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第059話 インセクト・フォレスト

前回のあらすじ


ベテラン冒険者と一緒に、昆虫の森へ行く。

 昆虫は、別の生物種として全く異なる進化をたどったらしい。


 約4億8000万年前に出現したのが最初と言われている。だが爆発的に有翅昆虫が出現した約3億2500万年前までの間は『六脚類の空白』の異名を持ち、化石が見つかっていない。そのため進化過程が不明瞭で、昆虫だけ宇宙を起源とする説もある。


 普段は小さいから気にならないが、虫眼鏡なんかで拡大して見ると、なかなかに、あれだ。あれが人間の大きさ以上に巨大化したと思うと、卒倒する人もいるだろう。書いておいて何だが、自分もあまり好きでは無かったりする。だからリアルな描写は控えるので、各自お好きなように想像していただきたい。



 その森は、正に虫達の天国であった。至る所に、モンスター昆虫がいた。


 魔蝶(デビル・バタフライ)凶暴蟷螂(キラーマンティス)魔蜂(モンスタービー)などなど——


 どれもが気楽に餌を漁り、我が物顔で闊歩している。

 幸いに此処まで冒険者が来ないのか、昆虫達は人間を敵視しない。

 直ぐ側を通り過ぎても、攻撃してこなかった。

 はじめ警戒していた6人も、森を見渡す余裕ができた。


 森の真ん中には、樹齢百年以上はあるであろう太さの立派な大木がそびえ立っている。そこから滲み出す豊潤な樹液が、虫達の餌場となって沢山集まっていた。ここから樹液を回収するには、こびりつくように樹液を舐めている虫達を一瞬でも遠ざけねばならない。確かに、あれだけの報酬金が出るわけだ。かなりの難事業である。


「どうする?」

「倒すしかねえだろ。ラドル、火炎系の魔法でこいつらを追い払えないか?」

「やってみるニャ ファイアブレスト!!」


 ゴオォオオ!!


 ラドルのランクも上がったおかげで、今では絨毯のように厚い炎が樹木めがけ発動した、虫達は慌てて飛び去って行く。その隙に、樹液を回収してビンに詰めていった。時間はかかるが確実だ。


 Cランクだけあり、ドメルテは逃げるモンスター昆虫達を倒しながら同時に樹液も回収している。クエスト限定の仲間なので、予め魔法石や樹液の回収は別個に行う協定を結んだ。


「ゼエ、ゼエ…… ちょっと魔素使い果たしたニャ〜 ミリナちゃん、お願いニャ」

「うん、分かった」


 何度かやったら、ラドルの魔素が限界になったらしく、肩で息をしている。

 代わりに今度は、ミリナが魔法を発動し始めた。彼女は回復系の魔法を中心に取得しているが、攻撃系の魔法もCやDランクの相手に十分通用している。CどころかBにランクアップも直ぐだろう。この冒険生活が、彼女の潜在能力を更に高めたようだ。


 思ったより剣や矢でダメージを受けるモンスター昆虫は多く、慣れるとキャフ達もモンスター昆虫を倒し、魔法石を集め始めた。黄色や緑といった珍しい色が多い。高く売れるだろう。動きが遅い幼虫系の昆虫などは、キャフの弓でも仕留められた。


「そろそろ終わりでどうだ? キャフ?」

「そうだな。ここから持って行くのも大変だし、この辺にしておくか。量はこれで足りるのかい? ドメルテさん」

「ああ、にいちゃん、予想以上のデキだよ。さすがだな。あ、そうだ。さっき見つけたんだが、奥にちょうど良いのがもう一本あったぜ。俺が木の上まで上って取って来るよ。お前さんらもついて来てくれ」


 ドメルテの言うがままに付いて行った先には、一際大きな大木があった。

 樹液が見えないくらい、昆虫達で溢れている。

 それだけ虫達の人気スポットなのだろう。


 その木をドメルテは、器用に上って行った。

 下手に魔法を使うとドメルテを傷つけるので、魔法の発動は控える。


 ドメルテは上の方で何やらガサガサとやり始めた。しばらく待っていたその時、


 ヒューーーーン ザサ、ザサッ ドスン!


