第058話 ベテラン冒険者
前回のあらすじ
今日も元気にノベルアッ、じゃないランクアップ!
「あんたんとこか、最近イケてるパーティーってのは?」
ある日のこと、通魔石でマッピングに勤しみ新たなフィールドを探索し終え帰途につく最中、草原でソロの冒険者に声をかけられた。今日のキャフ達は魔猪、凶悪鹿や暴野牛を二〜三匹ずつ仕留め、魔法石と経験値を稼ぎ、肉や皮も併せてギルドに持って帰る途中だ。
結構な収穫ではあるが、5人に分配するとそれほど多くはない。ランクもEからDばかりで、この調子では、Cになるまで時間がかかりそうだ。やはり思ったようにはいかない。だから最近は、戦術変更を思案中であった。幸い、キャフも弓兵の役割を何とかこなせている。「弓は骨で引け」のフィカのアドバイスを受け、無駄な力が入らなくなった。ラドルもミリナも、日に日に逞しくなっている。この調子で早く進みたい。
だが今は、より経験値を積める場所を探すのが課題になっている。徒歩かつ日帰りで行ける範囲は、ほぼ踏破した。馬は高価だから、そろそろ野宿しつつ奥地へ行くべき時期のようだ。
ちなみに冒険者ギルドが発行する地図は、大まかな地形しか記述されていない。モンスターの出現場所やダンジョン等のポイントは、他の冒険者達の結果にもよって日々変化する。だから自分達で何とかするしか無かった。
「ああ、そうだが」
キャフは、やや警戒して返答した。
話しかけてきたその冒険者は男で、キャフよりも年齢が上のようだ。装備も着古された年代物であるのを見ると、ベテランだろう。無精髭で表情は少しくたびれているものの、まだ冒険者魂はあるらしく目付きは鋭い。だがタグはCランクで予想外に低かった。今日の獲物も、キャフ達一人分と較べてやや少なく見える。
低ランクにも関わらず凶暴猿人を仕留めたキャフ達の話は、冒険者内でも広まったらしい。近頃はギルドにいる時、以前よりも視線を感じる。だが彼らとの交流は最小限に留め、ひたすら魔法石と経験値の取得に務めた。それがどう思われているか知らないが、少なくとも今のところ面倒事には巻き込まれていない。
キャフは経験上、他の冒険者達を信用してなかった。やたらと馴れ馴れしく話しかけて来る冒険者は、ほぼ裏があると思って良い。そもそも一攫千金を狙う者同士、裏切ったり寝首をかくなんて日常茶飯事だ。信用する方がどうかしている。
「俺はドメルテってんだ。モドナでの冒険歴は三十年近い、おっさんさ。お前らにおあつらえ向きのポイントがあるんだが、どうだ?」
男は、無視されずにすんで、安堵していた。
「どこだ?」
「昆虫の森って言うんだ。ここから南東に向けて、一泊すれば行ける距離だ。知っての通り、モンスター昆虫の魔法石は特殊だからな、金も経験値も貯まりやすい。直ぐCランクに上がれるぜ」
「そうか」
「ちょうど、クエストもあるんだ。これさ」
男の差し出した紙を、五人は覗き込んだ。
『募集』
モンスター昆虫の森の奥にある、樹液の回収
希望ランク D〜C
希望人数 五人前後
報酬 十万ガルテ
依頼主 モリナゴ乳業
モドナギルドの公印も押されているから本物だ。キャフ達は縛られるのを好まなかったので、クエスト募集の掲示板を見ていなかった。
「十万ガルテ、ってかなりの高額報酬だな」
「だろ? 六人で分けても十分おつりがくる。俺はソロプレイヤーだ。だがもう齢だからこのチャンスを逃したくねえから、兄ちゃん達と出来ないかと思ったって訳さ。悪い話じゃねえだろ?」
「何で樹液ごときが高額なんだ?」
「おそらく昆虫達の作る樹液だろう。健康に良いって言われるし、色んな用途があるらしい」
「そうか」
話す間に、橋へと着く。渡り終えるとお互いギルドへと行き、魔法石と経験値の結果を記載する。夕方だから他の冒険者達でごった返していた。
無事に記載を終えると、「じゃ、ここで。気になったら明日の朝、声をかけてくれ」と言って、ドメルテはギルドを出て雑踏の中へと消えて行った。
ホテルに戻り、5人で夕食をとりながら、その話になる。
「どうする?」
「胡散臭いニャ〜」
「まあ、どこもそんなもんさ」
「でもお金も欲しいし、早くランクアップをしたいのも、事実ですよね……」
「そうだな、どうせ遠出するんだ。受けてみるか」
翌朝、キャフ達はギルドで彼を見かけると声をかけた。承諾の返事に意外そうな顔をしたが、「そうか、俺を信用してくれるか。じゃあ、今日から一緒に行こうぜ」と、その場で決まる。
野宿用にキャンプ道具を背負っているので、移動力の低下は避けられない。体力を消耗しないようにモンスター出現の少ない場所を選び、東南の方向へと進んだ。休みながらも夕方までずっと移動なのでかなりの距離を進んでいる。木や岩も、キャフ達が見たことのない風景であった。
そろそろ日も暮れかけて来た頃、ちょうど良い大きさの岩山が現れた。
「じゃあ、この辺で泊まるか。俺はワイワイするのが苦手でね。朝になったら起こしてくれ」
そう言うとドメルテは少し離れた場所にモンスター除けの魔方陣を発動し、テントをはった。キャフ達もテントを作り、ミリナの魔方陣で警戒しながら野宿した。
「皇子、モンスター生息域でのお泊まりは怖くないかニャ? わ、わたしが添い寝しても良いニャよ♡」
ジュルジュルとよだれを垂らしながら、ラドルが聞いて来る。
皇子の本性を知ったらとても言えない言葉だが、キャフは黙っていた。
「大丈夫ですよ、キャフ君と一緒に寝ますから」
「そんなの不健全です!」
「師匠、いつの間にたらし込んだニャんか?」
2人の下らない抗議に耳を貸さず、それぞれのテントで夜を過ごした。
翌日。場所はチグリット河に近いらしい。段々と森が湿っぽくなり、クヌギの木等が増えて道の両脇の薮が背丈より高くなり始めた。ムッとする匂いが、モンスター昆虫のフィールドであることを感じさせる。
ガサガサ! ガサ!!
近くで、大きな何かが蠢く音がした。6人とも警戒態勢をとる。
「居るな、モンスター昆虫だ」
キャフの予想通り、目の前の薮から鋭い角を持った凶悪カブトムシが現れた。立上がれば人より大きく、高さも腰のあたりまである。Dランクのモンスターだ。
「ひえ〜!!」
「慌てるな、昆虫の殻は固いが、関節部は剣が通る。六本の足を狙え」
「良く知ってるね、兄ちゃん」
道が狭いのでまずフィカが先頭に立ち、角を避けながら剣で前足を一本切り裂いた。ギーギー鳴きながら突進して来るところを、ラドルの火炎魔法で怯ませる。しばらく闘いが続いたが、無事に勝利した。
「殻を持って行くのは難しいな」
「ああ。でもこの角は、高く売れるぜ」
そう言ってドメルテは、頭から角を切り落とした。魔法石は緑で、確かに今まで見なかった種類だ。
「先を急ごうか」
ドメルテに促され、薮に囲まれた道を進む。ジメジメして汗が出てくる。更にしばらく行った先は、今までにない不思議な木々の森であった。
「ここだな、昆虫の森は」




