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第072話 夜の砦

前回のあらすじ


やっぱり砦に、何かいる!

 幽かに揺らぐ青白い光はぽつぽつと、キャフ達が探索した右側にも未探索の左側にも現れた。

 ゆらゆらと光が揺らめき、奥で何かが動いている。


「どうする、入るか?」

「はい」

「ラジャー」

「良いよ」


 キャフの呼びかけに応えるのは、ミリナとキアナに皇子だ。ラドルは少し怖がり、フィカに至っては微動だにしない。今までの経緯を見たので無理には行かせられない。


「お、皇子、怖くないかニャ? わたしと手を繋ごうかニャ?」

「あら、ラドルちゃん。そんなに怖いなら、わたしがしっかり握ってあげますよ♡」

 

 笑顔のミリナだが、目は笑ってない。また2人の間で火花が散っている。


「い、いやわたしは皇子を思って」

「僕は大丈夫」

「そ、そうですかニャ……」


 ラドルは、仕方無さそうにミリナの手を握る。どうも怖いのは本当のようである。


「今回は、わたし抜きでも大丈夫だろう? に、荷物の番が必要だよな?」


 フィカは勝手に待機を始めた。常に颯爽と先陣を切って駆け込む勇ましい姿は、微塵も見られない。しおらしく俯き少女のように震えている。


「ここにも来るかも知れないぞ?」 


 キャフが脅すように低い声で言うと、「ひゃぁ! や、やめろ! じゃあ一緒に行く!」とフィカは叫び、結局、全員が建物内部に入ることとなる。



「キャフ君、一番上に何かいるね」

「? 見えないぞ?」

「そりゃ見えないよ。漆黒の闇を纏った存在さ。よほど光が嫌いらしい」


 皇子の指摘が最初は分からなかったキャフだが、言われてじっと目を凝らすと、確かに、頂辺の見張り台に何かの存在がある。昼間と異なり砦には禍々しい気が充満し始めていた。


「行軍演習の時はここまでじゃなかったな。一年くらい前だけど」


 キアナは、うんざりした口調で言う。


「とりあえずこんなもんか。じゃあそろそろ行くか。準備しろ」


 キャフの命令に従い、皆フル装備に支度する。


「じゃあ、建物に入るにあたって、通魔石(コミュ・ストーン)を身につけろ。キアナは、使い方をミリナから聞いてくれ」

「了解」

「はい、どうぞ」


 キアナはミリナから石を渡され、布で左腕に巻き付けた。そしてミリナが何かやると、驚いた顔をして何度も腕に付けた通魔石(コミュ・ストーン)を見ている。2人で何度かやりとりをした後、キアナは感心して喋り始めた。


「これ、便利だね。軍に導入できないの?」

「いま、色々と改良中だ」


 これで、準備は整った。


「出来るだけ静かにしろ。音を立てるな。入り口に入ったら直ぐに右廊下へ進め。まずオレが最初に入る。何かあったら通魔石(コミュ・ストーン)で指示するが、何も言わなかったら順に後に続け」


 キャフはそう言うと、音を立てないように建物の中へと入っていった。


「次、誰かニャ?」

「一番弟子は、ラドルちゃんじゃないの?」

「え、ミリナちゃんに譲るニャ〜 フィカさん、いつものように先頭に立ってニャ?」

「いや、わたしはしんがりだ」


 絶対に譲らないと、フィカの顔に書いてある。


「列の最後の人が居なくなるって、ホラーで良くありますよね?」

「じ、じゃあ後ろから二番目で!」


 相変わらず話がまとまらないが、建物の中からは何も聞こえない。キャフが侵入しても、青白い光は特段の変化が無かった。何にせよ、今は時間をかけない方が良い。


「じゃあ、僕が行くよ」

「皇子! わたしも行くニャ!」

「じゃあわたしも!」


 と言う訳で、3人がそろそろと建物の中へと入っていく。彼女達の侵入後、悲鳴も上がらない所をみると、うまくいったようだ。こうなると、残されたフィカも行かねばならない。


「ほら、フィカさん。次だよ。自分が最後に行くから」

「わ、わかった」


 そう言って大きく深呼吸すると、覚悟を決めたように入って行く。


「やれやれ」


 キアナは間隔を置かず、フィカを見守りながらも辺りを警戒して侵入した。



 フィカとキアナが中に入って見た風景は、壁際に貼り付きそっと部屋の中を覗き込む4人であった。確かに部屋の中が、ほんのり明るい。壁つたいに音を立てないよう注意して4人の後ろにつく。キャフは中をじっと視ていたが、全員来たのを確認するとフィカ達に寄ってきて、通魔石(コミュ・ストーン)で会話を始めた。


『いる』

『な、何がだ? 幽霊(ゴースト)? 死肉体(ゾンビ)?』

『見てみるか?』

『いや、遠慮する。退治して居なくなってから見る』

『じゃあ、キアナ、見てくれ』

『分かったよ』


 キアナは前の方へ行き、そっと中を覗き込んだ。

 すると直ぐに気付いたらしく、困った顔をしながら後ろへと戻って来た。


『あちゃ〜、あのタヌキジジイ、こう言うことだったのか』

『やはり、そうなのか?』

『ああ、あの軍服は、第七師団の兵士だよ』

『そうか……』


 そこにいたのは、キアナも認めたように第七師団の兵士達だった。3人ほどいて、何かの作業をしている。ただしその動きはどこか不自然で、人間らしさがない。誰かに動かされている、という感じである。


『あれ、死肉体(ゾンビ)になってる?』

『いや、違うな。血色がまだ良い。恐らく操り人形(マリオネット)の魔法だ』

『しっかし、これを冒険者に何とかしろと?』

『おそらく軍も奪還を試みたが、返り討ちにあったのだろう』

『なんか策あるの?』

『魔法をかけている本人を倒すしか、あるまい』


 ゴトン!


 そのとき、遠くの廊下で物音がした。キャフ達が見ると、階段からやってきた来た兵士がこちらを向いている。


『まずいかな?』

『いや、脳を操られているから、彼らは聴覚や視覚が極端に鈍っている筈だ。やり過ごす』


 キャフの指示で静かにする一同。その兵士はこちらに近づいてくる。

 キャフ達に気づいてないようだ。

 手前の部屋に、用事があるのかも知れない。


 キャフ一同もその兵士の顔を見られるほどの距離まで接近した時、一番後方にいたフィカが、突然、


「兄者!!」


 と叫んで、その兵士に向かって走って行った。


「おい、ばか!」


 キャフが止める間もなく、走りゆくフィカ。そして魔法をかけられ部屋で作業をしている兵士達は廊下での出来事に気付き始め、部屋から出て来た。

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