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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第六章 魔導師キャフ、クムール帝国に潜入する
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第082話 真夜中の学校

前回のあらすじ


こんな逸材どこで!? ビ◯リーチ!

「どうです? 悪い話ではないでしょう?」

「あ、ああ」

「お試しに、今日の夜にメイドを連れて来ますか?」

「い、いや良い」


 まるで訪問販売のセールスレディみたいに、相手に間を与えず畳み掛けるように話すグタフである。昔から巧みな話術を駆使し、キャフ以外の魔導師達にも評価が高かった。きっと営業をさせてもそれなりの業績をあげるだろう。


 だがキャフは4人の刺し殺しかねない視線が痛くて、のらりくらりとかわす。やがて気付くと、陽も落ちて夜となる。


「5人分の部屋は用意させます。食事はどうしますか? クムールのご馳走を用意させますか? 贅沢はできませんが美味しいですよ?」

「いや、ありがたいが、我々も帰るまでに食糧を消費したいからな。早く帰れるなら迷惑はかけたくない」

「分かりました、では部下に案内させましょう」


 そう言ってグタフは呼び鈴を鳴らすと、部下が即座にやって来た。この対応の素早さは、恐らく近くの部屋で待機していたのだろう。そのまま一行は廊下に出て、兵士について行く。


 キャフ達が案内されたのは学校に隣接した宿泊施設であった。男女別に広めの風呂もあり、部屋はキャフ達が二階でラドルらが三階をあてがわれる。二つとも、2、3人で泊まるには十分な広さだ。ただ粗末な造りで、キャフは子供の頃に研修旅行で行かされた、ボロい公共の宿泊施設を思い出した。


「で、師匠、どうするニャ?」

「さあな、どうすっかな。とりあえず明日だ。じゃあな」


 キャフは素っ気ない態度で部屋へと入っていった。


「あいつ、本気でクムール帝国で働く気か?」

「そしたら、私達どうなるんですか?」

「師匠も、優柔不断だからニャ〜」


 女性陣はいささか不満そうに部屋に入っていく。旅館では無いので備品はない。押し入れから布団を自分達で出して敷いた。夕食を食べた後、皇子とそれぞれ準備して消灯となる。


(どうすっかな……)


 意外にも我らがキャフは、グタフの提案に心揺れていた。


 無理も無い。どこかの国のとある雑誌の特集でも、今は無い某電気メーカーを初めとして沢山の技術者が技術流出させたとかやっていたが、そもそも彼らには彼らの事情もある。安全な場所から弾を撃って部数を稼ぐやり方は、倫理的にどうかとも思う。


 もちろん彼らに悪意があったのであればその限りでは無いが、何れにせよ犯罪だったらしかるべき機関が公表すれば良いだけで、事情を知らない第三者が騒ぎ立てることではない。


 そうなるくらいなら、初めから高待遇にすれば良いのだ。しかしアルジェオン王国も魔法使いの立場は高くない。税金を使える上級貴族達の方が、かなり贅沢な暮らしをしている。どの業界も中抜きが著しくて、本当に頑張ってる人が報われないのはいつの世も同じと言えた。


 だからキャフも、グタフの提案に魅力を感じていた。

 夜専門のメイドに会って、イチャイチャしてみたい。


 ミリナにはああ言われたが、弟子に手を出して身を持ち崩した魔導師は幾らでも居る。いや魔導師に限らずサラリーマンだろうが何だろうが、そんな事をしていたら後々面倒になる。それだったら夜専門のメイドがいれば、後腐れ無くて良いだろう。


(でもな〜)


 グタフの顔は、幸せそうでは無かった。わずか数ヶ月間であるが、奴が変わったことはキャフでも分かる。それがどういう意味かも、朧げながら理解できた。


(ま、いいか)


 それよりも、ここがどんな施設かを探るのが先決だ。誘惑ばかりに気を取られていたもののギムとの約束もある手前、予定した行動に移ることとした。


 まずはこっそりと布団を抜け出す。幸か不幸か曇りない空で、下弦の月が窓から見えた。兵士達に見つかるかも知れないが、仕方ない。


 いざドアを開けようとしたとき、「キャフ君、」と声がした。

 驚いて振り返ると、皇子が目を覚ましていた。


「行くのかい?」

「あ、ああ」

「じゃあ僕も」


 そう言って皇子も仕度を始めた。2人で音を立てないように、ドアを開ける。見張りの兵士は居ないようだ。床張りだから細心の注意を払いながら進むと、階段の踊り場にミリナとラドルがいた。寝間着では無く、魔導服を着てのフル装備だ。


「どうした?」

「あ、すいません、フィカさんが気付いたらいなくて」

「そうなのか。じゃ、一緒に探すか」


 そう言いながら学校へ行くため玄関に向かうと、フィカがいた。

 彼女も、甲冑を着て準備万端である。


「遅かったな,待ちくたびれたぞ」

「え、知ってたのか?」

「師匠、芝居が下手ですニャ」

「そうですよ、盗聴を怖れて誤魔化してるの、丸わかりですよ」

「夕食断ったのも、髄液入りワインを飲まされるからだろ? もう付き合い長いからな」

「師匠がクムール帝国なんかに行かないの、皆分かってますニャ」

「あ、すまない」


(ラドル、すまん)と、キャフは心の中で謝る。

 キャフも人の子。皆の勘違いを、訂正しなかった。


「じゃあ、行くか」


 宿泊施設に隣り合う校舎の入り口を開けると、簡単に開いた。


 中には、誰もいない。上履きに履き替える必要も無さそうである。キャフ達は中へと入っていった。教室が幾つかあるものの、何の変哲も無い、何処にでもある学校の教室に見える。マルアの作文や絵も飾られていたが、彼女に限らず、学年の割に非常に上手な作品が多かった。優秀な子供達と言うのは本当なのだろう。しばらくあちこち捜索していた時だった。


「キャー!!」

「痛い!」

「苦しいよう! 助けて!」


 中央玄関に来た辺りで、急に遠くから悲鳴らしき声が聞こえた。1人ではない。声の源は最上階のようだ。キャフ達は辺りを注意しながら、階段を上った。

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