 と何かが落ちて来て、やがて大きな墜落音がした。


「わるいな、にいちゃん。俺も頼まれてるんでな」


 そう独り言を呟くと、ドメルテは木から木へ飛び移り、何処かへと去って行った。




「何だ?」


 ドメルテが落として来たそれは、巨大な蜂の巣であった。


 しかも、猛毒をもつ殺人蜂(キラービー)だ。

 巣を壊された蜂達は怒りに身を任せ、目の前のキャフ達に迫って来た!!


 ブーーン、ブーーンと、無数の羽音がこだまする。


「ヤベえ。ミリナ、まず全体防御!」

「はい!」


 ミリナの防御魔法発動で、辛うじて5人は難を逃れた。だがその周りには、殺人蜂(キラービー)の大群が群がっている。解除したら直ぐに襲われて死ぬ。ブンブンとうなる不気味な羽音のハーモニーが、耳につく。


 しばらく経っても事態は何も変化無かった。今から夜になると、夜行性の昆虫達が活発化するかもしれない。これはヤバい。


「どうする?」

「仕方ない、ラドル、オレと一緒に魔法発動だ」

「え、皇子の前で師匠と手を繋ぐニャんか?」

「僕は何とも思いませんよ」

「うー、は、恥ずかしいニャ…… じゃあ皇子とも手を繋ぐのは?」

「僕、魔素ありません」

「しゅん」


 キャフを慕って一緒に旅に出たあの可愛らしくもいじらしいラドルは、既に居なかった。緊急時だと言うのに、無駄なことにがっかりして耳と尻尾が垂れている。


 結局、おやじより美少年が好きなのは世の常だ。それを否定する女性も少数派だろう。女なんてそんなもんと思いつつ、男も同じと気付いていないキャフであった。不機嫌になりかけるが、ここでグダグダ言っても始まらない。


「良いからやるぞ!」

「分かったニャ。あ、どうせならミリナちゃんも一緒にやるニャ」

「仕方ないですね」


 ダンジョンの時とは真逆のテンションで、てきとうに魔法杖を差し出す2人。キャフも一緒に触ると、魔素がみるみるうちに充填される。最近は弓兵としての戦闘しかやってないから、かなり溜まっていたようだ。


「お、強くなって来たニャ〜 力がみなぎるニャ!!」


 さっきの調子とは打って変わって、ラドルはやる気になったらしい。「もうちょっと、この方が力出そうニャ」のリクエストに応えて握り返したら、いつの間にか指をからませ恋人つなぎになっていた。


「ミリナちゃんもどう? この方が強くなれそうニャよ!」

「え、キャフ師、良いんですか?」

「ああ、良いぞ」


 これでも可愛い弟子達だ。要望に応じるキャフであった。2人分を充填しても、キャフの魔素が尽きることはない。これでもキャフは歴戦の勇者だ。殺人蜂(キラービー)の群れなど、魔法を使えたら簡単に突破できる。

 それに対し握った2人の手は、どちらも恐怖で汗をかいていた。冷静なキャフの手の温もりが、幾分焦りを減らしたらしい。幾ら皇子に興味がいってても、師匠としての信頼は未だあるようだ。とにかく、目の前の殺人蜂(キラービー)を倒すのに集中する。防御魔法を解除した一瞬が総てだ。


「よし、ミリナ。今から三つ数える。三と言ったら、防御魔法を解除しろ」

「はい!」

「一、」

「二、」

「三!!!」


 そのとき凄まじいまでの炎の柱が昆虫の森一帯を襲い、総てを焼き尽した。


 その様子はモドナのギルドや第七師団どころか、ギムの城からも観測できた。

 火山活動かと勘違いした気象庁が誤報を出したくらいだ。

 暫くして震動も何も起きないことが分かり、魔法の発動だったと理解されたらしい。


「また、やっちゃいましたね」


 一面真っ黒濃げになった昆虫の森を見て、ミリナはつぶやいた。

 残念ながら、もう魔法石や樹液はとれないだろう。

 環境破壊は一瞬だが、回復には長い歳月を擁する。


 仕方ないと思いつつ、キャフ達はギルドへと戻った。

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