表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/231

第052話 美少年の正体

前回のあらすじ


え、こいつの正体って……

「そうじゃ。あの痛みと苦しみ、片時も忘れてはおらぬぞ!!」


 2人きりになると突如口調も変わり、この前のように体が青白く光り始めた。何よりも、目付きがヤバい。オーラが段違いで、ラ◯ウや超サ◯ヤ人が霞むほどのド迫力である。


「ここで主を異世界に転送させようか? それよりも全ての爪を剥いで指を切り、手足を順に落としてのたうち回る様を見るのも、一興だな」

「お、おい。それじゃお前が殺人容疑で怪しまれないか? まだ第四皇子でいたいんだろ?」

「なーに、皆の記憶を改竄すれば良い」

「◯撃の巨人かよ!」


(ヤベえ……)


 明らかに逆恨みしている。いや実際に仕留めたのはキャフなので、逆恨みじゃない、本気で恨んでる。殺されたのだから、確かに恨まれて当然だ。覗きがばれた時みたいに土下座で謝っても、許してもらえないだろう。


「いや、まあ、あの時は悪かったよ。オレも若くてさ」

「何、謝るのか? 儂はお主らと本気で闘った事を誇りに思うのに、無かった事にするのか? 儂の死はそれほど軽かったのか? それは死んだ儂への更なる冒涜であるぞ!」


 逆に彼の怒りに火をつけたらしい。掌から光の塊が大きくなっている。喰らったらヤバい奴だ。


 あわ、わ、どうする?!


 今の事態を切り抜けられる見当が、キャフには全くつかなかった。とにかく逃げるしかない。恐怖で足が震えながらも部屋から逃げようとしたとき、



「……と言いたい所ですが、今は何もしませんよ」


 急にドラゴンは、元のムナ皇子の姿に戻った。光の塊も消えている。

 キャフは精神的に疲労困憊で、白髪になって燃え尽きそうだ。


「……そうなのか。いや、混乱し過ぎて何が何だか……」

「ご安心下さい。今直ぐには取って喰ったりしません。何より、僕もまだ覚醒し切れていない。その為にも、モンスター生息域(ハビタブル・ゾーン)に戻らねばならないのです」


「? そう言えば、あいつ倒したの二十年前だけど、お前、今幾つだ?」

「十万三千八百二十歳ですよ。転生してからは二十歳ですが。ドラゴンだから、成長遅いんです」

「え、じゃあラドル達より?」

「年上です、転生抜きでも」


 見かけはどうみても第二次性徴の前で、声変わりも無いボーイソプラノだ。女装させても、十分にそこらの女の子より器量良しだろう。それが二十歳と知ったら、あいつらはどう思うだろうか。


(逆に可愛がるかもな……)


 言わないでおこう。


「それより、なぜモンスター生息域(ハビタブル・ゾーン)に戻るんだ? 第四皇子の身分を楽しめば良いんじゃないか?」

「そうとも言えないのです。あそこは僕の場所ですから。それに事情もあるので。向こうに行ったら教えますよ」

「? お前、オレ達に付いて来る気なのか?」

「ええ、最初からそのつもりですが。何か?」

「……あ、いや。まあ、その……」


 まさかハーレムを脅かされたくないから来るなとは、大人として言えない。下手すると、あいつらからも見捨てられる。断る理由を必死に考えたが、今は未だ見つからなかった。


「今の僕でも、人間で言うAランクだから彼女達より上です。役に立つと思いますが? キャフ君が魔法使えないなら、尚更ですよ」

「あ、まあ、そうだな……」

「大丈夫、仲間であれば、背後から撃ったりしませんよ。それに……」

「それに?」

「僕を討った相手って、魅力的なんですよ。生物は誰しも、自分より強い存在に憧れますからね」


 そう言うと、ムナ皇子はキャフの側へと寄って来た。さっきとはまた違う眼をしている。まるで、好きな相手に言い寄って来る様子だ。


「僕は見かけは男だけど、どっちでも無いですよ」

「ちょっと待て,オレにそんな趣味はない」

「大丈夫、もう少し覚醒すれば女にもなれますから」


 近づくムナ皇子から、キャフは離れた。屈託の無い笑顔をされても、恐怖が残るだけだ。だが断ったら消されるだろう。完全な脅迫である。

 正体を知ってれば、『闇の住民』からの襲撃をかばう必要もなかった。こいつ1人で倒せたはずだ。今更ながら後悔するキャフであった。


「しかし、じゃあ何であの時、あんな所にいたんだ?」

「僕も世間では人間ですからね。むやみと魔法は使えないですよ。あの時は、ちょうどお付きの者と冒険者ギルドに行って来た帰りで、馬車が強襲されたんです」

「なぜ?」

「さあ。案外、姉さんや兄さん達かも知れません」


 第一皇女ルーラは今のアルジェオン女王である。この国は、一番最初に生まれた子が王になるしきたりだ。先代王が亡くなってまだ一年も経っていないから、正式な戴冠式はもう少し後だ。でも今の王国は、実質彼女が仕切っている。評判は良く分からない。第一、第三は王位継承権を表すので、他に第二皇女もいるが、キャフには興味の無い話であった。


「そろそろ仕度が出来た頃です。行きましょう」


 ムナ皇子に促され、キャフは3人達の待つ部屋へと戻った。3人はおしゃべりに夢中だったようだ。仲が良いのは、冒険者として大事である。その様子にキャフも癒された。


 晩餐会はムナ皇子を取り囲み、盛大に催された。その場でも執事から「皇子が冒険に行きたがってるが、仲間がいなくて困っている」と、相談を受ける。


「僕は、キャフ君と一緒がいいな。何せ、昔アースドラゴンを倒した英雄だよ!」

「それはそれは。そのようなお方であれば、私達も安心でございます。どうでしょうか。皇子も加えて頂けないでしょうか?」

「あ、ああ」


 アースドラゴンを倒した肩書きも、今は捨てたい。だが目の前にいるドラゴンは、時折威圧的にキャフを睨んでいる。キャフに選択肢はなかった。


「ありがとう。じゃあ、明日迎えに行くね。帰りは馬車使っていいから」

「ご高配、痛み入ります」


「ムナ皇子、じゃあまた明日ニャ〜!」

「よろしくお願いします」

「ええ。では御機嫌よう」


 晩餐会も終わり、リム皇子に見送られてホテルへと戻る。3人は上機嫌だ。


(前向きに考えるか……)


 確かに、戦力としては悪くない。とにかくこいつらのレベルを上げて一人前に仕立て上げるのが、師匠の役割だ。旅の行く末を案じながらも、今は何も考えたくないキャフであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