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第065話 星空の下で

前回のあらすじ


最初の難関は、落石の攻撃だ。

「ミリナ、防御(シールド)できるか?」

「やってみます!」


 キャフの指示で、ミリナは防御魔法の術式を発動し始めた。落石にも耐え得る防御魔法の術式は、既に獲得している。だが高ランクの魔法なので術式発動は難しいらしく、時間がかかっていた。


「ひえ〜 アワアワ」


 迫り来る落石の恐怖にラドルが悲鳴を上げる中、ミリナは何とか防御魔法を発動させると、青白い光が馬車全体を包み込んだ。


 ドーーンン!!


 その刹那、どでかい岩が真上に直撃して馬車全体がたゆむ。


「うわっ!!」


 流石のキャフも焦ったほど間近に迫った岩は、しかし馬車を破壊できずに崖下へと真っ逆さまに落ちて行った。ミリナの魔法のおかげである。


「ふー、流石にビビるぜ」

「どうやら、突破できそうだな」

「甘いよ、あんたら。ほら、あそこ」


 キアナが道の先を指さすそこには、今からやって来るキャフ達の馬車を待ち構えてトロール達三体が道を塞いでいた。まるで網を使って魚を追い込む漁師のようだ。


 まだ落石も続いており、下手に馬車を止められない。


 キャフ達の倍はある背丈で粗末な皮を羽織るだけの野性的な姿に加え、筋骨隆々の体格と人間にはない緑っぽい肌の色が、不気味さを増す。三体とも一振りでキャフ達を崖に突き落とせる大きく太い棍棒を持ち、勝利を確信しているのか不敵な笑みを浮かべていた。


「ああやって、生き残った人間共を食べに来るんだ」

「なんでこんな道を選んだ?」

「ここが一番、最短距離なんだよ。冒険者なんだからあれくらい倒せるだろ?」


 キアナの挑発に乗る訳では無いが、確かにトロールぐらい倒せないとここから先は厳しいだろう。しかし狭い道でどう攻撃するか、考えあぐむキャフであった。


 すると、


「キャフ、ここはあんたじゃないのか?」


 と、フィカが振り返って言った。


「ああ、そうだな」


 言われてキャフはフィカの意図を理解し、走る馬車から立ち上がり洋弓を構えた。

 フィカがスピードを落とし、ガタガタする振動もやや静まる。


 だが流鏑馬(やぶさめ)のように何かに乗りながら的に当てるのは、熟練を要する。よほどの手練でないと不可能だ。しかも弓兵(アーチャー)として日も浅いキャフでは簡単じゃない。


 しかし彼は、特別な矢を持っていた。それにこのクエストにあたって新規購入した洋弓は、数百メートルまでの的を当てられる優れ物だ。この条件なら不可能ではないだろう。


「ミリナ、防御を外して、追尾を」

「分かりました」


 …… ヒュッ!


 キャフはギュッと弓を引き絞り、揺れをものともしない集中力でトロール目がけ矢を射ち放つ。畜魔石(チャージストーン)通魔石(コミュストーン)をまぶした矢は青く輝きながらトロール目がけ飛翔し、見事心臓に深く突き刺さった。


 ギャァアアオオォオオ!!!!


 射たれたトロールは近くの木々で休んでいた鳥達が驚き飛び去るほどの悲鳴を上げて倒れ込み、崖から転がり落ちて行く。それを見て激高した他のトロール達は、こちら目がけ走ってくる。するとフィカは馬車を止め、キャフは先ほどよりも増した集中力で再び二の矢・三の矢を射ち放った。


 ンギャァアアア!!!

 ギュエェエエ!!


 それぞれ命中するとあっけなく崖の下へと転落し、闘いは終わった。


「おっさん、なかなかやるな」


 キアナは少し見直したように呟いた。ミリナの補助があるから、弓兵初心者のキャフでもこれぐらいの力はある。トロール達はかなり下まで落ちたので、残念だが魔法石の回収は無理そうだ。


「さあ、急ごう」


 フィカは再び馬に鞭を入れ、先を急いだ。



 モンスターがいなければ、紅葉も始まりかけた山中の旅はおつなものである。

 幸い、その後は落石の攻撃もなくなった。馬車は軽やかに疾走する。


「この道は、誰が作ったんだ?」

「ああ、元々はモンスター生息域(ハビタブル・ゾーン)じゃなかった頃に作った道だよ。幽霊砦も国境警備の名残さ。この道に限らずモンスター生息域(ハビタブル・ゾーン)の道は第七師団が補修している。軍人と言うより土方だね」


 そんな話をしながら、やがて馬車はデクスタ山の高台に到着する。事前情報の通り、キャンプをするには丁度いい場所だ。日も暮れ始めて来たのでテントを貼り,野宿の準備を始めた。


 キャンプ全体をミリナの通魔石(コミュストーン)で囲ってガードする。馬達は近くの木に紐でつなぎ、餌を与えた。無理をさせたかと思ったが予想以上に丈夫で、明日も元気に走ってくれそうだ。


 今日はモンスターを狩ってないので、持って来た肉や保存食を使うことにした。周りを調べると自生する芋を見つけ、一緒に加えて鍋にする。夜は冷えるからちょうど良い。訓練されているだけあって、キアナの料理の腕もなかなかだ。お酒もふんだんにあり、飲み過ぎないように楽しんだ。


「いっただきま〜す 美味しい♡」

「缶詰の肉を一緒に煮込んだから、丁度いい具合に味が沁み込んだね」


 満天の星空の下、皆で食べる食事は冒険の楽しみと言って良い。

 雲一つない空には、宝石のように様々な色をした星達が瞬いていた。


「あ、エルフ座が見えるニャ!」


 ラドルは空を見上げると、そのまま寝転んだ。


「こうすると、凄く綺麗に見えるニャよ〜 皆も見ようよ!」


 ラドルに促され、皆で草叢に寝そべる。

 確かに、視界が全て星に囲まれる様は圧巻だ。


「ふ〜 満腹ニャ 猫人座はどこかニャ?」

「あっちにはスノードラゴン座! アースドラゴン座も少し見えますね」

「へえ、あれがそうなんですか。何だか僕の方が小さいですね」

「え?」

「あれは狼座だな。北極星はあそこだ」

「綺麗ですニャ〜」


 ひとしきり夜空と食事を堪能した後、それぞれテントに入りぐっすりと眠った。


 翌朝。異常が無いか確認後、再び出発する。

 山を下りると予定では《魔瘴の沼地》に入るはずだ。


「今度は、どんなモンスターがいるんですか?」

「まあ、見てのお楽しみ」

「ええ〜 不安だニャ〜」

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