第070話 幽霊砦
前回のあらすじ
石も金属も食べるスライム出現! どうする?
「何を入れる?」
「じゃあ、昨日食べた蛙の残りでどうニャ?」
「おい、それ金属じゃねえだろ」
「えっと、不味そうな石や金属を入れれば良いんですか?」
「ミリナちゃん、きっとそうだニャ!」
「でも何を? 不味い石なんて、軍でも習わねえな」
喧々諤々と話合いは続くが、まったく良い案は浮かばない。
「こう言う時はな、取りあえずやってみるもんだ」
そう言ってキャフは、近場にある黒い石をラスト・スライムに放り込む。モンスター相手では話し合うより実行する方がマシだと、今までの経験から分かっていた。
キャフが試みに投げ入れたその石は、ラスト・スライム体内に取込まれると瞬時に溶解し始めた。取込んだ箇所ははじめ黒っぽい色をしていたが、やがて拡散され消えていく。
「面白いですね」
実験が好きなミリナは興味津々の顔をして、近くにあった白い石を投げてみる。やはり同じように取込まれて溶解し、白っぽい色が拡散されていった。このような特性のせいかラスト・スライムの下は土しかなく、橋も木製だ。
他のメンバーも手元にあった石を次々と投げ込むものの、同じ反応の繰り返しであった。特段の変化はない。子供の遊びじゃあるまいし、こんな事を続けても延々と時間がかかるだけで、何も益を産みそうになかった。
「畜魔石は?」
「もったいないけど、やってみるか」
フィカの提案を受け、キャフは馬車から一かけら取り、放り込んでみた。
ピカッ!!
「え?」
「なんだ?」
「光ったニャ!」
畜魔石を取込んだ時、今までと異なりラスト・スライムが急に強い光を発したので、みな驚く。
そしてしばらくウネウネと動き体内で何か活動をした後に、ポンッと小さな石の結晶が吐き出された。キャフがそれを取りあげて、畜魔石をラドルの魔法杖に入れる。
ラドルは、軽く魔法を試してみた。
「凄い、炎のレベルが楽にあがるニャ!」
ラドルの言う通り、《ファイアーボール》の輝きが違う。
昨日の原石よりも更に、畜魔石の魔素蓄積能力が高くなったようだ。
「これ、良いんじゃない?」
「純度を上げてるのかニャ?」
「ああ、そうかもな。でも仕掛けは分かんねえな」
しかし今後の為にも、畜魔石の高純度結晶化は都合が良い。どうせだからとありったけの畜魔石をラスト・スライムにぶち込んで、結晶精製に励んでもらった。ラスト・スライムは期待に応え、どんどん結晶を産み出してゆく。
「このスライム、結構使えるな」
「でも、橋は渡れるのかい? キャフ君?」
「う、それは……」
皇子の指摘通り、畜魔石の精製には役立ったが橋を渡る手段は未だない。数時間かけてこれでは、何も進んでないのと同じだ。
「じゃあ、今度は通魔石を入れてみるか?」
「良いんですか? あれの思考が流れ込んでくるかも知れませんよ?」
「未知との遭遇?」
「確かに、何があるか分からんな」
「じゃあ念のため、皆通魔石を外しとけ」
キャフの指示に従い、通魔石を外した。そしてミリナが、馬車からこぶし大の通魔石を持ってくる。
「じゃあ、入れますよ?」
「ああ、早くしろ」
「楽しみだニャ」
「無駄だと思うけどね」
三者三様の言葉が飛び交う中、ミリナは意を決して石を投げ込んだ。
すると……
ボンッッ!!!
と爆発のような何かが起き、ラスト・スライムから煙が噴き出した。そして直ぐさま通魔石を吐き出し、そこを避けるようにズリズリと移動して行った。
「通魔石が苦手なのか?」
「何だか、ちょっと失礼ですね」
ミリナは自分の好きな通魔石を否定されたようで、複雑な顔をする。だがこれでラスト・スライム攻略法が見えた。
「じゃあ、通魔石でラスト・スライムを囲って、通れなくさせよう」
キャフの思惑通り、通魔石を橋の入り口付近に置き、馬車が通れる幅を確保する。ラスト・スライムが少しはみ出た部分は手でかき出した。
「うわ! ホントにヌルヌルするニャ〜」
金属部分のない魔導服を着ているラドルとミリナに任せ、何とか橋を通れる空間を確保することに成功し、馬車の準備をする。蹄鉄などくれぐれも触らないように細心の注意が必要だ。
「じゃあ、行くぞ」とフィカが鞭を入れ、馬車が動き出す。ゆっくりと進みラスト・スライムに接触しないように注意した結果、無事通過に成功した。
「ふう〜 面倒だったな」
「これで、幽霊砦に着くかニャ?」
「この距離なら、直ぐですよ」
キアナの言う通り、始めは小さく見えた砦が大きくなり、やがてレンガや割れた窓の様子がはっきりと確認できるようになった。馬車は無事、砦前の広場に到着する。
砦の周囲には空堀が張り巡らされ、跳ね橋が上がっていて入れない。
「あ、これなら大丈夫っすよ」
キアナは持って来たロープに重りをつけて投げると,上手い具合に跳ね橋の柱に巻き付いた。そしてこちらでもロープを固定すると、ロープにつかまりスルスルと向こう岸へ渡る。そして何か操作したところ、跳ね橋がギシギシと動き始め橋がかかった。馬車も通れる幅だ。
「じゃあ、行くぞ」
こうして一行は、幽霊砦へと入って行った。




