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第068話 畜魔石の川

前回のあらすじ


さらば、ドメルテ。

「キャフ君、真っ黒だね」

「あ、ああ」


 馬車がガタゴトと揺れながら走り始めたとき、皆は喋る気になれず無言であった。モンスターも人も同じ命があるのだから、それを奪うのはいづれも等しく殺生だ。しかし一時期でも仲間であったドメルテを殺めた事実は、いかに相手がこちらを殺す気であったとはいえ、モンスターとは異なる複雑な心境がある。


 そんな中まだ気分が悪く横になっている皇子が、泥だらけのキャフを見て笑った。先ほどまで瀕死の状態だったのを思うと、軽口を叩くぐらい元気になった様子が皆をなごませる。


「師匠、大変だったですニャ」

「回復魔法、かけましょうか?」

「そうだな、助かる」


 キャフ達はミリナに回復魔法をかけてもらい、皇子の側で横になった。

 幸い他の3人がモンスターを警戒しているから、安心して休める。


(あいつは、幸せだったのだろうか……)


 馬車に揺られながら、キャフはドメルテを思い出していた。


 ドメルテという名前自体、偽名かもしれない。過去を隠して冒険者になる奴はいくらでもいる。ドメルテがどんな経緯で冒険者となり、どんな冒険をしてきたのか、誰も知る由は無い。だが大多数の冒険者も彼と同じように、人知れず消え去っていくものだ。


 彼が『闇の住民』であった可能性は限りなく高いが,今となっては確認のしようもない。いづれにせよ問題は、誰かが皇子を殺すつもりなら再び刺客がくるであろうという点だ。今後更に用心しなければならない。まさかキアナまで『闇の住民』ということはないだろうが、用心に越した事は無い。


 ただこれも、皇子が本来の能力を発揮すれば問題ない筈だ。しかし今回の一件でも、本性を現さない。逆にひ弱なイメージを振りかざすので、ミリナやラドルが甲斐甲斐しく世話をしようとする。


 今も毒で苦しんでいるのが、人間としてなのかドラゴンの特性なのか、いまいち不明ではある。まだドラゴンになりきれないのなら、再びやってくる襲撃に対応するのは困難かもしれない。


「そうなんだよ、キャフ君」


 まるで見透かしたかのように、皇子が小さな声で話しかけて来た。幸いフィカは馬を馭するのに集中し、ちょうど他の3人は別の話で盛り上がっていて、聞いていない。


「ぼくは、本当の姿になりきれていない。パワーも一瞬だけ。人間は、不自由だね」

「いつになったら、戻るんだ?」

「さあ。もう少しかも知れないし、まだ先かも知れない」

「いいかげんだな」

「自分の体なんて、誰も本当のことは分からないもんさ」


 キャフは、苦笑いするしかなかった。



 しばらく進むと、小さな川が現れた。

 沼地を水源にして、チグリット河へと流れているようだ。


「ちょうどいいよ、あの川で、体を洗ったら?」

「すまんが、そうしよう。 フィカ,止めてもらえるか?」

「? 何でだ?」

「体を洗おうかと思ってな」

「ああ、分かった」


 馬車を止めて、キャフは川へと急いだ。川の岸辺には、ゴツゴツと大きな岩が並んでいた。

 ちょうどいい具合に彼女達から隠れられる場所を選んで、川へと入る。


 洋弓と矢も汚れたので、水で丹念に洗った。下着は替えて、装具も良く洗う。

 洗い終わった装具を日干しさせてる間、川の中に入って体につく泥を落とす。

 特に髪は丹念に洗い、混じり込んだ泥を取ってすっきりさせた。


 一通り終わり川を見る余裕が出てきた、その時だった。


 ?


 どことなく見慣れた光具合に気付き、キャフは川の中にある石を拾ってみる。


(この石……)


 畜魔石(チャージ・ストーン)と似た琥珀色だ。試しに、魔素を込めてみた。すると他の石よりも輝きが続く。やはり、キャフの発見した畜魔石(チャージ・ストーン)と、同質のようだ。よくよく川底を眺めると、似た石は存分にあった。どうも、ここは畜魔石(チャージ・ストーン)の宝庫らしい。


「おい? ラドル?」

「はいニャ? って、師匠、ふく、服!」

「お、おおスマン。どうも畜魔石(チャージ・ストーン)の原石があるんだ。拾って行かないか?」

「ほんとですかニャ? じゃあ行きますニャ〜」


 そういうと、ラドルも一緒に石を拾い始めた。

 深さは膝程度で透明度も高いから、簡単に集められる。


「大漁ニャ〜」

「すまんな、沢山詰め込んで」

「いや、それくらいなら、速度に大して影響ないだろう」


 ぎっしり畜魔石(チャージ・ストーン)を詰め込むと、馬車は再び出発した。

 道は川沿いに進み、やがて遠くに建物が見えてくる。


「あれが、幽霊砦(ゴースト・フォート)か?」

「そうだよ」

「思ったより大きいですね」

「うん、五階建てだ。まだ三キロぐらい先だよ」


 キアナの言う通り、ちょっとした城のようだ。

 だがその手前にある橋を渡ろうとする時、何か蠢いているものがいた。


「何だ?」

「自分も見たこと無いであります、あんなの」

「どっちにしても、モンスターだろうな」

「ああ」

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