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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第六章 魔導師キャフ、クムール帝国に潜入する
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第078話 遭遇

前回のあらすじ


キャフとフィカは、釣りが苦手。

 軍の行進訓練では、30−40kgの荷物を背負いながら一日30kmを徒歩で進むこともあると言う。冒険者にそこまでの能力は要求されないが、モンスターを倒しながら進むので、休憩なしで歩く距離は2−3kmが妥当と思われる。


 その後も時折襲ってくる砂漠魔魚(サンド・フィッシュ)砂漠蛇(キラースネーク)などのモンスター達を倒しつつ、やっと森に到着する。だがその鬱蒼とした森は緑の壁となってキャフ達に立ちふさがった。とにかく隙間無くびっしりと草木が生えていて、入り口となりそうな道すら見えない。つまり人の手が全く入ってないようだ。


「こんな森の中に建物あるのか?」

「マッピングではそうなりましたけど…… あの岩山から飛ばしたので森の上空もカバーしている筈です。間違いありません。ただ確かに、道のようなものはありませんでした」

「じゃあ中の人間はどうやって生活してるんだ?」

「人間とは限らないけどね、キャフ君」

「そうだな。とにかくこの辺で一泊するか。安全な場所を探そう」


 一行は森伝いに歩いて行った。森はキャフ達を拒むかのように、一分の隙も見せてはくれない。二十分ほど歩いてもずっと切れ間無く緑があるだけで、攻略のしようがなかった。


「あ、師匠、あれ!」


 遠目の利くラドルが、何かを見つけたようだ。慌てたように走っていく。


 後から皆も追いついた時、ラドルは1人の少女を抱きかかえていた。見た目十歳くらいで幼い。シンプルな長袖長ズボンの白い服は、泥で汚れ所々擦り切れていた。それよりも一行の目を引いたのは、可愛い顔なのに血色の悪い肌と骨と皮ばかりの瘦せこけた姿だ。意識を失っているのか目を瞑っている。


「まだ息があるニャ、ミリナちゃん、お願い!」

「はい!」


 直ぐさまミリナが回復魔法をかけると、暫くして意識が戻ったらしく目を開けた。


『大丈夫?』


 ミリナが、クムール語で話しかけた。


『た、食べ物……』


 少女はかすれ声で答える。


 水を分け与えると、本当に美味しそうにぐびぐびと水筒一本分を飲み干した。保存食にしていた干し魚もガツガツ食べて、やっと喋れる状態になったようだ。珍しい物を見るかのように5人を凝視する。


『あ、ありがとうございます。あなた達は誰? なぜ帝民服を着ていないの?』

「帝民服って、彼女の着ている服みたいなのか?」


 フィカがキャフに聞く。


「どうも、そのようだな」


 キャフはクムール語で彼女に呼びかけた。


『オレ達は旅の者です。船で大きな河を渡っていたら流されました』


 ちなみにキャフのクムール語は片言なので、何となく日本人英語っぽくても少々許してやって欲しい。ついでに言うと、少女の言葉はミリナが理解して翻訳し通魔石(コミュ・ストーン)で伝えている。


 キャフの話を聞いて少女は怯えた顔をした。


『そ、そうなんですか? 他の国の人と喋ったら鞭打ちの刑にされてしまうの。一緒に居るのを見つかるだけでお父さんお母さんも罰を受けるかもしれないの。ごめんなさい、もう行きます』


 少女は立上がりキャフ達から離れようとしたが、何か事情があるのか俯いてしばらく悩んだ顔をしていた。かなり思い詰めているようだ。そして意を決して話を始めた。


『……実は、皆を助けて欲しいんです』

『みんな?』

『私達は、囚われているんです。何とか私だけ逃げて来たんですが、他の子達も救いたいんです』

『どこにいるの?』

『この森の中です』

『オレ達も森の中に入りたい。でも入り口がない』


『そうですね。私も、ここからの入り方は分かりません。急いで逃げて来たので、こちら側に出てしまったんです』


 少女が出て来たという場所を調べても、草木が生い茂っているだけだ。彼女の背丈だから通り抜けられたのだろう。キャフ達はとても入れない。


『誰か追いかけて来る人がいるの?』

『は、はい! モンスターに乗った怖い兵士達が居るんです!』


「どうする? キャフ?」

「派手にやりたくはないが、助けるしかねえだろう」


 その時一行の背後から、砂漠を駆けてくる音がした。何事かと思い振り返ると、大きな砂漠トカゲ(デザート・リザード)が一直線に、奇声を上げながらこちらへ向かってくる。


「デカいな、あれ」


 キャフが言う通り、高さが三メートルはあった。


「今日の夕飯に、丁度良いんじゃないか?」 

「美味しそうだニャ!」


 フィカは自信たっぷりに剣を抜き、向かって行った。ラドルも後に続く。


 ギャオーー!!


 フィカの剣とラドルのファイアブレスで、あっけなく始末する。見事な連携だ。その後は皆で肉を切り取った。川から離れているので自前の水しか使えないのが辛いが、夜はトカゲの丸焼きを存分に賞味する。余った肉には塩を揉み込んで、夜中に乾燥させて干し肉にした。こうしてクムール帝国での一日目は過ぎた。

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