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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第六章 魔導師キャフ、クムール帝国に潜入する
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第079話 クムール兵

前回のあらすじ


クムール人の子供と遭遇。ただ、かなり訳ありの様子。

 はじめは恐怖と警戒から打ち解けようとしなかった少女であったが、キャフ達の和やかな雰囲気に慣れ始めると、ミリナが聞き役となって少しずつ身の上話をするようになった。


『わたしの名前は、マルア・ミノ。帝都シュトロバルに住んでいたの。小さい頃から本読んだり勉強することが好きで、歴代皇帝237人を空で言ったら、お父さんやお母さんは喜んでくれたの』

『わたしはミリナ。クムール皇帝って、そんなにいたんだ』

『そうよ、三千年も続く国はクムール帝国しかないんだから! 神代の頃から特別なんだって皆知ってるわ。今の皇帝ラインリッヒ三世も偉大なお方です。お父さんお母さんは貴族じゃないけど上流国民だったから、生活も豊かな方なのよ。他の家より配給される食べ物が上だって羨ましがられてたわ』


『ふうん。何故マルアは此処に来たの?』

『わたし、魔法も四歳の頃から出来るようになったの。おままごとで火を起こして本当の料理を作ってたら、友達のお母さんが驚いてた。お母さんも魔法が使えるけど、普通は六歳からって言うからビックリしてた。それでわたしは特別だからって、友達と違う学校に入ったの』

『そうなんだ、凄いね』


『その学校でも一番だった。とても楽しかったわ。それである日、先生からもっと上の学校に行きましょうと言われたの。お父さんお母さんと離れるのは辛かったけど、皇帝様の為にも頑張ろうと思ったの。でも、そこはわたしが思ったのと、全然違う場所だった。先生も全然違ってた。大男でとっても怖いの』

『そっか……』

『毎日何かの作業をさせられて、友達も自分も段々と弱って来たの。気付いたら立つことすら出来ない子もいる。だから皆で力をあわせて、私だけ外に出て誰かに助けを求めようと決めたんです。わたしがいない事が分かったら、今ごろ友達も罰を受けているかもしれません』

『頑張ったね。何とかしよう』


 マルアの境遇に同情するミリナであった。


 この子は自分と同じで、思い切り能力を使って伸ばしたのだろう。ミリナはそれで良い出会いに恵まれた。だがこの子は、そうでは無かった。生まれた場所が違うだけで、もしかすると、ミリナが彼女と同じ運命になった可能性もある。そう思うとやるせなかった。


「しかし、厄介だな」


 話を聞いてキャフは率直に言った。


「ああ。そこに何があるのか、皆目検討がつかない。兵士が乗るモンスターとか、聞き出せる情報は他に無いのか?」


 フィカの求めに応じ、ミリナはマルアに話しかけてみた。モンスターは《大きいトカゲやカメ》と言う他に,彼女は形容できなさそうだった。その学校も高い塀が張り巡らされていて、キャフ達が入れる隙も無いらしい。


『学校の作業って、どんなの?』

『良く分かんないの。1人1人小さな部屋に入らされて、じっとしてるんです。眠くなって、終わった後は、どっと疲れが出るの』


「分からん」

「行ってみるしか、なさそうだな」



 翌朝、起きて森の入り口を探すものの相変わらず徒労に終わる。


「キャフ君、チグリット河に戻って川沿いに移動した方が、何かあるかも知れないよ」

「そうだな。船を使うか」


 そんな話をしている時だった。


 ゴゴゴゴゴ——!!


 遠くから、激しい地鳴りのような音が聞こえてきた。耳をそばだてると、それは段々と近づいてくる。キャフ達が音のする方を見たところ、森のそばの砂漠を砂埃を巻き上げながらこちらへ向かってくる何かがいる。


「……大きいニャ!」


 それは昨日仕留めたモンスタートカゲの倍はある、魔獣亀(デス・タートル)であった。そんじょそこらの兎なんか敵わないほどに早い。そして首に手綱を付けて、甲羅の上には荷台が取り付けられ、3人ほどのクムール兵が乗っている。


 カメを止めると、手綱を操っていた兵士の一人が怒鳴りながらこちらへ話しかけて来た。赤ら顔で、甲冑も随分と粗末な造りである。アルジェオン王軍の方がはるかに充実した装備だ。


『お前らは何者だ! なぜ《未来の子供》を連れている!』

『オレ達、旅の者です。河で流されてここへ来ました』


 片言で,キャフは遭難した旅人という事にした。

 下手に嘘をついてもバレたらまずい。


『旅人だと? 何が目的だ? 売り物でもあるのか?』


「どうする? 何かあるか?」


 キャフは慌てた。


 ここで行商人として潜入すれば、クムールの貨幣を手に入れることが出来る。でも砦に船があるとも知らず行き当たりばったりの旅なので、そこまで考えが及んでいなかったキャフであった。


「仕方ないな、キャフ君。これでどうだい?」


 そう言って皇子が取り出したのは、宝剣だった。

 由来は知らないが、王家の紋章は入ってないので大丈夫だろう。


「すまない」


 キャフは皇子から受け取ると、魔獣亀(デス・タートル)の前まで行った。


『これでどうでしょう?』

『ちょっと待て』 


 そう言って兵士はカメから下りてきた。対峙して分かったが、背はほぼ同じでも少しばかり体の線が細い。栄養が足りてないように見える。キャフが差し出すと彼は無造作に受け取り、しげしげと宝剣を眺めた。大きなエメラルドや翡翠がちりばめられており、結構な代物だ。向こうも気に入ったらしい。


『よし、じゃあ乗せてやる。一緒に来い』


『ごめん、マルア。今はこうするしかないの』


 再び学校に連れ戻されることになり、哀しい顔をするマルアをミリナは慰めた。


『ううん、分かってる。後はお願いね』


 とにかく一行は魔獣亀(デス・タートル)に乗り、マルアの言う学校へと行くことになった。

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