第056話 キラーエイプの森
前回のあらすじ
最初に会ったモンスターは、おさるさん。
「えい!、えい!」
「ラドル、無駄に撃つな! ミリナを中心に据えて陣形を整える。一定距離を保て」
「了解」
「凶暴猿は、鋭い歯と爪が武器だ。接近戦はするな。一個体ならEランクで対処できるが、こうやって集団で襲って来るとDランクレベルだから、油断するな」
キャフの指示で、4人はミリナを囲んだ形に位置する。各自<通魔石>を腕に携帯しているから、ミリナの指示が瞬時に伝わる。
『フィカさん、右から二匹来ます!』
『分かった』
『皇子、左に隠れている一匹に気をつけて』
『ありがとう』
『ラドル、正面から来る!』
『はいニャ!』
シドム達とやっていたように、ミリナの索敵能力はかなり優秀であった。これなら、集団で襲って来る凶暴猿でも相手にできる。攻撃対象を的確に捉えれば、ラドルのファイアボールやキャフの弓も十分なダメージを与えられた。同属相手にムナ皇子はどうするかと思ったが、別に何の感情も持たずに攻撃している。そこは割り切っているようだ。
凶暴猿達は次々と倒され、やがて敵わないと悟ったのか、叫び声を上げながら森の奥へと逃げて行った。最初の戦闘は快勝だ。
「やったようだな」
「魔法石、一杯あるニャ!」
「ミリナ、遺体の場所も確認頼む」
「はい」
新たなモンスターが来ない事を確認しながら、遺体から魔法石回収に励んだ。遠隔攻撃で倒したから、木々を乗り越えたり草叢に隠れてしまったりと、なかなか時間がかかる。
「猿の肉は、あまり美味しくないんだよな。取引もされてない。キャフ、脳みそ持って行くか?」
「うーん。かさばるし、今回は止めておこう」
「分かった」
回収用の荷物袋に、赤紫の魔法石を入れた。十数体分ある。これなら三十ガルテくらいになるだろう。この辺りが凶暴猿の出現領域であるなら、ここに何日か通って魔法石を貯めることでラドルやキャフは1ランクアップできそうだ。序盤はこういう狩り場の確保が必要なので、候補の一つとして良いかも知れない。
「終わったが、今からどうする?」
「とりあえず、この地域の地図を作るか。ミリナ、頼む」
「分かりました」
ミリナが通魔石の砂を風に乗せ、周りに拡散させた。森だから木々が多いが、それなりに地形の把握は出来るようだ。特に気になるダンジョンやポイントも無い。だから他の冒険者も来ていないのかも知れない。
「今日はここまでにしよう。明日もここに来るか」
「ラジャーですニャ!」
意気揚々とギルドへと戻るラドル達であった。二階の鑑定所で魔法石を鑑定してもらい、予想通り三十ガルテを得る。今回得た経験値の割り振りはリーダーの役割だが、皆の同意を得て、ラドルとキャフを2、他は1の比率にした。
このようにして数日、凶暴猿の森へ赴き、経験値と魔法石を貯めて行く。順調だ。もう少し貯めて、他の場所へ行こうか。そう考えていたある日。馴れたやり方で攻撃していたが、突然、凶暴猿達が慌てふためいた叫び声を上げながら去って行った。いつもと様子が違う。
「何だ?」
ドシーン、ドシーン、バキバキバキ!!
凶暴猿より二回り以上大きいそれは、凶暴猿人であった。




