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第069話 ラスト・スライム

前回のあらすじ


畜魔石、大量にゲット!


でも何かいる?

 そのモンスターは形が無かった。

 山のように盛り上がったり、沈んで地面に一面広がったりしている。

 手足や顔はないし、節や骨格のような構造物もない。


 少し透明で周辺の石と同じような光沢もあり、単に溶けた金属の集合体にも見える。無機質のようで生き物の臭いはしないものの、内部に水分が蓄えられているのか時折プルンプルンと震えている。そして明らかに自律運動をしており、自然法則に逆らって不規則に蠢く姿は何らかの生命体のようだ。


「スライムか?」

「どうやらそのようだな」


 橋の守護神であるのか、入り口にドロドロと立ちふさがっていて馬車が通れない。


「どうする?」

「この橋を通るしか他に道は無いんだけど?」


 キアナの説明では、このモノをどかさないと砦に辿りつけないらしい。

 橋の下を流れる川も幅が広くて深く、馬車で通過するのは無理そうだ。


 フィカはひとまず馬車を止め、やや離れた木に馬を繋いだ。

 そして回復した皇子も含め、全員が馬車から戦闘態勢で外に出た。

 この辺は沼地と違って足元の地面は固く、普通に歩ける。


「どうする?」

「先ずわたしがやってみる」


 フィカは剣と楯を構え、最善の注意を払って用心しつつそのモノへと近づいて行く。そのモノはフィカを特に注意を向ける事も無く、自由意志で伸縮している。感覚器の存在すら見た目では分からない。スライムは触れたものの感触しか持ってないとも言われている。


 フィカが試しに剣で突き刺した瞬間、刺した周辺が赤く変色し、モノは剣を包み込んだ。


「うわ!」


 珍しくフィカが大きな声を上げて驚く。


「どうした?」

「け、剣が溶けた!」


 フィカが皆に見せたのは、先が溶けて柄だけが残った剣であった。

 金属部分がごっそり無くなっている。お気に入りの剣だったのでかなり悔しそうだ。

 だが金属の甲冑も危険と判断し、フィカは後方に下がった。


「じゃあ、ラドルが凍らせてみるニャ!」


 そう言うとラドルはブリザードを唱えた。だが強い冷気を含む魔法がラドルの魔法ステッキから発せられてそのモノに触れた瞬間、それは金属のように硬質化しブリザードの効果が消滅した。


 炎系の魔法でも同様であった。ランクもアップした今のラドルなら普通のスライムは倒せる器量だ。しかしこのモノは逃げるでも無く、全く動じていない。


 その後,皆それぞれ攻撃を開始する。


 キャフの弓矢は飲み込まれ、食われてしまった。

 皇子やキアナは剣の材質を変えて攻撃したが、何れも溶け落ちた。

 ラドルより威力のあるミリナの火炎系魔法でも、効かない。

 妖しげな店で買ったお札も使ったが、当たり前に効果はなかった。


 打つ手なし、である。


「うーん……」

「これ、どうするニャ?」


 やがて日も沈み始めてきた。そのモノは夕陽を浴びて、赤みがかった光を反射し始める。半透明の物体は一時として同じ色彩を表さず見る分には綺麗で、万華鏡のように見飽きない。だがこれを何とかしなければ、キャフ達のクエストは終わらないようだ。


 幸いなことに、一定の距離をとればそのモノはそれ以上追いかけて来なかった。


「仕方ない、ここで泊まるか」


 予定より早く沼地を抜けたのだが、ここで足止めを喰らってしまう。冒険だから、予定通りに進まないのは仕方が無い。川辺なのでモンスターの襲撃を見張りやすいのは幸いだった。キャフらは橋から離れ、安全な場所を確保してテントをはる。皆多少の疲労はあるが、黙々と夜営の準備をした。


 焚き火をして夕食の用意をしながら、皆で話し合う。今日のメインディッシュは沼地で狩った魔蛙(モンスター・フロッグ)の太ももの丸焼きだ。ラドルの説明通り歯ごたえが鶏肉を柔らかくした感触で、とても食べやすく美味しい。


「師匠、どうするニャ? あんなモンスター、どうやって倒すニャ?」

「いや、正直分からん。スライムならお前のブリザードで一発だが、無理だな」


「キャフ君、あれはラスト・モンスターの一種だよ」

ラスト(RUST)・モンスター? あの金属を食べるモンスターか? でも、オレが知ってるのはリザードタイプだが」


「スライムが、その性質を食べたんじゃないのかな?」

「そうか、ありえるな。そうすると、かなり厄介だな……」


「対策はあるんですか、キャフ師?」

「金属や石が触れなければ、溶けないけどな。裸足で通れば行けるかもしれない」

「おいキャフ、馬車はどうするんだ?」

「あのスライムは上下にも動くニャ。少しでも金属が触れたら、たちまち喰われるニャ」

「ああ、分かってる」


 フィカどころかラドルにも即否定され、自分の妙案が浅はかであったと悟るキャフだが、少々見栄をはって誤魔化した。昔の自分だったらあんなモンスターは雷の魔法で倒すか、風の魔法で浮遊すればお終いだ。キャフの魔素なら、これくらいの馬車は簡単に浮遊させられる。


 だが今は不可能な身分である。もどかしいが現実を受け入れるしか無い。


「何か良い兵器は無いのか?」

「ある訳ないっす。あっても、底辺の自分には支給されないっす」

「確かに」


「もっと上流で川を渡るのは?」

「キャフリーダーが体洗ってた辺りっすか? けどあっちに道は無いです。それにこの川はところどころ急に深くなる箇所があるんで、川幅が狭くても馬車は危険です」


「どうする?」

「とりあえず、今日は寝るか」



 翌朝。やはりそのラスト・スライムは橋の前に佇んでいた。

 昨日と較べて特に大きくもなく変化ないが、うかつに攻撃もできない。


「キャフ君、何か良いアイディアは出たかい?」


 皇子が何気なく聞いてくる。お前の力で何とかしてくれよと言いたいが、止めておく。


「とりあえず、回りにある石でも食べさせるか」


 良い案とも思わないが、とりあえずやれそうな事をキャフは提案した。

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