民》を引き連れているのも……」
「そう、わ た し」
キャフ以外の4人は戦闘態勢に入る。
キャフだけが、その事実を受け入れられなかった。
「う、噓だ……」
「ううん、これは現実なの。最後だから言うけど、シェスカって名前も噓。あの時も、アースドラゴンを倒してくれてありがとね♡ おかげでアルジェオン侵攻計画は、順調に進んだわ。あれから二十年、坊やの発明もあって皆殺しにする準備がやっと整ったの。坊やは見られないけど、アルジェオンは消えるんだから見ない方が幸せね」
「こいつ!」
フィカがたまらず剣を抜き、シェスカに襲いかかる。だが一瞬にしてシェスカは消え、数メートル横に現れた。昔と変わらぬ高速移動だ。
「困りますね、キャフ先生。《未来の子供》達の魔素が壊れますよ。これはクムール帝国の未来の為に大切な物ですから」
「あの子らの未来じゃないだろう!」
「そうですよ。何が悪いんですか?」
グタフは、全く悪びれることなく言う。
「とにかく、場所を変えましょう」
そう言うとグタフは魔法杖を振りかざし、術式を唱えた。
「異空間発生!」
途端に5人達は、異空間に飛ばされた。




