第007話 狼の襲撃
前回のあらすじ
謎の女騎士、現る。仲良くしたいな♡
始めは、旧道に立ちふさがる灰色狼一匹だけだった。
だがたちまち他の灰色狼達も群がって来た。
両脇の林の中から、幾つもの光る眼が様子をうかがっている。
ヒヒーン!!
怯える馬を、女騎士は手綱を引き締めてなだめる。そして腰に差してある鞘から剣を抜いた。女性向けで少し軽そうな剣だが、ロングソードを馬上でしかも片手で振るのだから、剣のスキルは高い。
「囲まれたな……」
「ああ」
女騎士は馬上で構えを崩さず、狼達を睨みつける。彼らも直ぐには襲ってこず、こう着状態が続く。やがて暗くなり始め、狼の銀色に光る目は、ますます怪しく輝き始めた。
「私がやるニャ!」
ラドルがステッキを振りかざし、狼へ向け魔法を発動させた。
プスンッ!?
「え?」
ゴブリンの時より遥かに小さな炎は、飛ばずにぱっと消える。
焚き火の種火ほどしかなく、これでは攻撃にならない。
「なんでニャァアーー!!」
ラドルは、思わず叫んだ。
「やはり畜魔石の充石量が、限界か……」
キャフには分かっていた。幾ら魔素を充石できるといっても、量に限界がある。だからまだ改良の余地を残した、未完成品だ。あいにく今はこれしか持っていなかった。
「し、師匠、どうしたら良いニャ?」
ビギナーズラックは何度も来ない。
自信は打ち砕かれ、ラドルは怯えた顔でキャフに尋ねた。
「仕方ねえな、貸せ。ちょっと待っとけ」
ラドルからステッキを借りて、キャフは畜魔石を外して手に握った。ぼわっと、拳に白い光が宿る。こうやって魔素を充石するしか、今は手立てが無い。時間との戦いだ。
じりじりと、灰色狼達が近づき始める。そして暗闇が訪れ月の光が増すにつれ、更に深刻な事態になったと、3人は理解した。
「お、おっきくなってるニャ〜!!」
最初に道を塞いでいた狼が、一回り巨大化し始めた。あれだけがモンスターで、ボスのようだ。
グルルル……
唸り声が腹に響く。いよいよ、臨戦態勢らしい。
* * *
「まずい、旧道は駄目だ。森に逃げるぞ! 付いてこい!」
女騎士を乗せたルーフは森の茂みにいる灰色狼の群れを飛び越え、奥へと駆けて行った。これをきっかけに、灰色狼達も続々と女騎士とルーフを追いかけて走って行く。
ウォン!! ウヮーーン!! ウウォーーン!!
「うわ、こっち来るな!」
「おいしくないから来ないでニャン!」
何匹かは、キャフとラドルを狙って襲いかかって来た。
2人は持っている荷物袋をめくらめっぽうに振り回し、狼達に噛まれないようにする。だがこのままでは、いつか襲われる。こんなのに食われたら、すぐ骨だけになるだろう。
「おら、これ!」
キャフは畜魔石を入れ直したステッキを、ラドルに投げ渡した。
「さんきゅーニャ!! いっくぞ〜! 《ファイアボール》!!」
ラドルは水を得た魚のように、勢い良くステッキを灰色狼達に向けた。
ボワッ!!!
キャイ〜ン、キャイ〜ン!!
あわれ灰色狼は炎の餌食となって黒炭と化し、死屍累々と横たわっていた。
「はっは〜 苦しゅうないニャ! きっもち良いニャ!!」
自分が有利になったせいか、笑いながら火を放つラドルは、放火魔みたいでちょっと危ない。だが瞬時に灰色狼達を退治できるのだから、今はラドルに任すしかなかろう。
灰色狼達を撃退し終えて周りを見る。どうもあの女騎士と、はぐれてしまった。
灰色狼の叫び声を頼りに進む。
「よし、ラドル、ちょっと先に行って騎士さんを助けてこい」
「え〜 気乗りしないニャ〜」
そう言いつつキャフの指示に従い、ラドルは森の奥へ進んで行った。
辺りはすっかり暗くなった。
キャフは不安になりながらも、ラドルが放つ炎を目印に追いかけた。
2人が女騎士に追いついた時、彼女は大きな樹を背に剣を構えて灰色狼達と対峙していた。馬が見当たらない。どうやら何処かへ走り去ったようだ。
「助けるニャ!」
ラドルがそう言ってステッキを向け、魔法を使おうとする。
だが、
プスッ!
「ありゃ、また切れたニャ〜」
再び畜魔石が切れた。さっきの戦闘で使い切ったようだ。
「意外に使い勝手が悪いニャ〜 師匠、もっと頑張れニャ!」
「おい、聞いてるぞ。おまえ、無駄づかいが過ぎるから、もっと大切に扱え」
「はにゃ!! ご、ごめんなさいニャ〜」
バカなやり取りとは無関係に、女騎士は真剣に灰色狼と向かい合う。
その表情に焦りは無い。自信があるのだろうか。
「そろそろやるか」
女騎士は、攻めの構えに剣を持ちかえた。
「待て!」
キャフは女騎士が無謀な特攻をするように感じ、思わず止める。だがその言葉に聞く耳持たず、女騎士は灰色狼に向かって走り込み、縦横無尽に剣を振り回した。
キャーーン!! キャウウーーン!
女騎士は、一分の無駄も隙も見せない華麗な剣術で、次々となぎ倒して行く。
常に次の攻撃を予測した巧みな剣さばきに、灰色狼達はあっけなくやられていった。
見とれるほどの美技は、以前城で観覧した宮中舞踊の剣舞を思い出させた。
確かにこの剣技があれば、灰色狼など怖れる必要はないだろう。
敵わないとみたのか、灰色狼達は、森の奥へと走り去って行く。
残ったのは、巨大化した件の一匹。
こいつは怯むどころか、仲間を殺された怒りで女騎士に襲いかかる。
グルグルグルゥ…… ガオォオオオーー!!!
グサッ!!
だが勢い良く飛びかかって来たボス灰色狼に、女騎士は一瞬で回り込み、剣で心臓を突き刺した。
グエェエエエーーー!!!
最後の雄叫びを残し、ボス灰色狼は動かなくなる。すべては終わった。




