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第064話 鬼の山岳地帯

前回のあらすじ


案内役は、やっぱり変わった女の子。

「自分の家は軍人一家なんだけどさあ〜 おじさんは第二師団の中将、親父も第三師団の少将よ。で、にいちゃんも姉様も軍の学校にトップクラスで合格したんだわ。だから自分も同じ道を行けと、ずっと言われ続けたわ。けど勉強ができなかったんだよねえ〜 気付いたら家庭教師つけられて大変だったよ〜 友達は遊んでるのに一人だけ勉強させられる気持ち、分かる? 家も厳しくて、笑ってただけで怒られたんだ」


「そうなんですか」

「わたしも勉強は嫌いだニャ」


 キアナの告白に、意外な印象をもつミリナとラドルであった。厳格な家庭で育てられると、逆噴射するのは珍しくない。世のお母さんやお父さんも、気をつけた方が良い。齢を取ってからの反抗期ほど面倒くさいことはない。


「んでさあ、会話もついていけなくなるし、疎遠になっちゃうよね。学校もだんだんつまんなくなっちゃった。一応陸士に合格したときは両親も喜んでくれたけど、遊び過ぎちゃって成績は下の方。卒業して配属が第七師団と決まったら、急に手の平返しで冷たくなったよ。確かににいちゃんは近衛師団だし姉様は軍医学校だから、仕方ないけどさあ。自分も頑張ったんだよ? 子供を認めてあげようよ?」


 親は無意識にやってしまいがちだけれど、兄弟間のえこひいきも後々まで禍根を残すのが常だから止めた方がいい。


 勢い良く走り揺れる馬車の中、キアナの話は続く。初対面の時の口調は入隊後に矯正されていたのか、言葉遣いはこっちが地なのだろう。思った以上に愚痴っぽい性格のようで、よほどストレスが溜まっていたらしい。


「まったく大変だよ〜 上官の命令は絶対だし。あのじいさんは面白いけどさ」

「今の生活に不満なのか?」


 振り返りもせずに尋ねるフィカの言葉には、少し棘があった。


 フィカの身の上話を聞いているキャフは、彼女が第七師団に格別な思いを抱いていることを知っている。貧困生活から抜け出せたフィカ達にとっては、兄が第七師団に入れただけで嬉しかった。


 陸軍士官学校卒は最低限少佐までの出世が約束されるのだから、一兵卒で行方不明になったフィカの兄よりも彼女は十分恵まれた待遇だろう。


「そうだね〜 衣食住には不自由してないから、そこまで不満ではないかな。しっかし幽霊砦(ゴースト・フォート)か〜」

 キアナはフィカの想いに気付かない。フィカもそれ以上は言わなかった。


「あんたは行ったことあるのか?」


 キャフは、キアナに尋ねた。

 行った経験があるなら、旅の難易度は格段に変わる。


「演習目的地の一つだから、行った事はあるよ。けど中に入ったことはない。いかにも使い古された廃墟で不気味なんだよ。肝試しとか言って入って行った奴もいたけど。中の様子は聞かなかったな〜」

「そうか」


 とりあえず、道中の情報はあるようだ。


「なんでも昔捕まえたモンスターを使って、残虐な生体実験をしてたっていうぜ。だから恨んだ霊が徘徊しているって、もっぱらの噂さ」

「そうなんだ」


 フィカはこちらを向かないが、手綱捌きが荒くなる。

 ラドルの耳は少し垂れ下がった。やっぱり怖いのだろう。

 ミリナも、ちょっと俯き加減だ。


 キャフは気にしていないし、皇子(ドラゴン)は全く興味無さそうである。皇子(ドラゴン)は当然としてもキャフも過去の冒険で散々な目にあったから、怪力乱心の類いには免疫がついている。


 馬車の走る道はやがて坂になり、山へと上って行った。

 更に、道は崖に沿って進んだ。


「気をつけろよ。岩が落ちて来るから」

「何だって?」


 キャフがキアナにその意味を聞いたとき、パラパラと小石が落ちてきた。


 キャフが上を見上げると、山の上からゴロゴロゴロと大きな岩が、木々をバキバキとなぎ倒しつつ落下してくる。


「危ねえぞ!」

「ひえ〜!!」

「キャー!!」


 フィカが速度を上げたおかげか、岩がドシンと道を揺らし落下した地点は、幸いに馬車の後方で当たらなかった。岩はそのまま勢い良く崖を落ちて行く。直撃したらひとたまりもなかっただろう。


「多分トロールの奴らだけど、ここを通る人間めがけて岩を落してくんだ」

「マジで!」


 その後も落石は続き、フィカが操る馬車は巧みに避けながら崖道を疾走した。

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