第077話 川岸の砂漠
前回のあらすじ
恋バナは良いから! クムール帝国に潜入だ!
もう陽も高くなり、霧は晴れかけていた。
だが船の往来は無く、向こう岸で何か動く物や人工の建物もない。接近して分かったが岸辺は潅木が立ち並ぶだけで、その奥は砂漠のような砂山である。潜入には絶好の場所だ。
「いよいよですニャ〜」
ラドルは気楽なもんだ。
「船はどうする?」
「帰りに必要だ。見つからないように潅木の陰に隠そう」
「それが良いな」
キャフは手頃な場所を見つけて船を付けると潅木の枝を切り取って敷き、その上に船を載せて5人で引っ張った。時間をかけて何とか無事成功する。
「ふう、ふう。疲れました」
「お昼にしたいニャ!」
確かにそろそろ昼時だ。しかし食糧が乏しい。
保存食は数日分しかない。今後を考えると、なるべく現地調達をしたく思う。
「モンスター狩りをするか?」
「それだったら、魚釣りが良いんじゃないか?」
ちょうど、キアナ達から釣り道具も譲り受けていた。
潅木の下は淀んでおり、魚もいそうだ。早速5人で釣りを始める。
……
なかなか釣れない。だがじっと待ち暫くすると、「あ、かかった」と皇子の声が上がり、バチャバチャと跳ねる活きの良い魚が釣れた。
「皇子、上手いですニャ!」
「そうかな? 初めてやったんだけど」
「才能ありますよ!」
「キャフ、お前はどうだ?」
「いや…… フィカこそ、どうだ?」
「……さっぱりだ」
と言う訳で小一時間ほど釣りをする。戦利品は主に皇子のおかげで、コイやナマズみたいなのであった。ラドルが火をおこし、ミリナが内蔵を取って、焼き魚や味噌煮込みにして食べる。
「見かけは気持ち悪いけど、いけますニャ」
「ちょっと焦げ過ぎだから、火力弱くしろ」
「分かりましたニャ」
「お腹いっぱいです」
「皇子、贅沢言わずちゃんと食べるニャ」
「まあ良いじゃないですか、代わりに食べますよ」
「あ、私も食べたいニャ!」
一通り食べ終わるとミリナに通魔石の粉を飛ばしてもらい、マッピングを始めた。
砂山は思ったよりも広く、五キロほど先に森があるらしい。
「クムール帝国には、冒険者がいるのか?」
「さあ。魔法使いはいるが、モンスター狩りをしているのかは知らないな」
「少なくともこの辺りに人工の建築物はないです。巨大モンスターも見つかりません」
「どうする? 森に行ってみるか?」
「夜までに辿り着くなら良いだろう。砂を歩くからブーツにしろ」
船を隠して荷袋を背負い、出発した。日は高いが気温はそれほど暑くもなく、湿度も乾燥気味なので徒歩移動に支障はない。周辺に注意を払いつつ、キャフを先頭に縦列で進む。
「砂は歩きづらいですね」
「そうだな。体力を消耗しないように気をつけろ」
突然、砂の中でザザッと何かが動く音がした。
キャフ達に数メートルまで近づくと、それは飛び跳ねて襲って来た。
「砂漠魔魚だ!」
砂漠魔魚とは、砂漠を泳ぐモンスター魚である。鯛ぐらいの大きさで華麗に泳ぐので、キャフの弓では捉えられない。
グサッ!!
後ろにいたフィカが真っ二つに切り裂き、事なきを得た。
その後も何匹か近づいては攻撃してくる。
川魚と違って美味しくないし、
クムールでは体内の魔石を換金出来ないので、捨てておく。
「居なくなったか?」
「ああ、そのようだ」
「きゃあ!!」
今度は、最後方にいたミリナが悲鳴をあげた。見ると、すり鉢状をした砂の穴にはまりこみずるずると落ちている。上がろうバタバタもがいても、なかなか上がれない。焦れば焦るほどはまっていく。
「す、砂に引きずられます! 魔蟻地獄です!」
穴の中央には、生贄を今か今かと待ち構えている魔蟻地獄の鋭い牙と口が見えた。殆どが砂に埋まっているので攻撃が難しい。
このままではミリナが犠牲になる。キャフは、キアナが使っていたロープをミリナに投げた。何とか掴んだミリナを、足元に気をつけながら4人で必死に引き上げた。
「はあ、はあ…… すいません。足元がふらついちゃって」
飲み過ぎだろうとつっこみたいが、言わないでおく。
「今はどの辺だ?」
「森と川の中間ぐらいですね」
「少し休むか? ちょうどあそこに、岩山がある」
「は、はい。ありがとうございます」
手頃な岩山にのぼり、休憩にした。
いつの間にかすっかり空は晴れ渡っていた。澄んだ青空が心を癒してくれる。
「なかなか上手くいきませんね。すいません」
「情報が無いからな。ここでもう一度マッピングお願いできるか?」
「はい、大丈夫です」
ミリナが再び通魔石の砂を風に乗せて飛ばし、マッピングを始めた。
「あ、森の中に何かありそうです。村ほどの大きさは無いですが、建物があります」
「そうか、ここは生態系も違うから気をつけて進もう。今日は森の手前で野営する」
そして一行は、先へ進んだ。




