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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第六章 魔導師キャフ、クムール帝国に潜入する
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第081話 一番弟子

前回のあらすじ


あれ? あいつ、オレの一番弟子?

「キャフ先生、お久しぶりです」


 部屋に通され6人だけとなり応接用ソファに座ると、男はキャフに恭しく挨拶をした。モテない風貌だが実直そうな人柄は変わっていない。わずか数ヶ月前までいつも会っていたから、直ぐに打ち解ける。


「やはりグタフなのか」

「はい。立場上あそこで過去の名前は使えませんので」

「一体どうしたんだ?」

「先生が受けた処罰の後、私達は茫然自失となりどうしていいのか分からなくなったんです。ご存知のように不法術式を使っていた魔導師の弟子なんて、誰も採用してくれません。行く場所が無くなり途方に暮れていました」

「そうだったか…… 済まない」


 キャフは深々と頭を垂れた。あの時は家に戻るとラドルしか居なかったので、自分の処遇ばかり気にしていた。他の弟子達もグタフ同様、路頭に迷っているのかも知れない。


 その考えに及んだ時、キャフはあの人を小馬鹿にしたような顔をするトシェ理事の顔を思い出した。たった数人の言いがかりで何十人もの生活が反転する。この事実は気分が良いものでは無い。


「いえ、気にしないで下さい。あ、お茶をいれさせますか? クムール茶は味わい深くて美味しいですよ」

「いや、遠慮しておこう」


「そうですか。とにかく今はこうして、以前より豊かな暮らしをしているのですから。実はクムール人の仲介業者と知り合う機会ができまして、ここを紹介してもらったのです。クムール帝国の魔法はレベルが低いので、いきなり中将待遇ですよ。幸いこの学校の運営もうまくいってまして、皇帝様からの評価も高いのです」


「その学校だが、何をやってるんだ?」

「魔法の素養がある子達を集めてレベル上げしてるんですよ。あの子から何か聞きました?」

「何だか、大変そうな感じだったが」

「さっきの子は問題児でしてね。虚言癖もあって時々ここを抜け出すんです。まあ子供だから仕方ないですよ」

「そうなのか」


 一同は顔を見合わせた。そう言われると納得してしまう。

 どちらの言葉が本当なのか、今は判断が付きかねる内容であった。


「それよりキャフ先生は、何しにここへ来られたのですか?」

「ああ、久々にこいつらとモンスター生息域(ハビタブル・ゾーン)で冒険してたんだが、船が流されてな。こっち側に漂着したんだ」

「そうですか、だからラドルもいたんだ」


 そこで初めて、グタフはラドルを見た。

 ラドルは俯くだけで、彼と直接話をすることは無かった。


(師匠の一番弟子と言うけれど、相変わらず嫌な奴だニャ……)


 キャフの前では言えないが、グタフは面従腹背の典型的な男だ。


 キャフは全面的に信用しているものの、キャフがいない所ではあいつ(キャフ)は人使いがあらいと文句ばかり言っていた。それにお気に入りの女の子が入って来たら隣の席に座らせ、魔法の個人レッスンを執拗に勧める。


 弟子たちが直訴しても事情を知らないキャフは取り合ってくれず、泣き寝入りの弟子も沢山知っている。だから弟子仲間でも陰で『クズフ』とあだ名を付けていた。


 幸い獣人には興味がなく、ラドルは空気のような扱いだ。代わって好みのタイプのフィカを上から下まで舐めるように見ていて、気持ちが悪い。


(師匠、人を見る目が無いからニャ〜)


 心のなかで呟くラドルであった。


 グタフの話は続く。


「皇帝様のご意向でクムール帝国はモンスターとの共存を進めています。だから冒険者なんて野蛮な輩はいないんですよ」

「そうなのか」

「はい。こちらに来て分かりましたがなかなか楽しいですよ。ク-POPもアルジェオンより聞き応えありますし、踊りも上手です」

「ふうん」

「じゃあ、向こう岸に行けるように、手配をさせます。ただ何分ここは陸の孤島で船の準備をするのに、少し時間をいただくと思います」

「分かった、ありがとう」


「それよりどうです? こちらに住んでみるのは? 今の私なら推薦すれば即採用できます。弓兵なんかせずに魔導師に戻ってくださいよ。術式の封印も解除できます。待遇も軍属の幹部から始められますし、良い事尽くめですよ」

「そうなのか?」

「ええ。今の皇帝様は、最新技術を積極的に取り入れようとしています。キャフ先生レベルの方が来られると知ったら、高待遇間違いなしです。お気に入りのメイドも、夜専門も含めて好きなだけ雇えます。冒険者なんか馬鹿らしくてやってられませんよ」


 突然の勧誘に、キャフは驚く。

 他の4人は事の成り行きを見守るしか無かった。

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