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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第六章 魔導師キャフ、クムール帝国に潜入する
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第080話 森の中の学校

前回のあらすじ


ウサギより速いカメ、発見。

「フニャニャ〜 ゆ、揺れるニャ〜 気持ち悪いニャ〜」

「吐くなよ、我慢しろ」


 ラドルが愚痴るように、疾走する魔獣亀(デス・タートル)の甲羅の上はガタガタと揺れが激しい。初めて体験するキャフ達は酔って気持ち悪くなる。


 異国の民を見るのは珍しいのだろうか、兵士達はキャフ以外の4人をジロジロと嫌らしい目で見ている。だが、それ以上は何もしないようだ。最初の1人と同様、兵士達の体格が貧弱なせいもあるだろう。武装解除も命令されなかった。


 やがて、森の一画の前で魔獣亀(デス・タートル)は止まった。

 手綱を引いていた兵士が、腰の巾着から笛を取り出して吹く。


 ピイィイイイ!!!!


 すると真正面の木が二つに分かれた。移動樹木(ミグレイト・ツリー)らしい。これでは、いつまでたっても中に入れない筈だ。魔獣亀(デス・タートル)はぽっかりと開いた空間に入り、先にある道を進んで行った。


 森の中はやはり密度濃く草木が生い茂っていて、人の歩ける隙間がない。緯度はこちらの方が高いが、どうもアルジェオンのモンスター生息域(ハビタブル・ゾーン)とは植物生態の分布が違う。魔獣亀(デス・タートル)がドタドタと樹木にかすりながら道を進んでいくと、やがて大きな門の前に出た。


 門の上部にある見張り台から男が身を乗り出し、魔獣亀(デス・タートル)の兵士と言葉を交わすと、門はギシギシと重い音を立てて開く。魔獣亀(デス・タートル)が入り、直ぐに門は元通りに閉まった。これだけ厳密に管理されているなら、逃げるのは相当困難だ。決死の覚悟だったのだろう。


『ここが、学校なの』 


 マルアは、小さな声でつぶやいた。脱走に失敗して再び戻って来たことで、恐怖が募っているようだ。ミリナやラドルが慰めるように寄り添っている。


 四方を高い壁で囲まれた学校は、広い校庭に平凡な木造三階建ての校舎が立っている。ただその他に学校とは違う軍事施設のような建物があり、兵士達がたむろしている。ここはモンスター生息域(ハビタブル・ゾーン)におけるクムール帝国の拠点らしい。ただ何故こんなところに学校があるのか、不思議に思う。


「どうなるかだな」


 フィカは、柄に手をかけていた。キャフも弓の用意をする。


 魔獣亀(デス・タートル)は校庭中央まで進み、止まった。子供の姿はないが、兵士達は何事かとこちらを見ている。しばらくして校舎中央の玄関から、魔導服を着た背の高い男と先生らしき女性が2人でやってきた。近づくにつれ背の高い男が誰なのか、キャフだけには分かった。


「グ、グタフ?」


 それはかつて一番弟子としてキャフを支えた、グタフであった。あのデカい図体と人の良さそうな顔は、忘れようにも忘れる筈がない。キャフが魔導師として独立してから十年、苦楽を共にして来た仲間だ。


 そいつが、何故ここに?


 キャフには訳が分からなかった。


「おい、あいつ誰だと思う?」


 キャフは、念のためラドルに聞いた。


「グタフ兄さんに似てますニャ?」


 やはりラドルも、同じ意見のようだ。


「何でここに居るんですかニャ?」

「分からん。お前は隠れて、見えないようにしていろ」

「分かりましたニャ」


 その男達が来ると、兵士達は急に畏まり始めた。階級がかなり上のようだ。


『グタフィレス大将、砂漠で脱走した《未来の子供》を救助しました! また、同時に異国人が徘徊していたので、連行して参りました!』


『ご苦労様。ミノちゃん、体調はどう? 大丈夫?』


 グタフであろう人物の代わりに、傍らの女性がマルアに話しかけた。


『だ、大丈夫です』


 やはり怯えているのか、少し震えている。


『なら良かった。怖かったでしょ? 皆も待ってるから一緒に行こう?』

『え……』

『さあ、下りておいで?』


 優しく声をかけるその女性の目は、全く笑っていない。マルアの腕を掴み行かせたくないミリアとラドルだが、一歩間違えると兵士達から襲われる可能性もある。そうなると多勢に無勢であるので、勝ち目は無い。


『おい、グタフだろ?』


 唐突に、キャフは男に話しかけた。先ほどグタフィレス大将と声をかけられた男は意外な出来事に驚き、亀の上にいる5人を凝視した。今は魔導服を着ず弓兵であるキャフに気付かないようだ。


 キャフは魔獣亀(デス・タートル)から飛び降りてグタフと対面した。相変わらず,デカい。二メートルぐらいある。異国の魔導服を纏ってはいるが、やはりグタフであることに変わりは無かった。


『オレだ、キャフだ』


 その言葉を聞くと、彼は驚愕の表情を浮かべた。だが直ぐに平静な顔を装い、兵士達に命じた。


『この者達を、全員私の下に連れて行く。降りるように言え』

『はっ! おい、お前ら、降りろ!』


 兵に促され、残り4人とマルアもおろされた。その男はラドルを見て、やはり顔色が変わる。間違いない。キャフは確信した。だが男の態度は、他の兵士に対する手前もあるのかそっけない。


『ミノちゃんは、こっちね』


 女性にそう言われ、何度も振り返りながら学校の中へと入っていく。

 5人も、後ろ髪を引かれる思いであった。


『お前らは、こっちだ。来い』

『武装解除は良いのか?』

『どっちみち、お前らに勝ち目はない。好きにしろ』


 男はそう言うと,5人を連れて軍の建物の方へと向かった。

ちなみにグタフの名前は第3話に、ちょっとだけ出てます。

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