第057話 激闘の成果
前回のあらすじ
楽勝楽勝、と思ったら、大きいのがきた!
『モンスター生息域でのサバイバル術』より
<兇暴猿>
通称 キラーエイプ
生息地 森の中
攻撃 歯と爪で噛んだり引っ掻いたり。スピードが速い。集団で襲撃してくると危険。
弱点 火系の魔法
対象冒険者 Eランク(集団攻撃の場合はDランク)
<凶暴猿人>
通称 キラーコング
生息地 森の中
攻撃 知性あり、道具を使った連携攻撃もあって厄介。皮膚は毛に覆われて硬い。
弱点 関節部分
対象冒険者 Cランク
中英社刊
凶暴猿人達は、バキバキと音を立て枝から枝へとつたいながら5人の前へ姿を現した。枝をしならせ樹上からこちらを見る姿は、明らかに今まで狩っていた凶暴猿より強力だ。真っ黒な毛むくじゃらの体毛で覆われ、両手両足はとても長い。真っ赤に光る眼が狂気を宿している。
「ヤバいな、これ。三体もいるし、Cランクの冒険者でも倒すには難儀するぞ。とにかく、固まってるとまずい。散開しろ!!」
キャフの命令で、4人は周囲へと散らばった。今までの経験でチームワークは抜群だ。
凶暴猿人達は5人の様子をしばらく見ていたが、おもむろに一匹が地面に下りて手身近にある木を一本引っこ抜くと、ミリナに向け投擲した。一番運動能力が低いメンバーを見極めていたようだ。幸い、ミリナの予測能力で回避に成功する。
これを機に、三対五で攻撃が始まった。だがフィカや皇子の剣では、あの体毛に覆われた皮膚を傷つけるのは難しいようだ。ラドルのファイアーボールやキャフの弓も、相手の動きが速過ぎて命中しない。ミリナの回復魔法による後方支援を受けて何度も攻撃するが、与えたダメージは少なく向こうの動きは変わらない。
しばらく応戦してもダメと悟った5人は、間合いを取って相手の出方を探る。
『どうする? リーダー』
逃げながら、フィカが尋ねて来た。
『まずは一匹、アキレス腱を狙えるか?』
『あのスピードでは簡単では無いが、やってみよう』
『じゃあラドル、木に登ってあいつの眼にフィアボールを撃てるか?』
『はいニャ!』
猫の特性を生かし、木に登って凶暴猿人の一匹に近づいて行った。ピョンピョンと、器用に木から木へと渡っていく。こんな芸当キャフ達には出来ない。
やがてタイミングを見計らい、ファイアボールを顔面に撃ち込んだ。
ギャォオオオ!!!
見事命中し眼が見えなくなった凶暴猿人は、動きが止まりめくらめっぽうに辺りを攻撃し始めた。そこを見計らいフィカの剣が足元を切り裂く。
やはりアキレス腱付近の皮膚は他より薄く、腱を切られた凶暴猿人はギャーーッと叫び、ドシーン!!と倒れ込む。続けて皇子とフィカ2人で心臓を一突きすると、最後に大きな叫び声をあげ、絶命した。
だが、休まる暇はない。
『気をつけて! 上から来ます!』
ミリナの指示とほぼ同時に、もう一匹の凶暴猿人が飛び降りて来る。2人とも、その前に凶暴猿人の死骸から離脱して難を逃れた。あと二匹だ。
ドスン、バキバキバキ!!
更にもう一匹は、木の上から石や木の実を5人に投げ付け始めた。地上と樹上からの二面攻撃作戦だ。あちこちに木や岩が飛び交い、5人は軽い傷を受ける。とにかく相手の動きを止めなければならない。
(やれるか?)
キャフは逃げながらもチャンスを伺い、矢を上空へと射ち放った。軌道を見極めたのか、目標の凶暴猿人は余裕の笑みを浮かべ、避けようとしている。
『ミリナ、追尾機能を頼む!』
『はい!』
その瞬間、何の変哲もなかった矢が青白く輝き、目にも留まらぬ速さで凶暴猿人の右目を討抜いた。畜魔石と通魔石混合の、特別仕様だ。
フギャァアアアアア!!! ドサッ!!
予想外の攻撃を受け、地上に落ちて来た凶暴猿人は、更に兇暴になる。二匹とも地上に降り立ち、怪我をした凶暴猿人は太い木を根こそぎ引き抜いて振り回し始めた。もう一匹は、近くの石や折れた枝を5人に投げつける。
元気な方を4人で引き付け、再びフィカが手負いの凶暴猿人を背後から襲った。フィカの華麗な剣技で、倒れ込む一匹。歩けなくなった凶暴猿人は、もはや敵では無かった。先ほどと同様に、心臓を貫かれ息絶える。
最後の一匹となった凶暴猿人は形勢の不利を悟ったようで、森の奥地へと消えて行った。5人ともギリギリであったが、何とか勝利した。
「や、たニャ……」
ラドルは、肩で息をしている。
「みんな良くやった。魔法石を取って、毛皮と肉を剥いで持って行こう」
「分かりました」
「了解だよ」
「承知した」
5人で手分けして、赤い魔法石を二つ取り出す。その後毛皮と肉も切り出した。重いし大きいしとかさ張って大変であったが、5人で協力して換金所に持って行くと、良い値段で取引された。
「おめでとうございます、ランクアップです!! キャフ様がGからFランクへ、ラドル様がFからEランク、リムロ様がEからDランクです! 残りの2人も、もう直ぐですよ!」
「良かったニャ! 使える魔法も増えるかニャ?」
「公式のでしたら、ここに繋げると、可能な術式が入りますよ」
そう言って受付嬢は、魔法協会が管理する術式コネクトにラドルの魔法杖を繋げた。
「そうニャのか。どれどれ…… ファイアボールとアイスボールの威力が一段階上がったニャ! 他にも風系魔法が一つ追加ニャ!」
「良かったですね!」
出だしは順調だ。その日はホテルで祝杯をあげた。




