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第075話 クエスト終了

前回のあらすじ


さすが皇子! そこにシビれる! あこ……、あ、間違った。

「え、今の、異空間(ディメンション・)転送(トランスファー)ですか?」


 ミリナは皇子の繰り出した魔法に驚愕した。


 AランクとかSとか以前に、魔法歴史書に記される伝説の魔法で存在すら疑われる代物だ。厳密には人間の使う魔法とは違うのだろうが、光も消え元に戻った皇子は不思議な笑みを浮かべただけで何も答えなかった。


(良く分からんが、助かった……)


 あのレーザーが、覚醒の起爆剤になったのかもしれない。

 仕組みは知らないけれど、ひとまず乗り越えた今の幸運に感謝する。


「う、うーん…… おい,キャフ、何でわたしが? おい? 何処に居る?」


 下の階からフィカの声がした。戻ってみると洗脳が解けたようだ。縄をほどこうと顔を真っ赤にさせながら、芋虫のようにもがいている。ちょっと意地悪したくなる姿でもあるが百倍返しされそうなので、キャフは直ぐに縄をほどいてやった。


「一体、どうしたんだ?」

「お前、オレ達を攻撃したの覚えていないのか?」

「は?」


 キョトンとするフィカであった。全く身に覚えが無いらしい。

 だが5人の顔から、自分が何かやらかしたのだと分かったみたいだ。


「魔導師に、洗脳されたんですニャ」

「そうだったのか…… 済まなかった。あ、そうだ、兄者達は!?」

「ああ、恐らく無事だ。様子を見に、下へ戻るか」


 一行が三階に下りると、廊下では先ほどまでキャフを襲ってきた第七師団の兵士達がなぜここに居るのかと言ったように茫然自失でお互い顔を見合わせている。ここに連れ去られる前に操り人形(マリオネット)にされたから、記憶が無いのだろう。


「ミリナ、けが人に回復魔法を頼む。魔素が切れそうなら応急処置だけで良い」

「分かりました」


 フィカは一刻も早く兄に会いたいようで、階段を駆け下りて行った。

 もう敵も居ないから、好きにさせてやる。


 残り4人は、今まで入らなかった左側の建物や二階も含め、兵士達から聞き取り調査をした。

 どの兵士も、モンスター生息域での任務中に囚われてここへ来たらしい。作業部屋の中を見ると、あのスライムから精製したらしき畜魔石(チャージ・ストーン)を削って、何かの機械にはめ込んでいた。


「これ、何に使うの?」

「おそらく、魔素を込めて燃料にして、自律型の何かを動かすつもりだ」

「何を?」

「一つの可能性は、動く石像(ゴーレム)だろう」


 あのオーク達の村で見た、奇怪な魔人を思い出す。

 ここはあの動力源を作る、工場の一つなのだろう。


「でも、作ってその後、どうするんだい、リーダー?」


 キアナが、もっともな意見をする。確かに、ここで作っても完成品にならない。


「それなら、地下に積出し用の船があるんです」 


 兵士の1人が答えた。


「船?」

「はい」

「ちょっと、連れて行ってくれ」


 兵士に導かれて行ったのは、地下に通じる階段だった。ただ崖の上に建てられているので水面はまだまだ下だ。キャフ達が来た昼間に固く閉ざされていた扉は開放され、中には兵士達の二段ベットが多数置かれている。ここは昼間、彼らが寝て休む待機所らしい。先導する兵士はそれらには目もくれずに先を進んだ。そこには、小さな階段があった。


「これです」


 兵士に導かれて下りて行くと崖下の洞窟に通じていて、入り江には船が一艘浮かんでいた。向こうにある洞窟の出口から、ほんのりと朝日が差している。


「出来上がった製品は、ここに詰め込みます」


 兵士の説明通り、船の中には畜魔石の完成ユニットが数個積み込まれていた。一つ一つはかなり大きくて、運ぶのに大人四人は必要そうだ。船に乗り込んで内部を調べると櫂もあり、キャフ達でも操れる。


「キャフ君、どうする気?」

「まあ、後で相談しよう。まずはフィカの所へ行くか」


 キャフ達が一階に戻ってくると、フィカと兄が泣きながら再会を喜びあっていた。一行も、もらい泣きしそうになる。2人の仲を邪魔しては悪いと思いつつ、キャフはフィカの元へと行った。


「はじめまして。このパーティーのリーダーをしているキャフと言います」

「おお、あなたが魔導師キャフ様ですか。思ったよりお若い。初めまして。フィカの兄の、ケニダです。今回は魔導師を倒してくれて、本当にありがとう」


「クエストでしたから、遂行したまでです」

「流石アースドラゴンを倒し、最先端の術式を開発してきただけの事はある。妹から聞いたけど、かなり世話になったようで」


「いえ、フィカさんには我々もかなり助けられました。それで今後をフィカさんと相談したいのですが、良いですか?」

「そうですか。実は妹に第七師団に来ないかと、いま勧めていたところです。こいつなら絶対合格するし、うまくいけば同じ駐屯地で勤務もできる」


 その言葉に、フィカは気まずそうにキャフから顔を背けた。心が揺れているようだ。それはそうだろう。ずっと探していた兄と、一緒に過ごせるかもしれないのだ。たった1人の肉親である。旅を続けろと言える筋合いは無い。


 ……


 しばらくの沈黙の後、フィカは口を開いた。


「……兄者、こいつは兄者が言ってたほど尊敬できる奴じゃないけれど、信頼できる奴だ」

「? そうなんだ」

「魔法が使えなくなってポンコツかと思ったが、弓兵としても意外と役に立っている」

「流石はキャフ様、何でも出来るのですね」

「いや、買い被りだよ。あんたの妹さんが特訓してくれたおかげさ」


 キャフは謙遜した。


「そして、こいつと旅をして分かって来たのだが、今クムール帝国で何かが起きようとしている。下手するとアルジェオン王国建国以来の危機が訪れるかもしれない。こいつはそんなに熱い奴じゃないがそれでもこの異常事態を理解して、アルジェオン王国の為に役立とうとしている」

「そうだったか。キャフ様、重ね重ね感謝申し上げます」

「あ、ああ」

「そしてその旅に私がいないと、いささか心もとない。こいつらを見くびる訳では無いが、やはり私の力が必要だ。だから、ごめん、もうしばらく旅を続けたいと思う」

「そうか……」


 ケニダも黙ってしまった。引き留めたいのだろう。兄として当然だ。

 だがそれよりも大事な旅であると彼も理解していた。


「その件、軍に報告しておくか?」

「可能なら助かる。だが軍人がクムール領内に入ると外交問題になる。実際のところ何が起きているのか分からないから、行くのはオレ達だけで十分だ。キアナは馬車でモドナへ戻ってくれ。少将にクエストの顛末も報告して欲しい」

「そうだね。分かった」

「兄者、ごめん……」

「そうだな…… とにかく死ぬなよ」

「ありがとう!」


 フィカはケニダと最後のハグをすると、決心したようにキャフ達の元へ戻った。自分達を選んでくれて皆は内心嬉しいが、やはり2人を思うと何とも言えない。


「じゃあどうするんだ? キャフ?」

「崖の下に船があった。幸い雨も止んで霧が出ている。渡河にはいい条件だ」

「分かった。準備をしよう」


 こうして、キャフ達はチグリット河を渡る準備をし始めた。

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