第060話 川辺の廃墟
前回のあらすじ
恋人つなぎで、魔法もパワーアップ!!
あの火柱に巻き込まれたのか、ギルドに戻ってもドメルテはいなかった。それよりもクエストを受付に問い合わせたら、数年前のクエストで既に無効だと言われた。
「騙されたのかい、キャフ君?」
「どうやら、そうらしい。すまん」
確かに、日付を確認しなかったキャフのミスだ。4人の視線が痛い。
ただ、モンスター昆虫の魔法石や樹液自体は高額取引されているようだ。だから十万ガルテほどじゃなくても、良い稼ぎにはなった。ぎりぎりの所で面目を保てたようだ。
久々の魔法発動は少々無理をしたようで、キャフは体が重く感じる。昔もそうだったが、齢をとって更に回復が遅くなった。一方ラドルとミリナは、キャフより気が抜けたようにぼーっとしていた。自分の能力以上の発動したせいだろう。キャフの域に達するのは、未だ未だと言える。
「しかし、キャフ君は相変わらず強いね。今度生まれて来るアースドラゴンは、あの攻撃も想定しなきゃいけないんだ。大変だね」
皇子の言葉に、キャフは身震いする。いま敵に回したらヤバい。
「ま、今日は久しぶりに家に帰るよ。次の冒険はどうするの?」
「ああ、少し情報収集するから、もう少しかかる。あのおっさんの素性も知りたいしな。お前がいると面倒事も起きそうだから、決まったら連絡するでも良いか?」
「そうだね。よろしく」
奮発して今日はタクシー馬車に乗る。途中皇子を下車させてホテルへと戻った。馬車の御者は皇子ではなく使用人の子供と思っているような、素っ気ない対応だった。
風呂にはギルド近くの銭湯に入って私服に着替え済みだから、ホテルに着いてやることは食事ぐらいだ。ルームサービスやレストランの食事も飽きたし、どうせ明日はオフにするので、夜のモドナへ繰り出すことにした。
4人であちこち歩き回りながら、夜景を見下ろせる小高い丘にあるレストランに決める。海の幸をふんだんに盛り込んだ料理をテラスで楽しんだ。丸テーブルで、両脇がラドルとミリナ、対面にフィカが座る。
ちなみにこの世界の海産物は生で食べると危険なので、大抵煮込んだり、焼いたり茹でたりと加工してある。ラドルはさんまの塩焼きにはまったようで、何匹も頼んでばくばく食べている。キャフはウニの貝焼きを堪能していた。ご飯と一緒に食べると、とても美味しい。
「いや〜 ラドル様も、強くなって来たニャ!」
「そうだな」
「師匠を抜くのも、時間の問題だニャ!!」
酒が入ったら、とたんに上機嫌になり始めるラドルである。やはり死と隣り合わせの冒険生活が続いて、気が張っていたのだろう。ミリナも手酌で飲み始めている。明日の予定がないせいか、食も酒も進んだ。海風に吹かれ酔いも深まる。
「皇子がいたらな〜 ミリナちゃん、通魔石で呼出せないニャんか?」
「やってみます! ……ダメですね」
「そっか……」
携帯で呼出すような感覚だが、向こうが身につけていなければ応答する筈が無い。あいつが付けているとは思えないから無駄な努力だろう。
「これで、明日からどうする?」
フィカはまだ酔ってないのか、冷静に今後の話を聞いてきた。
「やはりランクアップの為にも、クエストが良いんだろうな」
「今度は掲示板からとってこいよ」
「ああ、済まなかった」
「……師匠の手、あったかいニャ」
隣にいたラドルは、急にキャフの手をすりすりしてきた。
「そんなこと言って、お前皇子がいたら、あっちいくんだろ?」
「そ、そんなことないニャよ! 師匠が一番ニャ! あの時も怖かったけど、師匠のおかげで倒せたニャ! 皇子はなんというか、アイドルみたいなもんですニャ!」
「わたしも、キャフ師についていきます! あの魔法、最高に気持ちよかったです!!」
2人とも、酔っているのか積極的にからんでくる。心中複雑ではあるが、悪い気はしない。たらふく食べて飲んで4人とも千鳥足になりながら帰り、部屋に戻って直ぐに寝た。
その日以来、ドメルテを見る事はなかった。ギルド内で彼の素性や行方を聞いてみたが、めぼしい情報は得られなかった。ソロプレイヤーだったからか冒険年数が多くても顔見知りの程度で、知り合いと呼べる知り合いは居なかったようだ。評判は良くも悪くもなかった。三十年前を知る冒険家はいないので、今に至る経緯も情報はなかった。
ただ1人、これも十年この辺りでソロ活動しているプレイヤーが、気になる話をしていた。
「そう言えば、モンスター生息域内で、誰かと会ってるのを見たな」
「誰だ?」
「この辺の奴じゃねえ。話してた相手は似た齢の男で、クムール帝国人の帝民服を着ていた。だから余計に気になったんだ」
「帝民服?」
「あの国の一般的な服装さ。金がねえから国が服を作ってやってんのよ」
「じゃあ、あいつはクムール帝国のスパイなのか?」
「それにしても動機が分からん」
「皇子を殺害対象にした可能性は? 身バレしていたのでは?」
「無いとは言えねえか……」
だがそうすると、暗殺を失敗して依頼主から消された可能性もある。いずれにせよ、現時点でキャフ達が知れる事実はないだろう。
その後も冒険に勤しみ、着々とモンスターを倒してランクアップに励んだ。今ではキャフも弓術を少し極めつつあり、ランクもEまでに上がった。もう直ぐDにいける。他のメンバーはフィカ、ミリナ、皇子がCランク、ラドルがDランクになった。装備もかなり良くなって、周りの冒険者と較べても遜色ない。
そんなある日のこと、掲示板を見ていたら不思議なクエストの募集があった。
『募集』
チグリット河沿いにある廃墟砦の除霊
希望ランク C〜B
希望人数 五人前後
報酬 十万ガルテ、馬車支給 希望次第で案内者同伴
依頼主 第七師団
「除霊?」
「お化けが出るニャんか〜 ちょっとヤだな」
「でもお金は良いですよ。幽霊なんて、居ませんから」
「いや、ここは止めた方が良いだろう」
「フィカ、もしかして幽霊怖いのか?」
「な、何を言う! わ、私は依頼が気にくわないだけで、ゆ、幽霊なんて……」
「キャフ君、そもそも除霊ってどうやってやるんだい?」
「分からん。とりあえず、話を聞いてみるか。チグリット河付近は第七師団の管轄だ。いずれにせよ、関わらないとお隣さんの話は聞けねえしな。あいつらが状況を把握しているのかも、知りたい」
「わ、分かった。兄者のためにも、行こう」
「すまんな」
キャフはポスターの下にある連絡用の紙切れを破り、受付へと持って行った。




