第052話 美少年の正体
前回のあらすじ
え、こいつの正体って……
「そうじゃ。あの痛みと苦しみ、片時も忘れてはおらぬぞ!!」
2人きりになると突如口調も変わり、この前のように体が青白く光り始めた。何よりも、目付きがヤバい。オーラが段違いで、ラ◯ウや超サ◯ヤ人が霞むほどのド迫力である。
「ここで主を異世界に転送させようか? それよりも全ての爪を剥いで指を切り、手足を順に落としてのたうち回る様を見るのも、一興だな」
「お、おい。それじゃお前が殺人容疑で怪しまれないか? まだ第四皇子でいたいんだろ?」
「なーに、皆の記憶を改竄すれば良い」
「◯撃の巨人かよ!」
(ヤベえ……)
明らかに逆恨みしている。いや実際に仕留めたのはキャフなので、逆恨みじゃない、本気で恨んでる。殺されたのだから、確かに恨まれて当然だ。覗きがばれた時みたいに土下座で謝っても、許してもらえないだろう。
「いや、まあ、あの時は悪かったよ。オレも若くてさ」
「何、謝るのか? 儂はお主らと本気で闘った事を誇りに思うのに、無かった事にするのか? 儂の死はそれほど軽かったのか? それは死んだ儂への更なる冒涜であるぞ!」
逆に彼の怒りに火をつけたらしい。掌から光の塊が大きくなっている。喰らったらヤバい奴だ。
あわ、わ、どうする?!
今の事態を切り抜けられる見当が、キャフには全くつかなかった。とにかく逃げるしかない。恐怖で足が震えながらも部屋から逃げようとしたとき、
「……と言いたい所ですが、今は何もしませんよ」
急にドラゴンは、元のムナ皇子の姿に戻った。光の塊も消えている。
キャフは精神的に疲労困憊で、白髪になって燃え尽きそうだ。
「……そうなのか。いや、混乱し過ぎて何が何だか……」
「ご安心下さい。今直ぐには取って喰ったりしません。何より、僕もまだ覚醒し切れていない。その為にも、モンスター生息域に戻らねばならないのです」
「? そう言えば、あいつ倒したの二十年前だけど、お前、今幾つだ?」
「十万三千八百二十歳ですよ。転生してからは二十歳ですが。ドラゴンだから、成長遅いんです」
「え、じゃあラドル達より?」
「年上です、転生抜きでも」
見かけはどうみても第二次性徴の前で、声変わりも無いボーイソプラノだ。女装させても、十分にそこらの女の子より器量良しだろう。それが二十歳と知ったら、あいつらはどう思うだろうか。
(逆に可愛がるかもな……)
言わないでおこう。
「それより、なぜモンスター生息域に戻るんだ? 第四皇子の身分を楽しめば良いんじゃないか?」
「そうとも言えないのです。あそこは僕の場所ですから。それに事情もあるので。向こうに行ったら教えますよ」
「? お前、オレ達に付いて来る気なのか?」
「ええ、最初からそのつもりですが。何か?」
「……あ、いや。まあ、その……」
まさかハーレムを脅かされたくないから来るなとは、大人として言えない。下手すると、あいつらからも見捨てられる。断る理由を必死に考えたが、今は未だ見つからなかった。
「今の僕でも、人間で言うAランクだから彼女達より上です。役に立つと思いますが? キャフ君が魔法使えないなら、尚更ですよ」
「あ、まあ、そうだな……」
「大丈夫、仲間であれば、背後から撃ったりしませんよ。それに……」
「それに?」
「僕を討った相手って、魅力的なんですよ。生物は誰しも、自分より強い存在に憧れますからね」
そう言うと、ムナ皇子はキャフの側へと寄って来た。さっきとはまた違う眼をしている。まるで、好きな相手に言い寄って来る様子だ。
「僕は見かけは男だけど、どっちでも無いですよ」
「ちょっと待て,オレにそんな趣味はない」
「大丈夫、もう少し覚醒すれば女にもなれますから」
近づくムナ皇子から、キャフは離れた。屈託の無い笑顔をされても、恐怖が残るだけだ。だが断ったら消されるだろう。完全な脅迫である。
正体を知ってれば、『闇の住民』からの襲撃をかばう必要もなかった。こいつ1人で倒せたはずだ。今更ながら後悔するキャフであった。
「しかし、じゃあ何であの時、あんな所にいたんだ?」
「僕も世間では人間ですからね。むやみと魔法は使えないですよ。あの時は、ちょうどお付きの者と冒険者ギルドに行って来た帰りで、馬車が強襲されたんです」
「なぜ?」
「さあ。案外、姉さんや兄さん達かも知れません」
第一皇女ルーラは今のアルジェオン女王である。この国は、一番最初に生まれた子が王になるしきたりだ。先代王が亡くなってまだ一年も経っていないから、正式な戴冠式はもう少し後だ。でも今の王国は、実質彼女が仕切っている。評判は良く分からない。第一、第三は王位継承権を表すので、他に第二皇女もいるが、キャフには興味の無い話であった。
「そろそろ仕度が出来た頃です。行きましょう」
ムナ皇子に促され、キャフは3人達の待つ部屋へと戻った。3人はおしゃべりに夢中だったようだ。仲が良いのは、冒険者として大事である。その様子にキャフも癒された。
晩餐会はムナ皇子を取り囲み、盛大に催された。その場でも執事から「皇子が冒険に行きたがってるが、仲間がいなくて困っている」と、相談を受ける。
「僕は、キャフ君と一緒がいいな。何せ、昔アースドラゴンを倒した英雄だよ!」
「それはそれは。そのようなお方であれば、私達も安心でございます。どうでしょうか。皇子も加えて頂けないでしょうか?」
「あ、ああ」
アースドラゴンを倒した肩書きも、今は捨てたい。だが目の前にいるドラゴンは、時折威圧的にキャフを睨んでいる。キャフに選択肢はなかった。
「ありがとう。じゃあ、明日迎えに行くね。帰りは馬車使っていいから」
「ご高配、痛み入ります」
「ムナ皇子、じゃあまた明日ニャ〜!」
「よろしくお願いします」
「ええ。では御機嫌よう」
晩餐会も終わり、リム皇子に見送られてホテルへと戻る。3人は上機嫌だ。
(前向きに考えるか……)
確かに、戦力としては悪くない。とにかくこいつらのレベルを上げて一人前に仕立て上げるのが、師匠の役割だ。旅の行く末を案じながらも、今は何も考えたくないキャフであった。




